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〔墓守り紋次の物語〕  作者: 猫屋敷 中吉
67/122

異能者

 よろしくお願いします。


 雲を貫く峰々に木々が青々と萌えている。

 空には正中近くまで昇った太陽が、地表を燦燦と照りつけていた。

 

 山肌に沿って蛇行する山峡。

 東へと抜ける起伏のある山あいを、およそ万の軍勢が行軍する。


 全てが焦茶色の甲冑を纏う軍団。

 武装した何百何千頭もの馬と、槍を携えた万を超える軍勢が大行列で歩を進める。

 

「ありゃあ、なんだ!?」

「まずいぞ。おい、隠れろ!」

 

 そこに山肌を降りてきた若い狩人の二人が偶数目撃し、切り立つ崖の手前で足を止めた。

 彼らは隠れるように身を屈め、崖下を除きこんだ。


「……出之領の軍勢だぞ、あれは。……逃げるぞ」

「えっ、あ、まだ……」


 眼下を望み血相を変えた獣の皮を纏った男が、もと来た道を戻ろうとする。敵兵と気づくも、簑と傘を身に着ける男は了見が鈍いのか、呆気にとられていた。


「いいから、早くいくぞ! っが、がは」

「どうした! ぐあっ」


 先にこの場から立ち去ろうとした獣皮の男がいきなり倒れ、驚き彼に駆け寄ろうとしたもう一人も倒れた。


 ビクンビクンと痙攣する彼ら。

 崖の間際でうつ伏せに倒れた狩人達の背中には、幾つもの卍型の手裏剣を突き刺さっていた。

 と、そこに。

 木々の影から湧き出てみたく、闇を纏った十数人の男達が姿を現す。


「小事ゆえ。百地様、先を急ぎましょう」


 先頭に立つのは、百地と呼ばれた全身黒尽くめの男だ。


「……消去」


 百地はこう呟くと、狩人の亡き骸を崖へと蹴落とした。

 戦における僅かな不安材料をも排除して百地は、無表情で眼下を一瞥。


「……おいでなすった。……我らも行くぞ」

「「っは!」」


 崖下にて在らぬ方向に四肢をひん曲げる狩人達。その先の行軍を眺めて踵を返す百地。

 己が集団、乱破衆を引き連れて彼は、瞬く間に影へとその身を沈めていった。


 ここは陸之領山間部。

 足並みを揃えて行軍する軍勢。

 出兵元は出之領。

田部 坂虎(たべ さかとら)』率いる総勢二万もの軍勢が、山あいの鞍部を悠々と進軍していた。


 周りは三千メートル級の山々が連なる山脈地帯。

 大軍を進めるには唯一と言えるこの道を使い、この軍勢は長蛇の列にて陸之領中心部を目指す。


「ふう、暑いな……」

 

