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04. 残された三人

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4


「基地は爆破されるし、一輝は撃たれちゃうし……。配属先が決まって安心したのも束の間、私たち、入隊初日からハードね……」みつほは組んだ両手を頭上に掲げて思い切り伸びをした。すぐに息を吐いて脱力する。


 手元にある資料を必死に読んではいたものの、どれだけ文章に目を通しても、肝心の内容が頭に入ってこない。そのことに、彼女はかなりの苛立ちを感じていたけれども、表に出すわけにはいかない。ぐっとこらえて平静を装い、いつも通りの自分を演じている。


 頭では、今は与えられたことだけをやらなければいけないのは百も承知している。でも、そう考えれば考えるほど、頭の中に浮かんでくるのは一輝のことばかり。本当だったら、こんな文章なんて読んでいる場合ではないのだ。


 なんなら、今すぐにでも飛んでいきたい。でも、それは絶対にできない。


 軍隊、仕事というのはそういうものだ、という現実を、まざまざと見せつけられている気持ちだった。否、普通の仕事だったら、仲間が撃たれて瀕死になるなんてこと無い。普通の同僚だったら、飛んでいきたいなんて思わない。


(なんか、よくわからない……)


「みつほさん、少し休憩したらどうですか」隣に座る千草が心配そうな表情でみつほの顔を覗き込んだ。


「んーん、私は大丈夫」はっとしたみつほは、作り笑顔で応えた。「一輝もみんなも戦ってるのに、私だけこんなことで弱音吐いてられないもの」


「一輝さんのこと……、心配ですよね」


「うん……、そりゃあまあ、同じ部隊に配属されたメンバだから……」


 みつほ、千草、巧の三人は、ニーナに命じられ、自然研究所の三階にある資料室で待機中だった。今後のためにも、現在起きている占拠事件のような超緊急案件に対応する際の、NARDSF専用対策マニュアルに目を通しているのである。


 分厚いマニュアルの表紙には、『NARDSF緊急対策マニュアル 占拠テロ編』と書かれている。


 他にも、『爆破テロ編』『水源テロ編』『山岳テロ編』など、数々の対策マニュアルが、テーブルの上に山のように積まれている。


 資料室は、図書館のように書棚が並び、かなりの広いスペースだった。


 天井には、ホースのように長い蛍光灯がたくさん取り付けられていて、とても明るい。三人は入り口付近の読書スペースに座って、昼過ぎから五時間以上もここにいたが、三人の他には誰の出入りもなかった。


「なんで私たち、出動させてもらえなかったんだろうね」みつほが、資料を掴む手元を見つめながら、ふいにぼやいた。


 先ほどから、黙ってじっと資料に目を落としていた巧が顔を上げてみつほを見た。その後、千草と顔を見合わせてから、もう一度みつほに視線を戻した。「俺だってあいつらと一緒に行きたかったぜ。でも長官命令なんだ、仕方ねえだろ」


「でもさ……」


「この基地を爆破した奴らだってまだ捕まってないんだ。どこかに潜伏しているかもしれないし、基地全体を手薄にするわけにはいかないんだろ」


「でもさあ、首相官邸占拠だよ。こんな大事件なのに動けないなんて……」みつほは不納得そうな顔でつぶやく。「私たち、なんのために軍隊入ったのよ」


「本当は怖いくせに」巧は、嫌味っぽく笑って資料に目を戻す。「私じゃなくてよかったって思ってんじゃねえのか?」


「べ、別に怖くないわよ!」みつほは、両手で抱えた資料の角でテーブルを小突く。「私、そんなに弱くありませんー」


「だったら、事件を大小で区別すんな。与えられた任務を粛々と遂行する。それが軍人の基本だろ」巧はみつほを一瞥する。


「そりゃあ、そうだけど……」みつほは頬を膨らませて口を尖らせた。いつもの定番である。「本当、許せない! なんでテロリストなんているのよ」


「みつほさん……」千草は、顔を紅潮させて怒るみつほを見ながら眉を下げた。


「ねえ、巧くん、どう思う?」


「どうって……」顔を上げた巧は困り顔で苦笑した。「いきなりそんな根源的な話、急に振られてもな……。世の中には色んな考えをもった奴らがいるんだから、仕方ないっちゃあ仕方ないだろ」


