第94話 乙女の恋慕は凍らない10
学院街を歩き回ってお茶をしたりイチャイチャしたりまったりしたりグダグダしたりと大忙しの時間。
そんなこんなで日も暮れる。
夕餉はカノンと取る。
セロリにはそう言っている。
不義理ではあれど、
「セロリだし」
などと斬首刑な言葉を吐く。
だいたい何やっても許される程度の安心感を持っているのは、はたして信頼なのか侮りなのか?
「まさか自主的に負けるとはですね~」
カノンは不満らしい。
リーグのことだ。
だがミズキの方にも理論立てたい由はあるし、自己弁護の意味でなら正当性だって持っている。
「俺が出ても面白くないだろ」
すました表情で述べた。
実際…………勝とうと思えば勝てる。
術式拡散で相手方の魔術を封じてフルボッコ。
それだけだ。
が、それは、
「そもそも魔術師同士の争いではない」
も一側面。
白けた空気になる。
そんな必然。
「ま、後は何かと盛り上げてくれるだろ」
そんなミズキの楽観論。
「ミズキに頑張って欲しかったのですけど……格好良いところが見てみたいというかへっぽこを払拭して欲しいというか」
「悪いが興味ない」
そも立っているステージが違う。
威力が違う。
広告が違う。
次元が違う。
ある意味で、
「カノンが出場するより悪辣」
も事実。
そんな話をしている間にも時間は進む。
「じゃ、ここで」
寿司屋に入る二人だった。
鮮魚が泳ぐ水槽。
それを捌いて寿司にする。
払いはカノン。
「給料も貰っていますし」
との意見。
特別顧問。
教授とはまた別の形で金銭取引が為っている身分だ。
「謳歌の解釈は進んでいるのか?」
「そこそこですね」
太陽を覚えたのがつい先日。
中級魔術とて覚えるのは一苦労。
神話言語は意味が有って無き様な物。
だからこそ人語に訳されているのだが。
「火属性の魔術はもうすぐ網羅できると思います」
「火の究極魔術もか?」
「ソレは無理です」
サックリ。
基本属性四種。
複合属性四種。
計八属性にはそれぞれ、
「究極魔術」
と呼ばれるカテゴリーが存在する。
が、こればっかりはさすがに図書館の蔵書には載っていない。
そもそも、
「本当にあるのか?」
とさえ議論される象徴だ。
けれどもミズキの結論は、
「在る」
でファイナルアンサー。
実際に一つ知っている。
というか身につけている。
論文にすれば大論争が起こるだろう。
であるため、
「封印」
と云う形で秘密にしていたりして。
あまりに強烈すぎて、
「人の身で扱える物じゃない」
が測定論だ。
元々の治癒魔術が不条理なのに、そこに究極魔術を加味すれば、
「俺は一体何なんだ」
程度に顧みはする。
「とりあえずマグロとサーモン……カンパチとホタテ。二人前」
淀みなくカノンは寿司を注文していた。
「でも火属性魔術は面白いですよ?」
「何が?」
「錬金術でしたっけ?」
火属性魔術は物質の変化を主とする。
――錬金術。
そう呼ばれるのも自然だ。
「物質の変化は見ていて面白いですし」
「まぁなぁ」
錬金術の所以だ。
「風属性も面白いですけどね」
「お前の脳はどうなってんだ」
完全記憶能力。
ソレは既に話していたが。
サーモンをアグリ。
「人にだって取り柄の一つはありますよ」
「天は二物を与えず」
「ミズキがソレを言いますか」
「そういや学院祭が終われば中間試験だな」
「ミズキに関しては心配も無用でしょうけど」
「まぁなぁ」
赤身をアグリ。
「身を立て名を上げ、やよ励めよ」
「今こそ別れ目。いざさらば。……か?」
「さらばじゃないです!」
「知ってるが」
イクラをアグリ。
ことグランギニョルの意味で、この二人は突出しすぎており、既に常識や観念という理屈から幽離もしていた。
南無。




