第1話 役立たずな召喚者
この国では、力を持つ者ほど価値があるとされていた。強力な魔法を扱う者。魔物を討伐できる者。高い戦闘能力を持つ者。
戦う力こそが、人々を守り、国を発展させる力だと信じられていた。そんな国に、ある一人の女性がいた。
王妃セレフィナ・アルヴェリアである。
彼女が持つスキルは唯一技能【未来視】。その力によって、王妃は未来を見ることができた。
しかし、見えた未来は絶望だった。五年以内にこの国に大きな災害が起こるというものだった。大量の魔物が発生し、森から溢れ出した魔物は村を襲い、街を破壊し、やがて王都へ迫る。騎士団も冒険者も、その数を止めることはできない。
「このままでは、国は滅びます。」
王妃は国王へ告げた。未来を変えるためには、新たな力が必要だった。そこで王国は、古代魔法である異世界召喚を行うことを決めた。異世界から呼ばれた者は、この世界にはない力を持つ可能性がある。その力なら、未来を変えられるかもしれないと。
しかし――
未来視は、大きな魔力を消費する。
「王妃様、しばらく療養が必要です。」
王妃は王城で休み、魔力回復に専念することになった。そのため、召喚時に王妃はその場にはいなかった。
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召喚が行われた場所は、教会だった。古代の召喚陣が描かれた大広間。国王、騎士、教会関係者、魔導士たちが見守る中、召喚魔法を発動する。眩い光が広がったその時――。
2人の少女が現れた。1人は金髪で気が強そうな15歳くらいの女性で、もう1人は黒髪·黒目で16歳の少女。
「……二人?」
魔導士たちがざわめく。異世界召喚で複数人が呼ばれた記録など存在しなかった。国王も驚きを隠せない。
「まずは2人を鑑定せよ。」
一人目の少女が水晶へ手を伸ばす。
触れた瞬間――
黄金の光が広間を包み込んだ。
「光属性です!」
「なんということだ……!」
水晶に文字が浮かび上がる。
【光魔法】
希少な魔法属性であり、治癒、浄化が可能。結界を張ることも可能。
魔物との戦いで大きな力になる能力。
「素晴らしい。」
国王は満足そうに頷く。
「この者なら、未来を変えられるかもしれない。」
次に、もう一人の少女が水晶へ手を伸ばす。しかし―
何も起こらなかった。黄金の光もない。魔力の反応もない。広間に沈黙が落ちる。
「……もう一度確認を」
鑑定士が調べる。だが、結果は変わらなかった。
表示された文字は一つ。
【保存】
「保存……?」
魔導士が首を傾げる。
「聞いたことがありません。過去の記録にも存在しないスキルです。」
前例のない能力。本来なら、未知の力として研究されるべきものだった。しかし、この国では違った。重要なのは、戦えるかどうか。魔物を倒せるかどうか。それだけだった。
「効果は?」
国王が尋ねる。鑑定士は答えた。
「おそらく物を保存する能力です。腐敗を防ぎ状態を維持するものと考えられます。」
その瞬間、周囲から失望の声が漏れる。
「それなら倉庫系スキルと変わらないではないか。」
「平民が持つような能力だ」
「召喚された者が……?」
少女は黙って聞いていた。自分が望んで来たわけではない。帰る方法すら分からない。それなのに、待っていたのは期待ではなく失望だった。
少女は国王へ問いかける。
「……私は、元の世界へ帰れるのですか?」
国王は少し間を置く。
「帰還する方法は存在しない。お前は、この世界で生きるしかない。」
少女の表情が曇る。その横で、光魔法を持つ少女には騎士たちが近づく。
「聖なる力を持つ者よ。こちらへ」
国王は主人公を見る。
「お前は……この国のためにならない役立たずだな。」
その言葉が、広間に響いた。
「だが、こちらが勝手に召喚してしまったことは認めよう。詫びの証として、これを受け取ってほしい。」
渡された袋。中には金貨200枚が入っていた。
「当分の間、生活には困らないだろう。」
少女は袋を受け取る。国王は話を続ける。
「ただし、お前には条件がある。」
「一つ。自分が召喚者であることを、他者へ伝えることを禁止ずる。二つ。辺境のセレス村の領主に任命する。出発は3日後。」
少女は少し驚く。領主。しかし、その場にいた一人の魔導士が小さく呟いた。
「……セレス村」
その声には、何か含みがあった。
セレス村。
本当の姿は、貧しい小さな村。古い家、少ない住民。
そして近くには――
危険な魔獣の森。誰も行きたがらない辺境だった。この国の結界外の村。セレス村に行けば2度と戻れない。
国王は続ける。
「三つ。出発後、王都への立ち入りは禁止する。」
少女は静かに頷いた。
こうして、世界を救うために召喚された二人の少女。
一人は希望として迎えられ、もう一人は、役立たずとして辺境へ送られることになった。
しかし、誰も知らなかった。
その少女が持つ【保存】という未知の力が、やがて最強の村を作り上げることを。