 そう呟いたのは。

 隊の中列、他とは違う頭上の尖った兜を被る騎馬武者だ。彼は汗ばんだ顔を持ち上げ空を仰ぐ。


「……うぅむ。思いの外、推しておるのぅ」


 眉間に皺を刻み、後ろに連なる隊列を眺めてこう愚痴を吐いた彼は、次に前方へと目を移す。


「あの噴煙立ち昇る『雲上岳』までは、あと半日以上はかかるやも知れんぞ」


 山脈の中でも絶えず煙を吐き出す活火山を見つめ、出之領家老『陣内 幹右衛門(じんない みきえもん)』は深い溜息を吐く。


「……殿、休息地点の雲上岳が見えてまいりま──」


「うほぅ、ほう、ほう、愛いやつ、愛いやつよのう、お主は、ここか? ここなのか? うん? ここが弱いなのかっ。ほぅ、ほぅ、ほぅ』

「キャハッ。とののスケベ〜。うちぃ〜、本気になっちゃいますよ〜」

「ここか? この突起がたまらんか?」

「ああ〜ん、もうっ、うち濡れ濡れ〜、変になっちゃうよ〜。とのは底なしなんだからぁ〜」


 彼の言葉は艶めかしい声に阻まれ、馬上の陣内は呆れ顔で目を瞑る。


 その原因は彼の隣り。

 絢爛豪華な駕籠(かご)の中の人物だ。

 担ぎ辛そうにする持ち手の人夫達などお構いなしに、色事に耽る男女の声が漏れ出てくる。

 その人物は、八枚肩、一畳分はあろう特注の駕籠(かご)をゆさゆさと揺らしていた。


「いや〜ん、もう〜、すけべ〜〜」

「よいではないか、よいではないか〜、ん〜〜、うりうり〜」

「ああ〜ん、気持ちいい〜〜っ!」


 女の絶叫と共に。

 駕籠の隙間から、毛むくじゃらの太くて短い足が飛び出す。すると、すぐにまた引っ込んだ。

 しかし、肉の弛んだこの足の持ち主こそが戦を仕掛けた張本人、出之領領主『田部 坂寅(たべ さかとら)』その人だった。


 坂虎と女郎のシズが昨夜から続く閨房(けいぼう)での色事には飽き足らず、依然男女の秘め事に興じている。


「……コホン。……坂虎様。お戯れもそのぐらいにして頂いて。進軍報告の程、よろしいでしょうか?」


「こほう、ほう、ほう……。のう、シズや、ちーとばかし待たれよ」

「え〜、いいところだったのに〜」


「すまんのう。うおっほん! ……おう、陣内か? よいぞ、申せ」


 特注駕籠に頭を垂れる陣内。


「はっ。……近頃、地震も頻発する故、休息地点となる雲上岳の麓ですが、些かおかしな点も御座います故、不安も残ります。今一度、ご検討のほどを……」


 白髪混じりの口髭と顎髭を蓄えた初老の陣内。

 彼の眼下にはクマが貼り付き、その疲れた表情も相まって、日頃の主への対応に苦心している様子が窺える。


「う〜〜む」

「……如何いたしましょう」


 先程より駕籠から垂れる簾に遮られ、声のみでのやり取りだ。


「とのぉ〜、ツンッ。キャハッ。とのぉ〜、ツンツンッ。キャハハッ!」

「やりおったな。ツンツン、うほほ、ツン、ツツン、うほほほ!」

「きゃー、ツツン、ツツツツン。きゃはっ!」

「ワシも負けぬぞ!」


「……殿」

「……」


「……陣内」

「……はい」


「今日は暑いよな」

「夏ですから……」

「そうなのぉ〜。うちもおっぱいべとべとぉ〜。気持ち悪いぃ〜〜」


「おっぱい……。のう陣内、あそこには天然温泉があるんだぞ」

「……はい」


「キャアッ、温泉っ! うちぃ、今すぐ入りたいっ! うちっ、温泉大・大・大好きっ!!」

「そうよのう、ワシも大・大・大好き〜」


「……殿」

「……うおっほん! あ〜、よって、進軍予定に変更は無しだ。よいな」


「……はい」

「やったぁっ! うちぃ、とののお体、ぜぇんぶ隅々まで洗ってあげるぅ〜、だからぁ、着いたらいっぱい、い〜っぱい、チュッチュッしてくださいましぃ〜〜」

「おう、おう、よしよし。愛いヤツよのう。ワシもチュッチュッしたいわい〜」


「もう〜、とのったらぁ〜。そんなとこに指をいれたらぁ、うちぃ、濡れ濡れ大洪水ですぅ〜〜」

「おほ〜、シズから温泉が湧き出ておるわ〜。おほ〜、ほう〜、ほう〜」


「はあ〜……」 


 陣内からは溜息しか出ない。

 (いくさ)前だと言うのに、馬鹿な会話で盛り上がる領主と女郎に彼は、頭が痛くなる思いで目頭を押さえた。

 

「おいっ、陣内」

「はっ」


 主の声色が変わり、陣内の背筋が伸びる。

 とのぉ〜、とのぉ〜、と猫撫で声をバックに坂寅は、駕籠の中からえも言われぬ威圧感を放つ。


「清光殿との条約、忘れてはおらんだろうの」

「……はい」


「それと、ワシ等の動きぐらい『神代(陸之領領主)の小倅』もお見通しじゃろう。して、回り道をしている時間が惜しいのが本音じゃ。奴等の体制が整う前に、一気にカタをつけたい」

「はっ!」


「あの赤髪の男、木場清光……奴は侮れんぞ。噂では彼奴は金山を掘り当てたそうじゃ。しかも、北の国は異国との繋がりを強化しておる」


「はい、そのようですな」


「そうなれば、行く行くはワシをも上回る金と力を持ちかねん。……否、交渉場の奴の様子じゃあ、既に持ち得ておるんじゃろうて」


「そこまでの男でしょうか?」


「……奴を侮るでないぞ。奴は十年前の『帝』暗殺事件の首謀者でありながら、今日まで生き伸びておるんじゃ、それが何よりの証拠じゃて。……奴は物恐ろしいほどに卓越した男ぞ」


「……はい」


「ククッ、しかし面白い。ワシは奴に期待しておるのじゃ。この前の条約と今回の戦は奴にとっては単なる伏線。……清光の狙いは帝ぞ、彼奴は本気で国取りを狙っておる」


「……はい」


「クフフッ、この国がひっくり返るぞ。彼奴がこの国を変えるんじゃ。ワシは奴に光明を見出しのじゃ」


「……光明ですか」


「ククッ、泥水を啜ってきた甲斐があったわい。ワシにも運が回ってきたようじゃ。この調子で暫く奴に取り憑いて、旨い汁をたんまりと吸うてやる。それだけじゃないわい、奴が国取りを終えて国内が混乱した時、そこからがワシの好機じゃて。クククッ、ククククッ」


「………」


「とのぉ〜。難しい話しは、うちにはわかんないぃ、つまんないぃいっ。ほらほらとのぉ、うちとツンツン遊びをしましょうよぉ〜〜」

「おう〜、おう〜、よちよち。シズはツンツン遊びが好きよのぉ〜〜」


 むくれるシズが坂寅に戯れてきて話は中断。

 今回の大規模遠征のきっかけを、おおよそではあるが語り終え坂寅も、トロけた声でバカでスケベな狸親父を演ずる。

 

