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永久の翼 ~Towa's Wings~  作者: 岩淵 笑実
本編
5/16

Ⅴ  ‘トワ’

 やや曇った空の下、蓮はあたりを何気なく見回しながら歩いていた。

 ふと足を止める。前方に立つ姿を見て、ちょっと笑みを浮かべた。

「あたしの事、探してたんでしょ。」

 蓮を睨み付けて鋭い口調で言う、黒い天使。長いスカートと腰まである黒髪が、わずかな風でふわりと揺れる。蓮は曖昧に微笑む。

「ああ、いや……別に」

「正直に言えば? 分かってるから。どうしてそんなにあたしを気にするの。」

 彼女の冷たい瞳は本当に凍り付いてでもいるかのように動きすらしない。蓮は肩をすくめて答えた。

「気になるに決まってるだろ。自分の傍に死なないでほしい人がいて、死神なんて現れたら……。彼女の命を取りに来たんじゃないかって疑っても、仕方ないと思ってくれよ。」

「人間の気持ちなんて、あたしには分からない。」

 冷たく突き放すような言葉。蓮は一瞬言葉に詰まった。いくらかたどたどしく再び口を開く。

「で、でも、君だって、仲間くらいいるんだろ。お互い、大切に思ったりとか……」

「ない。あたし達は、人間とは違うから。」

 その言葉もまた冷たく否定され、しばしの沈黙が訪れる。どうしようもなく居心地が悪くて、蓮は必死の思いで自ら沈黙を破った。

「そういえば、君の名前をまだ聞いてなかったな。教えてくれる?」

 蓮の台詞に、彼女の瞳がはじめて動揺するように揺らいだ。でもそれもすぐに消えて、さっきと同じ静かな声で答える。

「人間みたいな呼び名のこと? そんなの、持ってない。あるのは識別番号だけ。」

「番号じゃ呼びにくいな。俺が、勝手に何か考えても良いか?」

「勝手にすれば。」

 冷たく言って顔をそむける。顔をつき合わせていたら、この不思議な気持ちの揺らぎに気付かれてしまいそうだったから。横目で見てみたら、彼はそんな少女の様子に気付く気配もなく真剣に考えていた。

「天使、つばさ……イマイチだな。死神っていうのから連想するのも変だし……」

 しきりにぶつぶつ呟いている。と、ふと思いついたように顔を上げて彼女を見た。

「なあ、死神って死ぬのかな。」

「知らない。今までに死んだ仲間は見たことないけど。」

 思ってもみなかった問い掛けに少し戸惑いながら答えると、蓮はそれで何か閃いたらしい。

「そうか。じゃあ、永遠に生きるのかな……。あ、トワってどうだろう。永久って書いて、トワ。な?」

 そう言って、にっこりと笑う。その瞬間、トワの胸の中で何かがびくんと飛び跳ねた。息が詰まって、頭が真っ白になる。顔が火照るように熱くなって、悟られないように慌ててまたあらぬ方を見た。

「い、いいんじゃない。でも、どうしてそんなにあたしに関わりたがるの? あなた、変よ。どうかしてる。」

 蓮が何か答えて口を開こうとした時、

「おーい、蓮ー!」

「いたいた。何してんだよこんな所で。」

 例によって例の如くこんな絶妙な(ホントは全部わかってるんじゃないかとすら思える)タイミングで割り込んで来たのは、例の悪友二人だ。光と爽太は走ってきて、挨拶代わりに後ろ頭を一発。つんのめった蓮はちょうど真ん前にいた彼女――トワにぶつかりそうになるが、トワは慌てて逃げてそのまま姿を消してしまった。蓮は心の中で舌打ちしつつ二人に向き直る。

()ってー、何なんだよ。別に何もしてねーけど……。」

 声に不平がましい響きがあるのに気付いていないのかあえて無視してるのか、爽太は笑顔で蓮と肩を組む。

「いやー、今日ヒマだしさ、駅前のゲーセンでも行かね?」

「またいつものアレで対戦しよーぜ。今日こそぜってー負けねーから。」

「無理無理。光、超よえーもん。また蓮の圧勝だよ。」

「何だとぉ?」

 何度目か分からないいつもの会話を繰り返す友人たちに、蓮は苦笑しか出来ない。

「またかよ。いい加減に懲りろよな、お前は。」

「諦めてたまるかよ。じゃ、行こうぜ!」

 二人はさっさと、蓮を引っ張って歩き出そうとする。蓮は一度だけ振り返ったが、トワの姿を認めることは出来なかった。蓮が諦めて歩き出してから、トワは身を隠していた物陰からそっと顔を出す。ふうっと溜息をついた。

 その瞬間、光が不意に振り返った。トワをじっと見つめる。彼女はびくっと身を竦め、目を見開いた。

(何!? どうして……!? あれは、普通の人間。あたしの姿、見えないはずなのに……!)

 金縛りにでもなったように動けない。光は何も言わず、そのまま彼女から視線を外して背を向ける。そして何事も無かったかのように友人たちとまた喋り始めた。

 視線を外されてようやく強張った身体が解けたように、トワはその場にへたりこんだ。

「何者なのよ……」

 震える唇から小さく呟きがこぼれる。何故か泣きそうで、震えが止まらない。今まで感じたことのない得体の知れない恐怖に、少女はしばらく動くことすら出来なかった。

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