第41話 モテ期は突然やってくる01
「申請さえしてくれれば何も問題はありませんが」
とは学院長の御言の葉。
「言質を取った」
と鬼の首を取ったように、その件をカノンに報告するセロリ。
結果としてチームカノンはメイド喫茶を運営することになった。
「魔術の研鑽をしなくていいのだろうか?」
言葉にせねどもそうは思うが、
「人それぞれか」
と解釈するミズキ。
「は?」
と困惑したのはまた別の美少女。
カノンの宿舎。
そのリビング。
魔術陣で便利に機能している宿舎であり、なおそこにカノンが加味されれば未来文明にすら届く快適さが保証される。
ちなみに困惑したのはカノンではない。
カノン、セロリと来て第三の美少女だ
名をサラダ=シルバーマンという。
深緑の髪とエメラルドの瞳。
カノンやセロリより大人っぽい。
俺様主義で姓がある通り貴族。
高飛車で空気も読めないが、その実力は違うことなく本物で、学院高等部でもトップクラスの実力者。
学院全体でも指折りの魔術師だ。
魔術師。
魔術を使う人間の総称。
体力を魔力と呼ばれる第五エネルギーに変換して……奇蹟の御業を起こす一種の人外を指す。
「世界創造に於いて運営委員が世界に仕込んだ裏技」
そう呼ばれる。
体力から変換された魔力は、あまりに不等価交換で、
「体力だけでは為しえないことが魔力では為しえる」
ことも多々ある。
勿論、創造神が律している以上、そのルールに従う必要はあるが、それはそれとして破格のエネルギー運用には違わない。
その一端を指してゼネラライズ魔術と呼ばれる技術が存在し、カノンの宿舎にいる四人は大凡この神秘を取り扱える。
というより王立国民学院そのものが、物騒ではあれど魔術を研鑽する学院だ。
海の国の国境を守るグラス砦からほど近い位置取りで、
「生徒は軍属」
と呼ばれ、軍用魔術の発明と研鑽と修得と行使と洗練を旨とする。
閑話休題。
「メイド喫茶……ですの?」
深緑の美少女……サラダは置いてけぼり。
「言ったじゃん」
言ってない。
少なくともサラダには。
友達の少ないミズキとカノンとセロリと違い、サラダは知己が多い。
というより親衛隊とファンか。
戦略レベルの魔術行使を可能とし、抑止力の一端だ。
こと攻撃魔術なら、あるいは大陸全土でも上から数えた方が早い。
「わたくしもですの?」
「嫌なら断って良いから」
セロリは飄々と言った。
不仲、というわけではない。
単純な恋敵。
それはサラダだけでなくカノンもそうだが。
何の因果か、かしまし娘はミズキに一定の恋慕を寄せていた。
当人は知っていて沈黙しており、
「時間が経てば眼を覚ますだろう」
と一貫して思っている。
「まぁカノンとセロリとサラダがメイド服を着ればがっぽり稼げるだろうな」
他人事の様に抜かすミズキ。
「もちろんミズキちゃんも参加するんだよ?」
「茶の淹れ方なんぞ知らんぞ」
「やだなぁ。メイドの方だよ」
「……………………」
沈黙。
南無三。
しばし架空のカラスが鳴く音だけが宿舎に響いた。
「俺がメイド?」
「メイド喫茶だし」
理屈があっているようなあっていないような。
「男だぞ?」
「ミズキちゃんの尊顔は愛らしいからいけるいける」
「どう思うカノン?」
「全面的に同意」
容赦ない肯定に、
「はう……ミズキのメイド姿ですか……」
うっとりするサラダだった。
「味方はいないのか?」
とはいえ実は苦々しくも納得の感情はミズキにも無いでは無い。
男子にしては線が細いし、アルビノの美貌は控えめに言って百二十点。
メイド服のみならずあらゆる女装はミズキを高次元の男の娘に変貌させうるだろう。
分かっていて口に出さないのは、
「周りがつけ上がるから」
の一点で、
「うーん~」
しばし悩む少年ではあった。
もっとも反対しようにも民主的多数決なら三対一で可決されるだろうが。
「踊る馬鹿な」
とりあえず愚痴るのは首肯の代わりだった。
 




