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放っておけない、根川くん  作者: 薄明 朔


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5/5

恋を知るということ

熱が完治したのは、一週間後だった。


その間、家でゆっくりできたこともあり、自分の考えをまとめることができた。

認めたくはなかったが、認めざるを得なかった。


俺は根川のことが好き。

ただ今は、この言葉でしか表現できなかった。


「おぉ、やっと、熱下がったか。」


後ろから衝撃があり、振り返るとそこには木山が立っていた。


「……木山。」


「なんだか、熱が下がって元気になったというよりかは、違う意味ですっきりしてそうだな。」


木山は口角を上げ、ニヤニヤとしながら、俺の背中を叩く。

俺は木山の手を払いのけ、鞄を持ち直す。


「お前、この前のやつ、わざとやりやがっただろ。用事なんかねえくせに。」


「なんのことだろうなぁ。身に覚えないなぁ。」


木山はクスクスと笑いながら、その態度を崩さなかった。

イラっとした俺は鞄で思いっきり、木山を打った。




「小島君、おはよう。」


教室に入ると、根川がすでに席に座っており、教科書を広げていた。

教科書にはラインが引かれており、彩り豊かなものになっていた。

正直、そんな教科書見にくくないかとは思ったが、とりあえず反応することは止めた。


「……根川、おはよう。この前はありがとうな。」


「どういたしまして。ちょっとでも早く治ったのなら良かったかな。」


根川はにっこりと笑うと、教科書に目を移す。

根川を前にしたが、意外と冷静でいられている自分がいる。

何も変わっていないようにも感じるが、少しくすぐったい感じもする。


初めて感じる気持ちに戸惑いながらも、自分でコントロールできていると、この時は思っていた。


「ねぇ、小島君。ちょっと相談なんだけど。」


教科書を見ていた根川が突然見上げてくる。


「今日の放課後、ちょっと時間ないかな。」


「え……。」


根川の発言に、思わず俺はうろたえてしまった。

放課後に時間はあるのだが、ここで「放課後、空いてるけど。」というのは……。

なにを言われるんだ、と。心の準備ができていない俺に根川は話を続ける。


「来週さ、試験じゃん。僕、次赤点取ったらまずいんだよ。小島君、頭良いから、できたら教えてほしいなって。」


「……あぁ。そういうことか。」


「うん、そういうことだよ。」


根川は俺のリアクションに違和感を覚えているのか、俺の言葉をオウム返しした。

そういえば、もうそんな時期かと頭の中の邪念を一旦片隅に置いておいた。


「わかった。俺が教えられる範囲で教えてやるよ。」


「良かったぁ。断られると思っちゃったよ。じゃあ、よろしくお願いいたします。」


俺は深呼吸を一度し、根川の問いに答える。

根川は俺の言葉を聞いて会釈すると、また教科書へと目を移した。

その真剣なまなざしが教科書に注がれ、俺が根川のほうを向いていても、こちらを見るそぶりはもうなかった。

俺は根川のほうから目線を外し、鞄を机に置き席に座る。


身体の調子はいいはずなのに、みぞおちに重いものがあるようで落ち着かない。

根川のほうをまた見るか迷ったが、そのまま俺は机に突っ伏した。




放課後になるまで、時間が長く感じた。

いつもと変わらないはずなのに、ゆっくりと時間は流れる。


少し根川のほうを見ると、先生が黒板に書いた文字を一生懸命にノートへ書き写していた。

その横顔を見ていると、心が締め付けられる感覚に襲われる。

呼吸も浅くなるのを感じ、俺はゆっくりと呼吸をした。




放課後になると、教室から出ていくやつもいれば、そのまま片隅に集まり雑談をしているやつもいる。


「小島君。じゃあ、勉強しよっか。」


根川は机を移動させ、向かい合わせにする。

わざわざそんなことをしなくてもと思ったが、野暮だと思い無言で教科書を広げる。


「とりあえず、この問題解いてみろ。」


俺は教科書の問題を指さした。

根川は言われた通りにノートに問題を書き写し、解答していく。

ペンの進み具合はそんなに悪くはなさそうだ。

俺は、自分の教科書を広げ、内容を確認していく。


しばらくして、周りを見渡すと、教室にはもう誰もいなくなっており、根川と二人っきりの状態となっていた。

根川のほうを見ると、まだ解き切れていないようで、ペンを持ったまま唸っていた。

ただ、教室に誰もいないことに気が付いた俺は、思わず声をかけてしまった。


「根川、問題解けたか。」


「ん……。まだだよ。」


「ちょっと、答案みせろ。」


根川はノートを差し出し、緊張した顔でこちらを見てくる。

口がきゅっと閉ざしており、なんというか、小動物みたいだなと思った。


「この問いか。ここは、この文に注目しながら考えてみると分かりやすい。」


俺は文を指しながら、目線を根川のほうに移した。


本当に一瞬のことだった。


根川が瞬きをしたとき、俺の手が自然と根川のほうへ伸びていた。そのまま、顔を寄せようとする。

だが、手が空を切った瞬間、俺は我に返った。


俺は、根川に何をしようとした。


「小島君、分かりやすいよ。ありがとう。」


根川は俺のその行動に気が付いていないのか、教えられたことをノートの片隅に書き始める。

シャープペンシルの書く音が響く。


あのまま、止まらずにいたらと思うと、そんな自分が信じられない。今までの自分とは違うと思う自分もいる。

自分が自分でないような気がした。

恋がそうさせているのか、どうしようもない熱を自分の中に貯め続けなければいけないのかと。


ぞっとする。


この恋に気が付いてしまったせいで、俺は身動きが取れないでいる。

根川にこの思いを伝えて、もし受け入れてもらえなかったらと思うと、胸が苦しくなる。


まだ、この思いは伝えられない。

俺はこの思いを根川にぶつけるだけの、言葉を知らないから。


だから、まだ片思いのままで。

読んでいただき、ありがとうございました。


今回がラストのエピソードです。

楽しんでいただけたでしょうか。


はじめて恋を知る。

自分の感情をコントロールできない。

そして、それを怖いと感じる。


恋って、楽しいだけではないと思います。


小島と根川の人生はこれからですが、この物語はここで終了です。


では、またどこかでお会いしましょう。

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