「ほれ、ほれ、ほれ」

「いや〜ん。とのはお上手です〜〜」


 男女の密事に駕籠が揺れ出す。

 担ぎ手八人、特注駕籠の担ぎ棒を肩に食い込ませて、八枚肩の彼等の表情が著しく歪んだ。

 

 また目頭を揉みつつ陣内は俯き。

 食えない狸親父から意識を前方へと向けた。


 陸之領にそびえ立つ、未だ刻々と噴煙を昇らす活火山を視界に納め、抜けるような空の下、延々と粉塵を吐きだすこの山に一種、畏怖にも似た感情を湧き立てて彼は、人知れず疑問を呈す。


「……救世主、もしくは破壊の鬼たるか。……ワシには分かりかねんな。今はまだ時季早々か。なれど、いずれワシの目で見極めねばならぬ時がくるのであろうの。奴の、清光殿の真意を……」


 そう呟いた陣内ではあるが。

 たちまち首を横に振り、己が主観的な考えを追い払う。

 ワシ如きが深読みする件ではあるまいと、自らを叱責する。


 陣内は伸び切った隊列に視線を向けた。

 自領からも視認出来る、それこそ子供の頃より見慣れた雲上岳を目前にして怖気を感じていた。


 いつにも増して勢いよく噴煙を吐きだすこの山を眺めて彼は、如何、如何と、また己を叱責し、深い嘆息とともに苦労人の顔を覗かせていた。





「ねぇ、ねえ、マルたん。ここ『日立峠』に誰か……。う〜ん、十人かなぁ。踏み込んできたよ」


「えっ、……誰なの?」


「サンカクッ! 誰だよ、そいつらっ!」


 モンジ一行を監視する彼女達。

 木陰に隠れて会話する丸、罰、三角の三人である。

 三女のサンカクが眉根を指で押さえながら捻り出してきた情報に、マルとバツがすぐさま食いついた。

 

「う〜ん。う〜ん。……あっ、見えてきた。……あれは確かぁ〜。あー、そうそう。出之領の乱破衆『霧隠れ』の面子じゃないかなぁ〜。たぶん、頭目がぁ〜、あっ、いた、いた〜。発見しましたぁ〜『巳波 浜一(みなみ はまいつ)』、間違いないですねぇ〜」


 特殊な能力を発揮するサンカク。

 目を閉じたまま俯き、指を置く眉間に皺を寄せてサンカクが声を弾ませる。


 ふんわりとした笑顔でおでこに汗を滲ませる彼女は、ここから見える筈の無い光景をつぶさに長女と次女に知らせていた。


「……マル、どうする。話しが違うんだけど」


 次女のバツが不安げに長女マルに詰め寄る。


「……そうねぇ。予定より早いけど……。それだけ、坂虎が本気ってことかしら。……だけど腑に落ちないわ。この『日立峠』にだけは手を出さない契約のはず。なんだけど……」


 顔を曇らせるマルと、それを見つめるバツとサンカク。


「……ねぇ、サンカク。方角はどっち? わたし、ちょっとあいつ等に文句言いに行ってくるわ。これは紛れもなく契約違反だもの。……ここには私達の家があるのよ、見過ごせない。この峠だけは、何としてでも守らなきゃ」


