第51話 モテ期は突然やってくる11
「いただきます」
一拍。
食事と相成る。
場所はカノンの宿舎。
居るのはカノンとミズキとセロリ。
蒼の瞳が半眼になる。
「お楽しみ?」
「過足だ」
ぬけぬけと言い放つ。
今日の御飯はセロリの手料理。
キッチンも魔術陣で構築されているため火力は十分。
魔力さえ供給できるのならこの学院で不便に過ごすことはむしろ難しいレベルで、およそ魔術技術の利便性は威力性さえなければ好都合なモノだ。
ゼネラライズ魔術があまりに攻撃的なのが原因ではある。
とまれ出来上がった炒飯をかっ込むミズキ。
並びに乙女二人。
ちなみにサラダは学生寮で食事だ。
一人突き抜けた能力の持ち主であるため、ミズキたちのとの時間も意図して作らねば破却される可哀想な立ち位置。
中華スープを飲む。
「どうかな?」
「心底美味い」
奇をてらわない言葉だが、何よりソレがセロリに響く。
「光栄だよ」
「元からお前の料理は美味いがな」
それもまた論理的帰結ではあるが。
「にしてもメイドね」
脱力は避けられない。
ジェンダープライドが踏みつぶされる勢いだ。
ロードローラーとかそんな感じで。
「ジュデッカのは間に合うのか?」
「もう出来てる」
「仕事が早いこと」
そこは賞賛されて然るべき。
「で、キャンペーンなんだけど」
「広告?」
「んだ」
コックリと頷くセロリ。
「学院祭までメイド服で過ごすから」
「はあ」
何が?
とも問わない。
頭が悪すぎて、
「同情するより他ない」
がミズキの意見だった。
「何を他人事の様に」
とはカノンとセロリ。
「うぇ?」
何事か?
そう真珠の視線で問う。
答えは案外簡単で、
「ミズキちゃんもメイド服」
そんな結論。
「…………」
しばし炒飯を咀嚼。
中華スープで押し流す、水出し紅茶を飲む。
「何故に?」
出てきた言葉がソレだった。
「だからキャンペーン」
繰り言。
説得には根気が付き物だ。
「学院祭までメイド服でいろって?」
「学院祭中もだけど」
オンマカシリエイジリベイソワカ。
アタマのズツウがイタくなるのもしょうがない。
「何の罰ゲーム?」
とはミズキの本音だが、
「至極真っ当と思いますけど」
カノンとセロリには普遍的らしい。
「俺がねぇ……」
今更だが、
「因果な渡世」
と思ってしまう。
元より生まれた頃から治癒魔術と付き合っている身であるから、
「どちらかと云えばそっちの方が」
がカルテットの意見だが。
それはそれとして無常でもある。
「客が引かないかね?」
「むしろ大絶賛の嵐が聞こえるんだよ」
事ほど左様に純真なセロリ。
「カノンは?」
「以下同文」
ミズキが甘やかなマスクであることは同意できるらしい。
「親を恨むしかないか」
そういう問題でもなかろう。
偏に、
「ミズキのレゾンデートル」
に親は関与していない。
鳶が鷹を生んだ結果だが、
「ふぅん」
ですませる両親でもあった。
王立国民学院は軍学校でもあるため、特権も色々とある。
ソレが全てでは無いにしても、
「そうあることは一つの決断」
ソレもまた事実。
「ともあれ」
炒飯をかっ込む。
「拒絶は?」
「「無理」」
口を揃えて却下された。
南無。




