第55話 モテ期は突然やってくる15
「にしても……」
嘆息。
この世の曰く――枝よりもあだに散りにし花なれば落ちても水の泡とこそなれ……とはよく表わしたモノで、無常のかかりし無謬性はおよそどんな世界にも存在はして。
「罰ゲームだよな」
先日も言った覚えがある。
今のミズキはメイド姿。
黒を基調とした衣服で、
「メイド服とゴスロリの調和」
と表現できる衣装だ。
それにドレス姿のサラダが寄り添う。
仲睦まじい乙女同士。
少なくとも市場通りの衆人環視はそう思っていた。
元より彼の線は細く、煌びやかにして繊細なマスクは一定の乙女成分を含有している。
男子制服を纏う分には綺麗な顔の男の子だが、女装してみれば、
「誰アレ?」
「可愛くない?」
「マジかよ……」
衆人環視の意見も変わるというモノだ。
白い髪と白い瞳。
甘やかな美貌に花弁のような唇。
それがキャンペーンではあった。
学院祭でチームカノンによるメイド喫茶。
その栄誉を与る手段。
激震とかして学院に波及する。
今更ながら、
「何やっているんだろう俺」
と本当に今更なミズキくん。
ぱっと見の乙女度合いで言えばかなりの善戦を強いられており……自分のご都合とは真逆の方向に異聞が突っ走っているのは認めがたいこととしても事実の銘記に一切の遜色なし。
「で、結局何を作るんだ?」
「リクエストはありますか?」
隣のサラダが情報収集。
「米が食いたい」
「おかずは?」
「んー……」
「何でも言ってご覧じろ」
「焼き魚」
「ではその通りに」
そゆことになった。
「しかしなぁ」
「カノンがですねぇ」
「というかお前も」
「あら。ありがとうございます」
しばしリリアンリリアンな雰囲気を醸す二人。
ミズキとサラダ。
純粋性別的に真っ当な二人だが、
「貴族とメイドの淫靡な百合事情」
が衆人環視の結論だった。
シルバーマンの名は海の国でも比重が重い。
なおサラダは魔術で特筆される一定戦力だ。
結果としてメイドを連れていれば、
「御貴族様」
と相成るが、
「それにしても」
といったところ。
絶世。
不世出。
空前絶後。
摩訶不思議。
「何と形容したら良いのか?」
困惑させるミズキの愛らしさ。
海の国の大貴族の御令嬢が侍らせるにしても……そのメイドに見て取る乙女願望的な慈しみの発露は衆人環視の避け得ぬところで。
寄り添う二人の仲睦まじさは、この際情欲の対象だろう。
二人は市場で夕餉の買い物をして、肩を並べて歩いている。
そこに、
「待てへっぽこ!」
声がかけられた。
「?」
へっぽこが誰を指すかは分かっているので自覚的に視線を振る。
学院生の男子生徒が一人。
ミズキを睨みやっていた。
「何か?」
「調子に乗るな」
「図星だな」
ほとんど寝るとき以外は調子に乗っているミズキだ
「サラダ様を解放しろ!」
「だとよ」
「…………」
エメラルドの瞳は虚ろに色彩を揺らす。
名を付けるなら、
「敵意」
に相当するか。
ちなみに最初にミズキをへっぽこと罵ったのは誰あろうサラダである。
特に禍根を引きずらないミズキではあれど。
「地雷原の上でタップダンス」
が表現としては的確か。
「――――――――」
宣言を発しようとしたサラダの足の甲を強かに踏みつける。
痛みに悶えるサラダ。
曰く、
「余計な干渉をするな」
の意だ。
「で、俺はどうすれば?」
メイド姿で首を傾げる。
愛らしい仕草だ。
男でも惚れる。
その抜群の愛らしさ……処女性に、
「う……」
と気圧され、たじろいでから、
「決闘しろ!」
と提案。
「もし俺が勝ったらサラダ様を解放して貰う!」
特別特異性もない意見ではあった。