「マルッ、あたしも行くよ!」

「……そうね。話しが通じる相手か分からないもんね。その時はヤルしかないもの。……サンカク、あなたはこのままあの少年とシカクの尾行をお願い」

「了解しました〜」


 早速、動きだしたマルの腕をサンカクが捕まえた。


「ちょっと待って、丸たん。あいつ等のヤバイ噂、知ってる?」


 珍しく慌てた様子を見せるサンカク。


「……知ってるわ。任務遂行に失敗は許さない完璧集団でしょ。二つ名は『狂人の掃き溜め』だったっけ。頭目がかなりイカれてるって噂の」


 安心させるつもりなのか。

 笑みを滲ませるマルに、笑顔なんて気休めにしかならないと、首をふるふると横に振るサンカク。


「とう!」

「痛い〜」


 ペチンッと手刀を頭に叩き込まれ、涙目でサンカクが頭を押さえた。叩いた本人バツを、恨めしそうに睨む。


「あたしとマルは最強なんだからっ、そんな顔しないのっ!!」


 心配ご無用とばかりに。

 ニカッと陽射しに歯を煌めかせながら、バツは最高の笑顔をサンカクに見せつける。


「う〜〜、分かった。……いってらっしゃい。あたしからも援軍を送るから、要らないって言わないでね。あと、たぶん、狼ちゃんだから仲良くしてね」


 しぶしぶだ。

 涙目、膨れっツラのサンカクがやむを得ず了承する。彼女から譲れないお願い、援軍の追加を約束させた。


「……ありがとう、心強いわ。じゃあ、後はお願いね。行くわよ、バツ」

「おうよっ!」

「マルたん、気おつけてねっ! つったんもねっ!」

「つったんって、呼ぶなっ!!」

「マルたん、つったんが怒るよ〜、怖いですぅ〜」

「だからっ、つったんって呼ぶなっ!」


「……はぁ、じゃあね」

「あっ、待ってよ!」


 またかと、額に手を置くマル。

 いつもの不毛なやり取りに疲れた表情でマルが一抜け。

 眉を逆立てていたバツも慌ててマルの後を追い、その姿を霞の如くに消し去った。


「……マルたん。つったん。気おつけてね。……そうだった、あたしも、こうしちゃいられないっ、あの子達を呼ばなきゃ!」


 余韻に浸る暇も惜しみ彼女は自らの能力を解放する。先ほどの千里眼といい、彼女は『何かしらの能力』を駆使する。


「うん、狼ちゃんが近くにいる」


 そう呟き木陰で四つん這いになる彼女。

 犬を模した格好で念を込めている。


 目を瞑るサンカク。

 その身を包むのは、薄らと青白い輝く逆巻く波動。

 墨色の忍び装束が波打ち、ウェーブのかかったロングヘアーがザワめく。そして次の瞬間。


「あおぉぉおおおぉぉぉおおおおおおんっ!」


 森に吠声が轟いた。

 遠吠えを発したのはサンカクだ。

 次いで訪れるは、無数の獣の気配と息遣い。その全てが彼女の周囲に集結する。


「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……」


 森の中から一頭、二頭と、野生の狼共が彼女の元に集まり、最終二十頭ほどにもなっていた。


 獰猛な獣の群れを前に彼女は微笑み。


「……みんなっ、ありがとう。早速で悪いんだけど……マルたん達を守って欲しいの。悪い人達にイジメられるかも知れないから……ね、お願い」


「「ッガウ!」」


 彼女の命令を受けて鋭い歯を剥き出し、狼の群れが駆け出す。

 一人残されたサンカクは、藪に突っ込む彼等の背中を寂しく見送っていた。


「……みんな、お願いね」


 胸騒ぎを覚え、彼女は自らの豊かなバストを押さえて、悲痛な表情を作る。


 彼女の能力が明らかとなる。

 獣を意のままに操る能力、サンカクは『獣使い(ビーストマスター)』の能力を有する異能者であった。


 自らの任務を遂行すべく、ひとり踵を返したサンカクは不意に空を見上げ。


「……噴火の前兆かも〜」


 と、視線の先にある空高くにまで黒煙を吐きだす雲上岳を眺め、不安を拭い去るよう明るく語るも。

 すぐさま無い無いと苦笑し、この場から立ち去った。





「ヒヒーンッ! フヒヒンッッ! ヒッ、フヒヒーン。ブルルッ!」


 ハッチ()ウサギ()が辛そうだ。


 それもそのはず。

 人数も増えてぎゅうぎゅうの幌馬車と、現在進んでいる峠道は坂道の連続。馬車を引くハッチとウサギもしんどいのも頷ずける。なので。


「……ふう。……重ッ! 暑っつ! 重ッ、暑っつ!」


 例よって、絹さんによる。

「男でしょ!」と、現代なら性差別発言で、俺とおでんと与一郎の男衆は全力で馬車のお尻を押している最中なんだが……って、とにかく重いんスよ、コレ。


「ふぐぐぐ〜、ぬおおおおお〜、なおおおおお〜」

「よ、よい、与一郎。だ、だ、大丈夫、大丈夫か?」


 与一郎は変てこな声を出して汗だくで、体力自慢のおでんが余裕そうなのがムカつく。


「モンジ、お水飲む?」


 水筒片手に俺達の周りをチョロチョロしていたバンビが聞いてくる。


「あ〜、先に与一郎に飲ませてくれろ。ほら、あいつ、口の周りに泡出来てるし……」

「うん、分かった」


 トトトと、熱中症間際の与一郎に駆け寄るバンビ。

 そうなんだ。登り始めに聞いた、バンビの実家のアレコレも気になっている所だ。


 事前に家族構成等々、詳しい事情を尋ねたが、キョどるバンビにはぐらかされてしまい、結局家の場所しか要分からんかった。


 やっぱまだ警戒されてんのかなぁ、なんて思ってしまい、かなりヘコんでいる状態です。


「ふぐぐぐぐぅ〜〜〜〜っ」


 そこで八つ当たりじゃないけど、頭の中を空っぽにすべく全力で馬車を押しているワタクシがおります。


「どりゃああああああっ!」


 暫くして。


「「兄ちゃん頑張れ〜!」」

「「ヒョロヒョロの兄ちゃん、頑張れ〜!」」

「「太ったおじさん、顔怖いよ〜〜!」」


 子供らの声援を受け俺達が坂道と格闘すること、もう半日近くになります。

 山のテッペンが薄ら見えてきたところで、俺の体力も限界間近。

 健気にもバンビのヤツが俺の背中を押してくれている。ならばと……。


 美人女優の『由美か〇るさん』の入浴シーンを思い出して奮い立とうじゃないか(決して熟女マニアではありません)


「ぐあ〜っ、エロパワーッ!」

「エロパワーってなに? ねえっ、モンジ!」

 

「うるせえ、説明させんな! ぐおおおおおおっ!」

「聞いただけなのに、うるさいってなによ! このっ、このっ!」


 いきり立つバンビにケツをグーで叩かれる。

 是非も無し。

 イラ付きもするさ。

 だってワタクシ、超寝不足ですもん。今だって、体はワキワキ、脳味噌フワフワするもん。


 “ あお〜〜〜〜〜んっ ”


 あれ〜、どっかでワンちゃんが鳴いてるよぉ〜。

 可愛いなぁ〜、わんちゃん。ワンちゃん? (わん)ちゃん。ナボナはお菓子のホームラン王です。ッキリ! 


