第7話
コンビニの深夜シフトは、いつも通り退屈だった。
午前2時を過ぎると客足も途絶え、監視カメラの前には誰も映らない。悠也はレジ裏に立ったままスマホをいじっていた。Xの通知、相場サイトの価格推移、DMで流れてくる仕入れ先の情報。
バイト仲間の村井は、おにぎりの補充を終え、バックヤードに戻ってくると一言ぼそっと言った。
「お前、スマホ中毒すぎだろ。寝る時間も惜しいってか?」
「……まあな。調べもんあるから。」
「ああ? なに、情報商材でも始めた?」
軽口だった。が、悠也の指が一瞬止まったことを、村井は見逃さなかった。
「冗談だって。そんなマジな顔すんなよ」
「別に。バカらしいから相手してねぇだけ」
村井は缶コーヒーを開けてカウンターに腰かけると、店内モニターの死角で小声を漏らした。
「でもさ、正直ちょっと気になってんだよな。」
「なにが?」
「お前さ、最近なんか動きおかしくない?」
「あ?」
「シフト前に来て裏で電話してたり、バイト終わってすぐ変な方向行ったり。あと、配送の伝票とか、こっそり見てんの俺知ってるからな」
悠也は目を伏せた。笑ってごまかす気力も湧かない。図星だった。そして、自分が思ってるより、見られていたという事実が刺さった。
「いや、ちょっと副業的なのやってんだよ。隙間時間でできるやつ。最近流行ってるじゃん」
「副業、ねぇ……」
村井はしばらく黙っていた。冷蔵庫のファンの音だけが、だらだらと空気を埋めた。
「まあ、ぶっちゃけ俺もそういうの興味あったし、やるのは自由だと思うよ。けど、最近のお前、ちょっとピリついてるというか、カネの匂い出しすぎっていうか……」
悠也は無言で視線を返した。そのまま村井が続ける。
「たとえばさ、コンビニの商品とかにもやたら“定価”にこだわるようになってね?そんなやつ普通おらんて。」
村井は笑いながら言った。でもその笑いは、どこか本気の不気味さを含んでいた。
「いや、いいんだけどな。マジで儲かってんだったら。さ、言えば?何やってんのか。少しは興味あるし」
悠也は答えなかった。スマホをポケットに突っ込み、掃除用具を持って出入口を拭くふりをしながら、内心で激しく脈打つ鼓動を落ち着けようとした。
「別に大したことしてねぇよ。ちょっとした転売とか、そういうもんじゃないから。」
最後の言葉が、かすれた。村井はもうそれ以上何も言わなかった。ただ、笑みの消えた目だけが、妙に静かだった。
シフトが終わって、更衣室で着替えていると、村井がぽつりと呟いた。
「闇バイトとかじゃねーだろうな。」
悠也は着替えの手を止めなかった。背中でそれを聞き流し、何も返さず、ロッカーの扉を乱暴に閉めた。




