第47話 モテ期は突然やってくる07
セロリはメジャーを伸ばした。
目標はミズキ。
シャツ姿だ。
寸法をとってメモしていく。
「器用なもんだ」
とはミズキの論評。
当人はメイド奉仕以外にする事がなく、メイド服を着て客に奉仕するのは仕事の一環……あるいは踊る馬鹿の側面だが、準備に於いては無能の一言だ。
いわゆる、
「働かなければ無能とは言えないんだがなぁ」
の典型例。
事前項目である紅茶と菓子を嗜んでいた。
シルバーマンのスポンサー。
その付き人が紅茶と菓子を用意し、チームカノンが接客する。
言ってしまえばそれだけだ。
その練習にと使用人が淹れた紅茶を飲んでサラダ共々批評するが、
「美味い」
と、
「美味しい」
くらいしかミズキの言葉は羽ばたかなかった。
言語貧困だ。
そもそもが、
「違いの分かる男じゃない」
を自認しているため、
「味の繊細さを求められても」
が本音。
ぶっちゃけた話、
「苦味が出ようが飲めるのなら美味しい」
で終わってしまう。
サラダの方はもう少し機微の分かる御仁のため、使用人の洗練に情熱を注いでいた。
セロリは全員の寸法をとって、型紙を起こす。
縫い物も使用人の領域だが、
「小器用な奴だからなぁ」
とのミズキの言葉通り、セロリの裁縫は使用人より卓越していた。
南無。
「接客のルールですけど……」
とはカノンの言葉。
桃色の瞳がミズキを見やるが、
「まぁ別に」
聞き流し素麺。
「俺を指名する奴もいないだろ」
半分は自分に充てた言葉だ。
ある種の自己否定ととれるかもしれないが……どちらかといえば、むしろ哀愁と憐憫の自己偶像化の方がより近しい観念かもしれず……その意味で不毛と退廃の荒野が幻視できるかなりの無明だった。
「男がメイドになったって」
とはいうものの、先に出会ったジュデッカの反応を思い出す。
「何か?」
「いえいえ」
そんなわけで接客に大わらわ。
と、
「カノン先生!」
バンとカノンの宿舎の扉が開いた。
勢いよく。
蝶番が悲鳴を上げる。
「……………………」
沈黙。
それがチームカノンの反応だった。
カラスがカーと鳴いた後、
「誰?」
押し出すように誰何を投げつけるカノン。
「高等部一年! ジュデッカです!」
灰色の髪と瞳。
ブラックウォッチのジャケットは学院生の証。
赤のネクタイは一年生を示している。
「私も混ぜてください!」
「?」
云っている意味が分からなかったのだろう。
それはミズキも察し得る。
「あ、あなたは!」
ジュデッカがミズキを指す。
「あの時の! 何故此処に!」
「……………………」
頭痛を覚えるミズキ氏。
「くだらん小芝居どうも」
他に言い様もない。
たしかに唐突に現われた憎らしい転校生のシーンに酷似している。
「知り合いですか?」
カノンがミズキに問う。
「袖擦り合った他人だ」
ミズキも中々容赦が無い。
基本的に、
「我欲一番」
「自分二番」
でファイナルアンサー。
「ミズキはまた……!」
と戦慄しているのはサラダだ。
わからないでもない。
カノン。
セロリ。
サラダ。
ここにジュデッカが混じれば話のややこしさは糸の絡まりだ。
「また乙女を堕としましたの?」
「誤解だ」
この件に関するならば正当性はミズキにある。
現状が否定の空気に飲まれても。
「ミズキ先輩! 照れなくても!」
殺すのも妙手か。
実際にはする気は無くとも、
「なんとなくそんな気分」
という物騒な観念に取り憑かれてしまうミズキではあった。
 




