第6話 卸す!
翌朝、俺達3人はアリシアのある「考え」を実行すべく、大量のマヨネーズ作りに勤しんでいた。
俺とリリムはマヨネーズを、アリシアは余った卵白でメレンゲの焼き菓子を作っている。大量に出る卵白も捨ててしまっては勿体ないので有効利用だ。
「こんな焼き菓子まで思いつくなんて、ソウジは一体何者なんだろう?」
「よく訳のわからないことは言ってますけど、私達の知らないこともたくさん知ってそうです」
「まあこの“めれんげ”とやらはここまでフワフワにするのは骨を折るが、まさかこんな使い方があったなんてな!」
「私もびっくりしました!」
「ところで、ソウジのやつ遅いな?」
「そうですね、卵を取りに行くってニワトリ小屋に行ったっきり…」
二人がそんな会話をしながら作業をしている頃、俺はニワトリ小屋で卵を回収していた
「ふぅ、本当にここにこれだけたくさんのニワトリがいて良かったよ。じゃなきゃマヨネーズを大量に作るなんて無理だからなぁ」
そう呟きながら卵の回収をしていると、「ガッ!」と何かにつまづいた。
「うおっと!?ん?」
よく見ると地面から何かが飛び出ているようだった。
「何だこれ?白…のような…」
俺は回りの土を丁寧に掘り、この謎の物体を掘り出してみることにした。
すると、これは卵であろうか?ラグビーボール程の大きさである。
「うーん、光に当てると何か模様があるような?でもこれ卵だよな?これだけの大きさがあれば一気に大量のマヨネーズが作れそうだ!」
俺は回収した卵と掘りあげた卵を持って急いで調理場で戻る。
「卵持ってきたぞー!」
「ああソウジ、遅かっ……ッ!?」
二人は俺の掘りあげた卵を見て驚いているようだった。
「ソウジさん?何ですか?それは…」
「いや、卵だろ?何故か地面に埋まってたけど。ニワトリのやつも特別な卵が生まれたから地面の中で大事に育ててたのかな?」
「…ソウジ?いくらウチのニワトリがいい卵を生んでくれるとしても、自分の体よりデカい卵は生まないだろう?」
「すいませんアリシアさん。この人3の倍数の日はアホになるんです」
「俺は世界のナ〇アツか!」
(おい!ちょっとネタが古いぞ!!)
「でもこれが卵として使えるならいいだろ?」
俺は早速割ってみようとする。
「美味しいのかなぁ?」
心配そうに見つめる二人を他所に、俺は卵を台の角に
「ゴンゴン」と打ちつけた。
「あれ?全然割れないぞ?」
「ハンマーでいってみます?」
リリムがハンマーを構える。
こいつ今どこからハンマー出した?
「えいっ!」
思いっきりハンマーを卵に叩きつけるが、まるでリリムの身体に電気が走ったかのように「ビーン!」という衝撃が。
「全っ然割れません!これ石なんじゃないですか?」
「………」
静かに様子を見ていたアリシアであったが、
出入口を指差しながら「捨ててきなさい」と一言。
俺は捨て犬を拾ってきた子供か!
「…やだ」と俺は返す。
「いや、お前が子供か!?」
何故か俺の心の中につっこむリリム。
「ソウジ、もしかしたら魔物の卵かもしれないんだぞ?そんな得体の知れないもの置いておく訳には…」
「魔物って卵から生まれるのか?」
「いや、まあ魔物の生態はよくわかってないんだが…」
「大丈夫!俺、何かこいつは大丈夫な気がするんだ」
苦労して掘りあげたからであろうか、何故かこの卵なのか石なのかわからないこの物体に愛着が湧いていたのだ。
「まあまあ、アリシアさん。特にこの石からは邪悪な気配も感じませんし、とりあえずソウジさんのお部屋のオブジェにでもしといたらいいんじゃないですか?」
「ふむ、まあ何も起こらないなら構わないが…」
「ありがとうアリシア!んじゃ俺部屋に飾ってくるわ!」
俺は急ぎ足で自宅へ向かい、出窓のスペースに飾っておくことにした。
「まったく…」
呆れながらも笑顔のアリシア。
「とりあえずマヨネーズ作りと焼き菓子作りの続きをしましょう!ソウジさんはサボってた分、今晩は寝ずに働いてもらいましょう」
ここはブラック企業か?
