第93話 乙女の恋慕は凍らない09
高等部武闘祭。
その本戦。
一回戦。
予選を勝ち抜いた三十二人によるトーナメント。
「当然出るだろう」
と予想されたサラダは不参加。
身も蓋もなく言ってしまえば、
「出るだけで優勝」
と呼ばしめる。
そのサラダが出なかったため、事情を知らない関係者は混戦模様を描いていた。
かなり上位の生徒も現われてはいるが、サラダの突出具合に比べれば穏当に十の三乗がのっかる。
「南無三宝」
と印を切るミズキだったが。
実のところ心配はある。
ヒロイン各々にミズキへの願望はあるのだろうが、
「優勝すると名誉がついてくる」
それもまた事実。
ミズキとしては「へっぽこ」でいたいのだ。
その方が安心するし、安定もする。
そんなわけで、
「始め!」
試合開始の合図とともに、
「――術式拡散――」
宣言する。
魔術の謳歌を解きほぐす魔性の風。
風属性の魔術無効化現象。
対魔術に於いて風属性のかなり希少な防御魔術だが、なにせミズキは風属性しか使えない。
「――火球――」
炎弾が撃たれ、しかし拡散する。
こと魔術戦では絶対防御だ。
「ふむ」
と呻いたのはミズキ。
「顧みるに……」
自身の衣装。
メイド服。
「何をしているのかね?」
そんな自己疑念。
「――火球――」
「――炎熱線――」
「――灼熱首装――」
炎の塊。
熱線の灼熱。
首飾りにも似た熱炎の連なり。
立て続けに撃たれる火属性。
その一切がミズキには届かない。
「どうしたものか?」
そう思って、
「…………」
しばし刻を過ごす。
相手方が疲弊していた。
魔力は体力を元手に作られる。
要するにやっていることは、
「肉体運動」
に相違ない。
走り続ければ息が切れる様に、魔術を使い続ければ同じように息が切れる。
それはミズキも同条件だが、
「ま~ね~」
が事情を知るヒロインたちの感想。
「…………!」
疲弊しながらもキッと睨む挑戦者。
スッとミズキは挙手した。
「選手ミズキ」
指名。
「何か?」
「参った」
「は?」
「俺の負けだ」
「え……と……?」
審判の困惑。
「魔術を使いすぎて体力がすっからかんだ」
清々しい嘘をつく。
「本当ですか」
「さすがに生身で火炎は受けたくないな」
「はあ」
ぼんやりと。
「では選手ペストの勝利と言うことで」
何の盛り上がりも無い試合であった。
当然ヒロインは納得しないが、
「へっぽこの方が良い」
とのミズキの思念が分からないでもない。
理解はしないが認識はする。
そんな感じか。
「うー」
「むー」
「ぐー」
かしまし娘の総論。
「いいだろ別に」
此処で本気を出さなくとも。
そういうことだった。
「お前らがピンチだったら助けてやるから」
「契約」
とカノン。
「だな」
ミズキ。
「?」
他のヒロインには意味不明。
「とりあえずデートの続きと行くか」
ミズキは桃色の髪を撫でた。
「にゃ」
嬉しそうにはにかむカノン。
そうして世界は回っている。




