第84話 学院祭パニック25
「――――」
五人の襲撃者が暴行に奔る。
囲んではいるが同時ではない。
連携は取れておらず、チームプレイは無いに等しい。
なお体さばきは愚鈍で、加速もいまいち。
振るうナイフの速度すらも、
「はぁ」
溜め息をついてから対処できる案件だ。
「――疾駆――」
宣言を口にする。
術式の構築は一瞬だ。
急加速。
一人に襲いかかる。
五人の襲撃者はミズキを見失った。
宜なるかな。
単に、
「危険思想を持っているだけで数を頼みに嫌がらせするだけの愚物」
そうミズキは捉えている。
口に出して言わないのは、
「説教する柄でも無い」
が一つで、
「馬に説法を聞かせる人間がいるか?」
が一つ。
話し合いは知性有りきだ。
戦争を起こすのが人間なら、対話でコミュニケーションをとるのも人間。
ミズキの基本姿勢は後者だが、
「頭の悪い人間に付き合うほどお人好しでもねぇしな~」
叩き伏せるにはとりあえずそれだけで理由にはなる。
疾駆からの加速。
そこから繰り出される神速の拳。
肋骨を折って苦悶が襲撃者の顔に映される。
そのまま肋骨を肺や心臓に刺すことも出来たが、そこまでの熱意をミズキは持てなかった。
タダでさえ厄介事だ。
相手方が殺す気でも、返り討ちにすればミズキは正常主義者に口実を与えるだろう。
自分がへっぽこであることを理解して尚、
「まだまだだなぁ」
襲撃者に陰惨な笑みを向けるのだった。
左右からの襲撃。
バックステップ。
更に背後に二人。
刺突が二つ。
拳も二つ。
握られたナイフがさらわれた。
ミズキが手を打ち据えて奪ったのだ。
両手にナイフを構える。
サクッと。
首筋を掠るように振るわれる。
ミズキを背後から襲った襲撃者二人は青ざめる。
殺すはずだった異常者に毒ナイフを奪われ、尚且つその毒を自分で受ける羽目になれば危機感と焦燥感の二重奏はむしろ必然だ。
「解毒剤は持ってないのか?」
毒物を取り扱う際は必須だが、そこまで徹底もされていないらしい。
全ては一瞬の出来事。
五人中三人が簡単にあしらわれる。
もう二人は狂気に満ちた眼を仮面の奥から覗かせて襲ってきた。
「この場合は情状酌量の余地があるのか?」
少し考える。
四つの毒ナイフ。
ミズキが二つ。
襲撃者二人が一つずつ。
「――疾駆――」
一陣の風。
疾風となったミズキの剣閃が襲撃者二人を切り裂く。
毒ナイフ。
それは既に論じた。
どうやら麻痺毒らしい。
痙攣しながら動けなくなる襲撃者四人。
そして肋骨を折られた一人。
計五人でQED。
「さて」
全員が無力化されたことを確認した後、
「男の服を脱がせても面白くはないよなぁ」
ぼやきながら五人を全裸に剥く。
仮面と服を下着と靴を一箇所に集めて、
「――同風前塵――」
よりにもよって風魔術の上級呪文を唱える。
ミズキには片手芸だが、本来は軍隊を相手取れる攻撃魔術だ。
魔性の風を起こし、触れた質量を塵に変えるという、
「ちょっと何と言っていいか分からない」
と言われる上級のソレ。
それからワンオフ魔術で五人を健全に戻すと、気絶させて放置する。
翌日。
全裸で寝こけている裸族五人の成人男性が警察に逮捕されるのだが、ミズキの耳には入らなかった。
南無阿弥陀仏。
 