「じゃあ巧くんは、テロとか殺人とか戦争が起きても仕方が無いっていうのね」みつほは目玉を三角にして食い下がる。


「いや、別にそうは言ってないだろ」巧は、小さく吹き出した。「ただ、俺たち軍隊が正しいとか、テロリストが絶対に悪いとか、そうやってなんでもかんでも決めつけちまったら、それは、テロリストの奴らと同じじゃねえかって思うだけだよ」


「どういうこと……?」みつほは(いぶか)しげな顔で首を傾げる。今頃、彼女の頭上には、無数の透明なクエスチョンマークが浮遊しているだろう。


「言葉にうまくできねえな……。なんて説明すりゃいいんだ……」巧は、軽く舌打ちをして、独り言のように呟いた。


 しばらく間が空いた後、二人の顔を交互に見遣って様子を伺っていた千草が口を開いた。「多分、巧さんが言おうとしていることって、こういうことじゃないですか。国を守ろうとする人たちも、テロを起こす人たちも、どちらも自分たちが正義だって思っているって……」


「そう! そういうことだ千草」巧は指を鳴らして、得意げに千草を指差した。


「えー、じゃあ、テロが正義なの……?」みつほは千草の顔を覗き込むようにして聞いた。


「あ、いえいえ、そういうわけじゃないです」千草は、弁解しようと、必死に頭と手を振ってジェスチャした。「でも、私、思うんですけど、多分テロとか事件を起こす人たちは、多くの場合、自分たちがやっていることが悪だと思っているわけではないと思います」


「そりゃそうだ」巧が頷く。


「それに、テロをする人たちにも、それなりの言い分とか価値観、正義とかがあって……、それに基づいて行動しているんじゃないかなって、時々思うんです。私たちの常識や一般的な社会から見れば、人を殺したりするテロ行為は当然悪いことです。でも、テロリストの方たちにとっては、世間一般側の社会こそが悪いものなののかもしれません。そういう見方もあるかなって……」


「ねえ千草……」みつほは、まじまじと千草の顔を見てからゆっくりと言った。「テロリストの方たちって、なんか、言葉変だよ」


「あ、そ、そうですね、確かに。すみません……」千草は頬を赤らめて俯いた。


「別に謝らなくてもいいけどさ」みつほは軽く苦笑して、千草の二の腕を指で(つつ)いた。


「そもそも、いいとか悪いっていう言葉自体が、すげえあやふやなもんだろ。見る角度や立場が変われば、どちらが正義でどちらが悪かなんて、簡単に変わる。相対的ってやつだ」


「んー、分かるような分からないような……」みつほは首をひねる。


「俺たちの一方的な視点から見れば、俺たちは単純に正しい。でも、俺たちのやろうとしていることを面白くないと思う相手から見れば、俺たちはただの悪者だ。善悪なんて、所詮そんなもんだろ。どちらも絶対的なものじゃない。だから、自分だけの考えで物事、白黒決めつけたり、どちらが悪かを断定したりし過ぎることは危険だって俺は思うぜ。まあ、そういう凝り固まった価値観で視野が狭くなるからこそ、テロなんてこと、やろうとは思うんだろうけどな」


「でも、暴力で解決しようとすることはよくないと私は思う」みつほはきっぱりと口にした。


「そりゃそうだ。でも、俺たち軍隊も、テロも、どちらも形が違うだけで、暴力には違いないぜ?」


「それはあ……、そうだけど……」みつほは口ごもる。


「もちろん、俺たち軍隊は国家を守る為にあるわけだし、罪のない無関係な人を殺したりするわけでもねえから、厳密に言えばテロリストとは大きく違うとは思うが、暴力は暴力。力に正義も悪もねえよ。使い方の問題だろ」


