第4話
最近、スマホの通知がやたらと鳴るようになった。メルカリ、ラクマ、X。出品したスニーカーが売れたり、物販アカウントが「新作情報」や「プレ値確定」と煽るように投稿したり。悠也の生活の中で、スマホが鳴るたびに現金が増える感覚が、じわじわと快感になってきていた。
初めてスニーカーが売れた日から、わずか数週間で口座の残高はバイトとは比較にならないペースで増えていった。抽選情報に飛びつき、手に入ったら即撮影、即出品、即売却。まるで狩猟でもしているような気分だった。
「欲しい人がいるから成り立ってる。俺は悪くない。むしろ、必要とされてる」
心の中で繰り返すその言葉は、最初の頃こそ言い訳に近かったが、日を追うごとに信念のような形になっていった。バイトの帰り道、駅前の広告に映る芸能人のスニーカーを見ては、「それ、今いくらだっけ」と脳内で値段をつける癖もついた。価値とは、欲望に比例する。そう思えば、価格を釣り上げることにすら正当性を感じた。
「買えないやつが悪い。出遅れたやつが悪い。俺は情報を先に掴んだ。それだけの話だろ」
深夜のコンビニで棚を詰めながら、虚ろな目で同じ動作を繰り返す他のバイトたちを見て、心のどこかで優越感すら覚えていた。店長に怒鳴られ、客に舌打ちされる日々より、スマホ一つで稼げるこの新しい世界のほうが、よほど正しいように思えた。
だが、全てが順調というわけでもなかった。ある日、出品していたスニーカーがキャンセルされた。理由は「転売目的による規約違反」。購入者からの取引メッセージには、「こんな奴に当たるとか本当にムカつく」「ファンに謝れ」と怒りの言葉が並んでいた。
悠也は一瞬だけ動揺したものの、すぐにスマホを閉じた。「はいはい」と吐き捨てる。怒ってるやつの気持ちも、わからなくはない。だが、だからといって、それで自分がやめる理由にはならなかった。むしろこう思った。
「欲しがってるくせに文句言うなよ。お前らが欲望丸出しで追いかけるから、こっちは稼げるんだ」
誰かの不満や怒りが、自分の利益につながっているという感覚。それは心地よさと背徳の混じった、不思議な感覚だった。
Xを開けば、同じようなアカウントが今日も成功を喧伝している。
「今月の利益:42万円」
「朝起きたら売れてた」
「大学行く意味ってある?」
そういう投稿に、悠也はいつもいいねを押す。まるで、自分の背中を押してくれる存在のように感じるからだ。
だが同時に、家族や友人には絶対に話せないことだとも分かっていた。親に「仕事どうしてるの?」と聞かれれば、「バイト」とだけ答える。友達の誘いも断って、部屋で発送作業と抽選応募に没頭する。「ちゃんと働けよ」と笑われるのが、妙に怖かった。
内側ではずっと葛藤していた。「これは本当に仕事と呼べるのか?」「こんなことを続けていて、未来はあるのか?」けれど、その問いに答えが出る前に、また次の当選メールが届く。次のスニーカーが出荷され、次の利益が口座に反映される。
「大丈夫。俺はただ、うまくやってるだけだ」
そんな風に、自分自身を守るように、言葉を重ねていく。正義感と罪悪感は綱引きのようにせめぎ合い、だがその綱は、どんどん片方に引き寄せられていった。悠也の心の中ではもう、「これが俺の生き方だ」と思いたい気持ちが勝ち始めていた。




