第56話 モテ期は突然やってくる16
「え?」
と乙女たち。
「決闘ですか?」
ジュデッカが説明の言語を繰り返す。
「状況でそうなっただけだがな」
ミズキは飄々。
焼き魚を食べて御飯でかっこむ。
「勝てます?」
ジュデッカらしい心配だろう。
少なくともかしまし娘には、
「杞憂だ」
の一言。
およそ心配事にも至っていない。
ことの根幹がそもそもの演算からシンタックスエラーへと容易に変ずる事象は……たしかに不条理の生きた見本。
「それはそれで寂しいが」
言葉にはせず無常を味わうミズキだった。
「ちなみにルールは?」
「一対一の決闘」
「ふえ」
とジュデッカ。
「無謀」
まさにソレ。
へっぽこのミズキが学院生に敵うはずも無い。
学内に於ける論理明快な結論だ。
少なくとも、
『ジュデッカの知識とその延長線上にある戦力の相対性を持ち出せば』
と注釈は付くが。
「えと」
ジュデッカが問う。
「先輩方はソレでよろしいので?」
「うん」
「はい」
「ええ」
容赦のないかしまし娘だった。
何より最後者は一度敗れている。
「はあ……?」
ぼんやりとジュデッカ。
納得したのか出来ないのか。
それもわからない一語だった。
「宣伝になるんだよ!」
と云ったのはセロリ。
「え?」
とミズキ。
「戦うときはメイド服姿で!」
「え~……」
たしかに有用性で言えば常理のある名算ではあっても、世の中が理屈で動くならミズキの世界はもうちょっと住みにくい。
もちろんジト目で睨むミズキだったが、
「にゃ!」
当人は心底からグッドアイデアだと思っているらしい。
「勝利者インタビューで喧伝してよ!」
「俺のジェンダーはどうなる?」
メイド服を着ている時点で論ずるに値しないが。
一抹の不安も覚えざるを得ない。
「なんだかなぁ」
焼き魚をもむもむ。
白御飯をはぐはぐ。
「勝てるんですか? 本当に?」
ジュデッカはあくまで心配げだ。
そもそも、
「かしまし娘の論拠の根源が分からない」
のだから致し方なくもある。
詳らかに解説する意義を誰も持ち合わせていないのもソコに拍車を掛ける。
色んな意味で、
「不明だ」
がジュデッカの結論だが、
「なぁなぁ」
で受け流すかしまし娘だった。
「先輩は?」
「あまり戦いが得手だからって自慢になるとは思ってないな」
実際にその通りだ。
『治癒』
ミズキのワンオフ魔術。
ミズキにだけ選ばれたレゾンデートル。
その意味で平和を好むのはミズキの特質だ。
皮肉でも何でも無い。
本当に、
「世界が平和でありますように」
と思わざるをえない。
絵空事とは認識しても。
「そんなことで勝てるんですか?」
「どうかね」
気負いはしていない。
その根拠を知らないため、ますますジュデッカは不安になる。
「ま、死んだら死んだまでのこと」
サックリ抜かす。
「えーと……」
ジュデッカの灰色の視線に、
「にゃ」
「わん」
「ええ」
やはり意見を共有しないかしまし娘だった。
桃色と青色と緑色の眼は、不慮を計算に入れていない。
「うーん」
ジュデッカの本心としては、
「カノン先生に何かあれば」
が原則だが、
「ミズキ先輩はどうしたら」
そんな焦燥も背中を押す。
とはいえ一対一の決闘に干渉できないのも事実で、
「信じるより他に無い」
十字を切るジュデッカだった。