「でも、社会秩序を乱す暴力には、公的な暴力で対抗するしかできないこともある……」千草は何かを思い出すように、神妙な面持ちで下を向いて囁いた。


「ああ。異論はねえぜ、千草」巧は頷き、微笑みかけた。


「人々の間から争いを無くすって、本当に大変なことなのかもしれませんね」千草は、嬉しそうに微笑み返した。


「そうかもしれねえな」巧はそう言うと、椅子から立ち上がった。「よし、俺は大体の資料とマニュアル、読み終わったから、先に司令室に行ってるぞ」


「え、嘘?! ちょっと早すぎじゃない?」みつほが、顎を上げて、長身の巧を見上げた。「インチキしたんじゃないでしょうね」


「ばーか、そんなことしねえよ。お前とはここの作りが違うんだ」巧は、人差し指で、自らのこめかみをノックした。


「さすがにリーダともなると、言うことも違うし、マニュアルを読み終えるスピードも速いわねえ!」目を細めたみつほは、舌を出しながら嫌味っぽく言い捨てた。


「それ、嫌味か?」巧は切れ長の目を更に細くし、みつほを見る。


「あ、わかったあ?」豚のような顔で口をとがらせるみつほ。


「顔が豚になってるぞ」


「誰が豚よ! ブーブー!」


「豚じゃねえか……」「みつほさん……」巧と千草は吹き出すようにして笑った。


「……とにかく、二人も全部読み終わったら早く来いよ。もうじき、達也たちが現地に着く時間だ」


「へいへい、優秀なリーダさん、いってらっしゃい」みつほはふて腐れて腕組みした。


「はい」千草は微笑んだ。


 巧は長い両足を踏み出し、資料室の出口に向かう。


 みつほは、さっきの話題のきっかけを思い出して、巧に声を投げかけた。「あ、それで結局、テロリストはなんでいるのよ。まだ答え聞いてない」


「それはテロリストに聞いてくれや」巧は振り返りもせずに片手を上げ、手を蝶の様にヒラヒラと振ったまま廊下に出て、ドアをパタンと閉めた。


 ドアが閉まり切るのを見届けたみつほは、疲れた様子で、『あ』に濁点がついたような声を上げて机に突っ伏し、小声でつぶやいた。


「仮に相手にどんな正当な理由があったとしても、一輝を撃ったこと、絶対許さないんだから……」


「そうですね……、許しません」千草は真剣な顔つきになって同意した。


 みつほは後悔していた。


 日中、中央棟を出る時に、なぜ無理にでも一輝と達也の二人を車に乗せなかったのか。


 トイレならここにだってあったのに……、


 そうすれば、一輝は今頃ここに、一緒にいたかもしれないのに……。


(あのバカ……!)


 みつほは思い立ったように体を起こした。


「ねえ千草……、一輝、大丈夫かな……」


「ええ、大丈夫ですよ。絶対に」千草は、頼りない声を出すみつほを励ますように力を込めて頷いた。


 その後、かけていた赤縁メガネをゆっくり外して、テーブルの上にそっと置いた。ゆっくりと目を瞑る。千草は、資料を読み漁り、少し目が疲れているのかもしれないと、みつほは思った。けれどもその姿は、生死の境を彷徨う同級生の無事を祈っているようにも見えた。


「そうだよね……、あいつが死ぬわけないもんね。馬鹿ほど簡単には死なないって、よく言うもんね」

 みつほは無理やり笑顔を作ろうと試みた。嘘でもいいから、笑顔になれば、少しは心が晴れるかもしれないと思ったのだ。でも、顔の筋肉はいうことを聞いてくれない。笑おうと思うのに、引きつってしまう。心からの笑顔が作れない。たったの一日で、精神が相当に疲労していることを、ようやく自覚できたような気がした。


 今は考えていても仕方がない。


 目の前にあることとしっかり向き合わなければ。


 彼女は要らぬ思考を取り払い、資料に目を落とした。


「千草、いつもありがとね……」


 思いがけない言葉をかけられた千草は、ぱっと目を開け、無言で微笑みかける。


 みつほは、メガネをかけていない千草の素顔を久しぶりに見たような気がした。久しぶりに見るその顔は、いつもにも増して曇りがなく、瑞々(みずみず)しい純粋さで溢れていた。みつほはこれまで、千草のこの笑顔に何度も支えられたことを思い出したのだ。


 その時二人は、廊下に出た巧が、一輝の名前を囁くように呟いていたことには、気付く(よし)もなかった。


※この物語はフィクションであり、実在する人物、法律、団体、名称とは一切関係ありません。


※当作品内に掲載されているすべての文章、画像等の無断転載、転用を禁止します。すべての文章、画像等は日本の著作権法及び国際条約によって保護を受けています。

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