届かない祈り
来る日も来る日も、俺は討伐隊の本部に顔を出した。けれど、スピカとララは現れなかった。何が起こったのかはわからない。
ただ、討伐隊の人間たちもどこか慌ただしく、本部全体がいつもとは違う空気に包まれていた。
そんなある日。俺は討伐隊の隊員たちが話している噂を耳にした。
――ララが死んだ。
「……ララが?」
思わず足を止めた。あのララが死んだ? そんなわけがない。
だって彼女は、ほんの数日前まで俺と話していた。俺とスピカを抱きしめて、いつものように笑っていた。
「……そんな、わけ」
信じたくもない現実が、俺を襲った。
じゃあスピカは? スピカはどうしている? そのことだけが頭を支配した。
俺はすぐに馬車を呼び、キャンベル家へ向かった。けれど、キャンベル伯爵家も女主人であるララを亡くしたばかりだったからだろう。屋敷の中は慌ただしく、人の出入りも多かった。
「スピカは……どこだ?」
馬車の窓から屋敷を見つめる。けれど、外からでは彼女がどこにいるのかなんてわからない。
今すぐ会いたい。スピカのそばに行きたい。……けれど、俺にはそれができなかった。
貴族同士の交流には、多くの決まりがある。突然、何の理由もなく訪問することなど許されない。ましてや、公爵家の息子である俺が、伯爵家を突然訪ねるなんて、周囲にどう思われるかもわからない。
下手をすれば、スピカにも迷惑がかかるかもしれなかった。
会いたいのに、会えない。ほんの一枚の壁が、今の俺にはどうしようもなく重く感じられた。
その後、自分なりに調べてみると、ララはどうやら事故に遭ったということがわかった。
そして――。
スピカだけは無事だった。その事実を知った時、俺はひとまず安堵した。
スピカはきっと、今頃泣いているだろう。大好きだった母親を失って。本当なら、そばにいたい。手を握ってやりたい。泣くなら、俺の前で泣いてほしい。
けれど、今の俺には何もできなかった。そのことが、どうしようもなくもどかしかった。
だから俺は、星に祈った。
どうか――。スピカが笑っていられますように、と。
◇◇◇
それからも、俺はいつも通りの日々を過ごしていた。
勉強、習い事、社交パーティー、魔法の練習。けれど、何をしていても考えるのはスピカのことばかりだった。次は、いつ会えるのだろう。ちゃんと眠れているだろうか。泣いてはいないだろうか。
気づけば、冬が終わっていた。
春になり、外は少しずつ暖かくなっていく。
「……スピカ」
ふと、あの約束を思い出した。
――春になったら、一緒に星を見に行こう。
君は覚えているだろうか? あの約束を。
あの頃の俺たちは、毎日のように一緒にいた。だからこそ、約束も曖昧だった。いつ、どこで、何時に、一緒に星を見るのか。何も決めていなかった。
「……俺は、本当に馬鹿だ」
今になって、そんな自分を悔やんだ。
夜になると、俺は何度も屋敷を抜け出した。星がよく見える場所を探して、もしかしたら、スピカが来ているかもしれないと。
けれど、どこにも君はいなかった……。俺との約束なんて、忘れてしまったのだろうか。俺のことを好きだと言ってくれたのは――嘘だったのだろうか。
会えない時間が長くなるほど、不安は大きくなっていった。そしていつしか、あんなにも大切だった気持ちは、少しずつ醜いものへと変わっていった。