こうして俺達のマヨネーズ作りは深夜まで続くのであった。
翌日、俺達は荷車に収穫した作物とマヨネーズの入った壺と焼き菓子を乗せ王都に向かうことに。
この王都でアリシアのある「考え」を実行するのだ。
俺達は森の中を王都に向けて進んでいく。森へ来るのはこの世界に着いたあの日以来だ。
相変わらず魔物はいるようで、俺とリリムが荷車を引き、アリシアが魔物を駆逐してくれている。
「二人が荷車を引いてくれるから魔物の駆逐が非常に楽だな!だが二人とも、危ないと感じたら荷車はいいから迷わず逃げてくれ」
「大丈夫ですよ!たとえその身を食いちぎられてもソウジさんはこの荷車を守ってくれます!」
「お前は……」
笑顔で恐ろしいこと言うな!
王都はこの森を抜けた先にあるらしい。もう30分は歩いたであろうか、そこで「休憩にしよう」とアリシアから声をかけられ、俺達は少し拓けた所で休憩をとることに。
「しかし結構魔物が出るんだな?こないだのスライムだけかと思ったら…」
「全然可愛らしいものはいませんでしたね」
「はは、そりゃあ魔物だからな」
可愛らしい魔物がいるなら見てみたい気もするが…
「昔はこの森にも賊がいたんだがこの魔物の量だ、この森で賊に襲われる心配は無くなったんだが…」
「…魔物に襲われるようになったんですね。どちらにしても危険なんですね」
「でもアリシアは賊に囲まれても大丈夫なんだろ?」
「まあな。他人から金品を奪うことを生業としているような連中に遅れは取らんよ」
自信に満ち溢れた顔をするアリシア。
(いいなぁ、かっこいいよな。俺にもそんな力があれば…)
ふとリリムに目をやる。
(こいつの持ってる女神様の力とやらで俺もチートになれるんじゃ…)
ここ最近は普通に日常生活をしていた為すっかり忘れていたが、俺は異世界に来たのだ!特別な力でチートになってこの世界のヒーローになりたいんだ!
俺はそんな野望をまだ叶えられると信じていた。
「なぁリリム?やっぱりさ何かと物騒なわけだし、お前の持ってるその女神様の力とやらで俺を強くすることはできないのか?」
俺は真っ直ぐにリリムを見つめ小声で問いかける。
「……ヘッ!」
何故か鼻で笑うリリム。
(ダメだ…こいつには何を言っても俺にその力を使おうともしねぇ!)
こいつは何のためにその力を預けられたのであろうか。
「さて、そろそろ出発しよう!」
というアリシアの声に、
「はーい!」と元気よく返事をしその場を立つリリム。
どうやらこの話は流されてしまったようだ。
その後また30分程歩いたであろうか、森を抜けしばらく進むと立派な城とその城壁が目に入った。
どんな攻撃も跳ね返してしまいそうな城壁にそびえ立つような城。俺は思わず、「すげぇ…」と小さく声にした。
「中に入ると色んな店もあるし露店街も賑やかだ。ここには港もあるし色々な物資の輸出入もできるんだ」
「まさに都会って感じですね!」
目を輝かせるリリム。
「そうだな!この周辺には小さな町や村もあるが王都は別格だ!大抵の物はここで揃うと思ってもらっていい」
(東京みたいなもんなのかな?)
中に入ると更に多くの人で賑わっており、その活気に俺は圧倒された。そもそもこんなにたくさんの人々を見たのは久しぶりな気がする。
「活気があるだろう?ここは王都ゼニスといってな、国王陛下は民の声をよく聞いてくださる非常に素晴らしい方なんだ」
「街の皆さんとても活き活きとされてて、ここが素晴らしい国だとよくわかりますね!」
「そうだな!それも国王陛下が優れた統治者である証拠だろう」
(それだけ下の人間に慕われてるってことか…俺の上司もそうだったら良かったのに…)
元の世界のク○上司に思いを馳せていると、
「早速露店に作物を卸したら行こう!」
急ぎ足で歩き出すアリシア。
露店に野菜を卸し、向かった先は「ノスティモ」というレストランであった。
この街のメインストリートからは離れた所にあり、更に路地裏にひっそりと佇むこの店は決して立地がいい場所とは言えないが、店の中に入ると多くの人で賑わっていた。特に兵士が多いだろうか。
アリシアがカウンターへ向かうと、
「ダンテ殿、邪魔をするよ」
厨房にいる一際ゴツい義足の男に声をかけた。
「おお!アリシアじゃねーか!!久しいな!!」
イカつい顔に満面の笑みである。
「二人とも、彼が先日話したダンテ殿だ」
俺とリリムはダンテと呼ばれるゴリラの様な男に軽く会釈をする。
「ダンテ殿、今日は話があって来たのだが…」
「わりぃな、今はこの状況だ!ちと待っててもらえるか?」