「エヘッ、エヘヘへ。アハ、アハハハハ、アハハハハハ」


 ……疲れを通り越して、モンジはアホになった。


「……モンジ。……お水飲む?」


 気持ち、引き気味のバンビが水をくれました。


「センキュー、バンビ。ッんぐ、んぐ、んぐ。プハァァァ! ぬっるっ! まっず! でも生き返ったぁ、あんがと」


 微妙な顔のバンビちゃん。でも、お陰で多少は復活した。


 頭もマシなった所で今の状況を整理する。

 馬車は御者に絹さんを置いて、荷台に子供達六人と保護者役のモモちん。

 バンビは俺達のサポート係で今はご立腹中。

 よし、目的地の山の天辺は間近だ、もう一踏ん張り頑張んべ。


 “ アオ〜〜〜ン ”


 また遠吠えが聞こえ、バンビがソワソワしている。……怪しい。

 遠吠えのした後方に体ごと向けて、登って来た坂道の下の方をジーと見ている。……ますます怪しい。


「……どうしたん?」

「えっ! べ、別に、何でもないよ」


 明らかに誤魔化してる。

 バンビは微妙な笑みで笑って見せているが、どこか上の空だ。


「お前、気になる事がある──」

「バンビさん、お水取ってください〜。僕、もう、喉、カラカラですぅ〜」

「お、おでにも、み、水をください」


 問いただそうとしたら、ヘロヘロの与一郎がおでんに邪魔された。


 “ アオ〜〜〜ン “


 まただ、また犬の事だ。

 水を要求する与一郎をガン無視して、バンビは表情を固め。


 そして次の瞬間── バンビが忽然と消えた。


「お、おいっ! バンビっ、どうしたっ!」


 バンビの姿が消えたんだ。

 急に、なんの前兆も無く忽然と。


 俺は焦った。

 首を振って辺りに目線を走らせ、俺も走る。

 馬車の下、馬車の中、前、おでんの後ろ、だけどバンビは何処にも居ない。


「あんた何してんのよ?」

「モンジさん、どうかしました?」


 焦る俺に、何事かと訝しむ絹さんとモモ。

 おでんと与一郎も馬車の周りを探している。


「……ヤバい、バンビが居ない」


「「ええ!?」」



 馬車一台でそこそこギュウギュウの峠道。脇にはガードレールなんてもちろん無くて、街道脇は傾斜のキツい結構な急斜面になっていて。


 最悪だ、落っこちた? ……もしくは攫われたのか。

 俺はそう判断したんだ。



 後ろにはいない。

 周りにもいないっ!

 なら、斜面に落っこちたッ!

 まずい、こっから落ちたら洒落になんねぇッ!


「何やってんのよっ、あんたら!」

「モンジさん、モモも手伝います!」


 馬車がすぐに止まり、絹さんとモモが馬車から飛び降りて、続いてわらわらと子供達も降りてくる。

 与一郎が馬車に飛び乗り、大き過ぎる薬籠を背追ってきて。

 絹さんとモモは斜面の上、木の影を草の根を分けて探しており、おでんが馬車周りを隈無く捜索。


 ならばと。

 子供らが闇雲にウロウロするなか俺は、後先考えずに街道脇の斜面を滑り降りていた。


「バンビッ! バンビッ! クッソ、何処いきやがった!」


 必死に叫んでいた。

 落ちた確証は無い、不自然な消え方だったから。

 だけど一番危惧しているのは、それこそ目にも止まらぬ速さで攫われてしまった可能性だ。


 無いとは言えない、イエ姉がそうだったから。

 だってそうだろう、人が突然消えるなんて有り得ないだろ。


「クッソ、バンビ! ッバンビ!」


 木に絡まっていた蔦に掴まり俺は急斜面を降りてゆく。


「バンビッ、バンビッ、バンビッッ! 頼むから返事してくれえーっ!!」


 人攫いがトラウマになっていた。

 自分でも驚くぐらいに取り乱していた。


「モンジさんっ! バンビちゃん、いましたっ!」


「……へっ、なんで上から、なんで!?」


 斜面を降りていたら上から声が掛かり。

 モモが教えてくれたんだが、取り敢えずホッとした。


 斜面から草まみれで這い上がる俺。

 見ると、バンビは皆んなに囲まれちょこんと正座をしていた。


 モモと絹さん、おでんと与一郎と、この四人に見下ろされバンビは泣きそうな顔をしている。もう絹さん辺りに、散々怒られた後だなと察する。


「このバカ、心配させやがって……」


 服と髪の毛に付いた葉っぱを払いながら、みんなに近づこうとしたら絹さんに腕を掴まれ、耳元でこう囁いてきた。


「モンジ聴いて。あの時も……あー、昨日ヤクザ共に追われていた時ね。……あの子、今みたいに急に消えたのよ。……ねぇ、なんかこの子おかしくない?」


 チラチラとバンビを見ながら耳打ちをしてくる絹さん。


 確かに。

 あの時バンビは助けにきたって言っていたけど……。こう、いきなりパッと現れた感じだったし。う〜ん、不思議な感じだった。そう言えば絹さん、昨日……。


「昨日言おうとしてた事って、コレのこと?」


 バンビに目線を留めながら絹さんは頷く。


「あー、そう。……そうか。そうだよな、変だよな。……まぁ、でも、無事だったんだし、別にいいんじゃない」

「はあ? いいんじゃないって、それだけっ! おかしいじゃないっ、あの子!」


 絹さんの言いたい事もわかる。

 心配させられた俺も正直腹ただしい。

 だけど、昨日オッサンらをやっつけた『超能力』的なもんを見ていたし。

 でも、なんだろう。

 バンビの無事な姿を見てたら、そんな事どうでも良くなってきた。

 

「……怪我も無さそうだし、俺からは以上だ」


「ホントッ、あんたっ大丈夫あたまッ! あの子、消えたのよっ、消えたり現れたりって、変でしょっ! ねえ、ねえっ……ったく、意味わかんないッ!」


 もう、小声の域を超えた音量で巻くしたてる絹さんに苦笑いしか出ない。そして俺は落ち込んでるバンビに近寄り。


「あのさ……。急にいなくなると心配もするし、不安にもなるし……悪い事に巻き込まれたんじゃないか、とかさ、思っちゃうんだよね。だからさ、どこかに行く時は必ず一言……欲しいかな?」


 説教臭くならないように話したつもり。

 地面に視線を落としていたバンビが顔をあげ、空色の瞳が俺を見つめてきて。


「……」


 無言のバンビ。

 何かを訴えかけようとする彼女の瞳から、勘違いかも知れないけど「助けて」って言っているように、俺には思えたんだ。


「……困りごとか?」

「えっ、なんで……」


 バンビは驚いた様子を見せる。やっぱ図星だったらしい。


「バカかお前。そんな顔して見つめてきたら、誰だって分かるだろ」


「バカじゃないもん……」


 煮えきらない態度のバンビに、段々イラついてきた。


「……いいから、今はそういうの。……で、お前は何に困ってるんだ? 何か問題が起きているのか?」


「……」


 今度はダンマリかよ。


「モンジさん、バンビちゃん、あの……」

「モモはちょっと黙ってて、俺はバンビに聞いてんだから」


 バンビは膝に置いた手をギュッと握り締め。俺を睨むように見つめてきて。


「……あたし、行かなきゃ。……急用が、出来ました」

「急用って、なんだよ!」


「……言いたくない」

「……言えよ」


「……ヤダ」

「なんでだよ」


「嫌だからイヤ」

「子供か!」


「子供じゃないもん」

「だったら言えよ!」


「嫌だ」

「なんだよそれ!」


「モンジに関係ないじゃん!」

「関係無いけど気になんじゃん!」


「ヤダ、言わない」


 全く話しが進まない。

 腕組みで聞いていた絹さんが、業を煮やしてしゃしゃり出できた。


「ねえ。みんなに心配かけといて、言いたくないってどう言うことよ。ねえ、ねえっ! 急に出たり消えたり、妖みたいにあなた。みんなに、キチンと説明しなさいよ」


 鬼瓦かよって顔で、絹さんがバンビに迫る。

 バンビも萎縮してしまい、絹さんを直視できずに視線を左右に彷徨わせるも。


「……ごめんなさい。あたし、もう行くから」


 結局こうなり。

「勝手にしなさい!」と、絹さんはキレてバンビを見放す。


「皆さん、ここは落ち着いて話しましょう」


 不穏な空気に居た堪れず、モモが仲裁に入る。

 ザワめく雰囲気の中、与一郎が横から絹さんをなだめ、子供らは不安気な様子で成り行きを見守り、おでんは例の如くオロオロしていた。


 う〜ん、カオスの状況になってきたな。それでも俺は。


 俺は目を瞑って考えるフリをする。

 これはあくまでも考えるフリでしかない。

 なにせ俺の中で俺の役割なんて、当に決まってるんだから。だから考えるフリをする。


 なんでフリ? 

 そう聞かれると……。

 なんでもそうだけど、ガス抜きって必要だと思わない? 