店内は満席、俺達の後にも続々と客が入ってくる。
「ふむ、忙しい時にすまない。では待たせてもらうこととするよ」
アリシアは酒を3つ注文し、俺達は飲みながら待つことに。
「…リリム?お前酒飲めるのか?なんて言うか…その…お子ちゃm…」
「誰がお子ちゃまですか!お酒くらい飲めますよ!!」
と目の前の酒を一気に飲み干した。
「おぉ…」
驚くアリシア。
「あれぇ?ソウジひゃん、何で二人もいるんれすかぁ?え?三人?にゃはははは…ソウジひゃんいっぱいいても弱そうれすねぇ」
「よっわ!てか酔っ払ってもディスってくんな!」
「あはは…今度からリリムはミルクにしよう」
しばらくアリシアと談笑をしていると店内はようやく落ち着いたようだ。
「わりぃ!待たせたな!」
一仕事終えたダンテが俺達の元へ。
「…そのピンクのお嬢ちゃんは大丈夫かい?」
リリムは爆睡していた。
「はは…心配かけてすまない。彼女はリリムというんだが、また元気な時に改めて紹介しよう」
「そうかい(笑)で、話ってのは?なんだい?」
「ああ、まず彼を紹介させてくれ!ソウジだ」
「置田蒼司です。俺のことは蒼司と呼んでください」
「ソウジ君か!俺はダンテだ、よろしくな!」
俺の倍くらいありそうな手のダンテと握手をする。
「ダンテ殿、貴殿に見てもらいたい物があるんだ」
俺はマヨネーズの入った壺をダンテに差し出す。
「何だい?これは」
「これはマヨネーズという物らしいのだが、世界中を回った貴殿でも存じ上げないか?」
「見た事も聞いた事もねーな」
このダンテという男は聞くところによると、元はこの王都ゼニスで騎士団長を務めていたらしい。兼ねてより美食家で騎士として世界中へ派遣された時も色々な料理を食べ歩いていたのだとか。
数年前、戦地で味方を庇った際に左脚を失くし騎士団長を勇退。その後レストランを始めたのだが、世界の味を知る彼が振舞う料理はどれも絶品らしく、瞬く間に人気店となり、今では世界中から彼の料理を求めてこの王都ゼニスに来る人もいる程らしい。
「これはこのソウジが作った物なんだ。色々な食材や料理に使えると思うが、まずは一口試してみてほしい」
「ふむ…」
ダンテは躊躇うことなくマヨネーズを一口。
さすが美食家というところであろうか。
「これはっ!?」と驚きの表情を浮かべる。
「美味い!美味すぎるぞ!!世界中どこを探してもこんな味わいのものはない!!!」
大絶賛のようである。
「ソウジ君!これは一体どうやって作ったんだ!?」
「そ、それは企業秘密というか…」
俺の元いた世界ではありふれたものだが…何か申し訳ない。
「そうだな、こんな美味いものそう易々と教える訳にはいかんよな」
「ダンテ殿、あとこちらも是非試してみてほしい」
アリシアはメレンゲの焼き菓子を差し出す。
「これも…美味すぎる!!」
こちらも大絶賛の様子。
「こちらもソウジが考えたものだ、店の土産品としてどうだろうか?」
「うむ!このまよねーずと焼き菓子、是非ウチで使わせてほしい!ソウジ君、必ずこのまよねーずを使って最高の料理を作ると約束しよう!」
ダンテは頭を下げてきた。
「ソウジ、ダンテ殿は信頼できる方だ。絶対に悪いようにはすることはない。どうだろうか?」
と言いつつ、実際これはアリシアの「考え」で計画通りであった。この店は世界中から客が来る。そこでこのマヨネーズが世界中に広がれば莫大な利益を得ることができる。アリシアはそれだけの可能性があるから、信頼のおけるこの店にマヨネーズを使ってもらい、俺達が安定した生活を確保できるようにという話である。この味ならダンテも必ず使わせてくれと頭を下げてくるはずだーーと。
もちろん俺はその利益は三人で分けるつもりだが。
その後も話合いは続き、マヨネーズは毎回金貨20枚、焼き菓子は土産品として売り出し、売り上げは全てこちらにくれるとのこと。俺は金貨の価値はよくわからないが、相当な額だとのこと。
「それ以上に沢山の客がくるだろうさ!安いもんだ!」
「さて、では我々はそろそろ帰るとしよう」
「そうだな」
「これからもよろしく頼むな!ソウジ君!」
「うぅぅぅ…ソウジひゃんわすごいれひゅれぇ、10人に一人の人れひゅ…」
「…10年に一人ではないのだな(笑)」
「とっとと起きろ!!アホリリム!!!まあまあ普通の人じゃねぇか!!!!」
いくら起こしても起きないリリムを荷車に乗せ、俺達はノスティモを後にし家路につくのであった。
今回は上手く話がまとまらず、少し長めになってしまいました。最後まで読んでくださった方、ありがとうございます。