 だからかな。

 この一見無駄とも思える時間が、バンビに対するネガティブな思いを吐き出すのに丁度いい、有耶無耶にするには丁度いいと、そう思ってね。


 バンビの事などそっちのけで、日頃の不満をぶつけ合う森山村一行。

 おバカな奴らだぜ、だがそろそろ頃合いだな。


「……なあ、バンビ。手相を見せて」

「……なんで?」


 俺を怪しむバンビ。そりゃあ、そうだろう。なので。


「俺は手相で未來予知が出来るんだぜ」


 真顔で嘘をつく。


「え、え、本当に!」

「ああ、本当さ。試しに俺の未來を見ると、手相は基本感情線と運命線と生命線で成り立っていて──」


 バンビが底抜けバカで良かった。

 俺は畳みかけるように占いの鑑定士っぽく装い。

 自分の手相で、適当にいい感じの未來を爽やかな笑みと共に披露した。もちろん全部嘘だが。


「先生、あたしのもお願いします!」

「どれどれ、見せてみなさい」


 硬く握り締めていた手を俺に差し出すバンビ。引っかかったな。


「ウエ〜イ! バンビ、ゲットだぜ!」


 俺はバンビの手を両手で掴んだ。

 繋いだ手に、更なる力を加えた。

 目の前でバンビが困惑してるが知ったことか。


 ゲームとかでもそうだけど、転送される対象者に触れていれば、その触れている者も一緒に転送されるよな。あくまで俺の予想なんだけどね。


 勝手な思い込みだけど……。

 困っている女の子がいたら、俺は放ってはおけない性分なので。ましてや、その子がバンビなら尚更だ。俺はバンビが気に入ってるからな。


「離して、モンジ。あたし、行かななきゃ。モンジ、手を──」

「だよなぁ、誰でも言いたく無いことの一つや二つ、あっても可笑しくないよなぁ」


 話題を変えて、俺はバンビの願いなんぞ無視する。


 俺にはこの子の気持ちが分かる気がするから、だからこの手は離さない。絶対に離さない。


「モンジ、あたし……」


 そんな情け無い顔するなよバンビ。

 俺はお前に借りを返したいだけなんだ。


 言葉を詰まらせたバンビに代わって、俺は自分勝手に話しを進める。


「……誰にでも秘密にしたい事があるって話し。根掘り葉掘り聞かなきゃ気が済まないって、そんな悪趣味な性分は待ち合わせてないから安心しろ。そりぁ、生きてりゃあ色んな事もあるし、バンビは女の子なんだから尚更だろ。例えば、誰かさんが寝ている時の歯軋り──ッぎゃん!」


 久々に絹さんから肩パン貰いました。

 自覚してたのね。ワタクシ涙が出ました。とっても痛いです。


「つつぅ、ってなことで。誰にでも言いたく無い事や秘密があるのは当然のことだから。それに俺は、バンビを助けたいだけなんだ」

「………」


 バンビは泣きそう、いや悔しそう、かな。

 彼女は繋いだ手とは逆の手で、着物の太腿部分の布をギュッと握り締めている。


 この時点で。

 バンビのこの態度で、退っ引きならない理由があるのは確定だ。


「なあ、バンビ。『困っている時はお互いさま』って言葉、知ってるか?」


 首を横に振る彼女。


「人は助け合って生きてくもんだぜ。つまりは俺達はお前を助けたいんだ。お前が俺達を助けたみたいにな」

「で、でも。危ないからっ……あっ!」


 慌てて、手で口を塞ぐバンビ。

 これで危険が伴う事情が知れた。

 情報源は定かでは無いが、なるほど俺達に言えなかった訳だ。


 こうなると話しが変わる。

 子供のお使いじゃないんだ、危険が伴うなら多少でも情報が欲しい。それなら聞き方を変えてみるか。

 

「なぁ、バンビちゃんよぉ。俺っち、あんたに一回助けられてんだぜぇ。こちとら江戸っ子なんだぜぇ。借りってもんはキッチリ返すのが人情ってもんだろうが、なぁ。一言、お願いって言ってくれりゃあ、俺っち、喜んで手ぇかすぜぇ。なぁ、水臭いこと言わんでくれよぉ、なぁ」


 なぁ、なぁ、言いながら、少女にねっとりと絡みつくモンジ。

 おでん以外の特に女子が『気持ち悪っ!』と思ったのは、言うまでもない。


「……で、でもっ、ホントに危ないからっ!」


 バンビも負けずに、強い言葉と瞳で訴えてくる。着物を掴む手に力を入る。

 だけど、俺の手を振り解こうともしない時点で、その真意を見た気がして。

 

「……皆んなを危険に晒したくないお前の気持ちは分かった。だったら、俺と二人で行こうぜ。それならいいだろ?」


 繋いだ手を離さない。

 危険があろうが無かろうが、俺の決意は変わらない。


「でも、モンジ、本当に危な──」

「はいはい。……絹さん、ワリィ。俺、バンビと行く事にしたから。そうだなぁ、みんなでバンビの実家でお茶でも飲んで待っててよ」


 戸惑うバンビを他所に。

 あとで行くからと、サラリとしたモンジの喋り口調。

 遊びに行くみたいな軽いノリのモンジに一瞬、面を食らった絹も次には笑みを洩らし。


「プッ、あんたらしい。分かったわ。あんまり遅くならないでよ」


 調子を合わせてくれた絹さんに感謝だな。


「モモも行きますっ!」間髪入れずにモモが挙手。

「お、おでっ、おでも行くっ」おでんが身も乗り出す。


「僕もっ、と言いたい所なんですが……たぶん、僕は足手まといになるのが目に見えてますので──ッガ、ガサ、ッゴソ。コレ、コレッ、持ってって下さい、タイガーバルルッ。昔、見せ物小屋で買った外国製の薬です。傷に良く効く軟骨ですから」


 おおう! 見せ物小屋ってガキの頃のお祭り以来だな、懐かしいな。しかも、どっかで聞いたことがあるネーミングの薬だし。

 見た目もこれ……ライオンだろ。

 ライオン缶でタイガーバルル。そこはかとなくパチもん臭ささが漂う……。


「……与一郎、助かるよ」


「モンジ兄ちゃん、早めに帰って来てねー。バンビちゃん、まってるからねー。あたしは、お茶の用意するー。絹と、おにぎり作って待ってるからねー。俺の神鉄砲が火を吹くぜー。……バンビちゃん、帰って来てね、絶対、約束だよ、針千本だよっ」


 荷台に乗り込みながら、子供達は口々に喋りだす。

 あと、気になったんだが、絹さんは呼び捨てなのな。ま、いっか、絹さんだし。


 改めてバンビと繋いだ手を握り直す。

 ん、バンビの様子がおかしい、呆けたまま動かない。


「おいっ、バンビ。……どうしたん? オシッコか?」

「オシッコじゃないっ!」


 あ、秒でキレた。

 顔を真っ赤にするバンビは下系の話は敏感らしい。

 下ネタ好きの俺には、からかいがいがあるってもんだよね。て、おっと、これはセクハラ発言になるのかな?

 

 にこやかな俺に毒気を抜かれたのか、牙を収めたバンビがまたシュンとする。そして、口を重そう開いて語り出した。


「……あのさ、モンジ。なんでみんな、あたしに……こんなあたしなんかに、優しいんだ」


 騒ぐ子供達の声に、掻き消えてしまいそうなほどか細い声で、バンビがシンプルな疑問をぶつけてきた。


 ……簡単なことなのに。

 簡単なことだから、アホな俺でも答えてやれる。


「……みんなバンビが好きなんだぜ。もちろん俺も含めてな。それで、バンビもみんなのことが好きなんだ。……違うか?」


「えっ……モンジも、あたしを……」

「ああ、俺もバンビが大好きだ」


 親戚の子供に言ってる感覚で好意を伝えた。


「……あたしを大好き?」

「ああ、大好きだよ」


 キョトンとするバンビ。

 すぐにモジモジし出す。

 そして真っ赤っか。

 照れ臭そうに、彼女の茹で上がったつるんとしたおでこから、湯気が出てきそうな程だった。


「あっ……そうか。……そうか。……うん、そうだな。……あ、あたしもそう。そうなんだよ。あたしもっ……。あたしもっ、みんなのことが大好きだっ!」


 パァーと、辺りに笑みが咲き乱れる。

 彼女の告白はみんなにも届いたみたいで、みんなもいい顔をしていた。たぶん、俺も。


 それに比べて当の本人は。

 バンビだけは恥ずかしいのか、全身発火させて地球と睨めっこしてたけど。……照れてるバンビも可愛いかった。


「くっちゃべってても拉致あかんし。どこ行って、なにすんのか知らんけど。じゃあ、ここらで、スパッと行って、スパッと解決しちまおうぜ!」


「……うん。……あのさっ、モンジっ。……いやっ、ゴメン、やっぱりあとで」


「なんだよバンビ。めちゃくちゃ気になるジャン。鼻くそでも飛び出てた!?」


 気になるんだけど……。


「お待たせしましたっ!」

「お、お、おでも、いつでもいいぞ」


 いつのまにやら着替えに行っていたモモちん。

 愛らしい町娘スタイルから動き易い忍び装束に変身してきた。


 背中に刀と袖口から金属の武装が覗いてますが、これ如何に。モモちん、ガッツリ戦闘モードでいらっしゃる。

 おでんもって言いたかったが、別にこいつは普段通りだな。うん、つまんねーヤツ。


「モンジさん。槍、得意ですよね。持って来ました」


 そう言って物干し竿を渡してくるモモちん。


「センキュー、モモちん。おお、これは素晴らしい。二代目青龍偃月……いや、違うな。グングニル(ただの物干し竿)。お前はグングニル(ただの物干し竿)だぁ!」


 伝説の槍、グングニル片手にテンション爆あがりのワタクシ。


「……それ、最後の一本なんだから。また壊したら、あんたのその腕……へし折るわよ」


 おりゃぁーと、調子に乗ってヒュンヒュン振り回していたら、絹さんに釘を刺されました。想像では五寸釘ぐらいの太っといヤツです。


「……うす」


 すいません、肝に銘じておきます。絹さん、マジな目をしていました。とっても怖いです。

 絹さんの脅しのお陰で、冷静になれました。


「んっ、準備も出来たし、そろそろ行こっか」

「……モンジ。あのね、あたしねっ、二人が限界なの」

「……えっ、どう言う意味?」


「瞬間移動、あたしが出来るのは分かったでしょ。その説明はいる?」

「パッと、別の場所に飛べるんだろ、一瞬で」


「うん。それとモンジ。あのね、あと一人だけなの」

「だから、どう言う意味なのっ!」


「こう言う事ですよね」


 モモがバンビの空いてる左手を掴んだ。


「……うん」

「えっ、なに、なによっ、俺、分からんないんだけどっ!」


「……行くよ」

「……はい。……ゴメンね、おでんさん。では、行ってきま──」

「ちょっ、まっ、おでんは? だから、意味分かんないって、ちゃんと──」


 俺とバンビとモモの三人は、絹さん、与一郎、おでん、そして子供達の目の前で忽然とその姿を消し去った。



 ありがとうございました。

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