第40話 プロローグ
「学院祭?」
カノンのペンが止まった。
桃色の髪と瞳の美少女だ。
王立国民学院。
一種の軍学校で、年齢にそぐわずカノンは特別顧問の地位にある。
要するにアドバイザーなのだが、
「よく言って給料泥棒」
とスペオペのような感想が一同の物。
趣味が茶で、給料が茶葉と茶器に費やされているが、文句を言える人間はそういない。
例外が一人で、今は学院の教科書をパラパラと捲っている。
「何か?」
と問われれば、
「勉強」
と返したことだろう。
教科書を読んでいるのだから当たり前だが、それにしては誠意が感じられない。
何と言っても不良生徒の鏡だ。
講義には出ず、かつ学院に在籍し、テストの時だけひょっこり顔を出して満点を取って進学する。
嫌味に相違ないが、少年にとっては、
「勉強することがない」
が率直な意見。
教科書を読めば必要な情報は書かれているし、理に適っている。
なんでそんな教科書を他人の口から聞かねばならないのか?
口には出さずとも、
「冗長だ」
が少年の意見だった。
白い少年だ。
シルクの髪に真珠の瞳。
肌が病的で一見華奢に見える。
体は鍛えていないとしても、筋力その物は平均以上。
が、さして特筆すべき事でも無い。
それ以上のイレギュラーが少年にはあるが此処では割愛。
名をミズキという。
「そう言えばそんな時期か」
少年……ミズキは、
「今思い出した」
と言わんばかりだ。
話題を振ったのは蒼い少女。
美少女で学院の生徒。
セロリと呼ばれる。
制服の胸ポケットに勲章が飾ってあり、学院……引いては祖国「海の国」の戦力に数えられる魔術師だ。
一応優等生に該当し、美貌と相まって幻想を持たれる類だが、恋慕の領域に於いては悪食とミズキが評していた。
「学院祭ですか……」
カノンが桃色の瞳に困惑の感情を乗せる。
気持ちは白い少年……ミズキも分かる。
つい先日、大陸最南端の海の国と、武力侵攻を旨とする中央の麦の国で武力衝突が起こった。
結果として緊張状態が続いており、
「その上で?」
とのカノンの勘案は至極当然だ。
事情を知っている人が言うならば、
「お前が言うな」
との話になるが。
閑話休題。
「学院祭です」
何はともあれお祭りだ。
入念に準備して、一週間掛けて行なわれる。
学院並びに学院街総出で盛り上がるお祭りで、海の国の王家や、絶賛緊張中の麦の国からもお偉いさんが顔を出すほど。
「いいのか?」
とはミズキの意見だが、これも、
「お前が言うな」
に該当する。
「学院祭……」
考えるようなカノン。
「セロリたちも何かしませんか?」
ご尤もな意見。
見る馬鹿と踊る馬鹿。
別世界では後者が賛辞を浴びる。
「カノンが催し物をしてもいいのでしょうか?」
立場的に微妙だ。
研究室やクラスでの出し物は普遍的にあるし、学院街の商人たちも盛り上がるが、カノンがここに含有されるかは微妙だ。
元々能力が破滅的すぎて国家でも持て余すのがカノンだ。
謳歌を紙に記しながら、自己を顧みる。
先述したように特別顧問。
クラスでもなければ研究室でもない。
ついでに当人は学生でも教授でもない。
遠慮ではないが憂慮ではある。
「やりましょう!」
ググッと力のこもった発言はセロリ。
サファイアの瞳は鮮やかな情熱が封じられている。
「うーん……」
と悩んだのはカノンとミズキが同時。
別段、祭りに参加するだけなら客として楽しむだけでも十分ではある。
けれどもキラキラと光っているセロリの瞳はあらゆる否定を喉元で押し留める威力があった。
「美少女ってズルいよな」
とはいえ、クールで無気力ぶるほど思春期を拗らせていないミズキにすれば、
「楽しめるならソレも良いか」
とも思う。
「何か腹案が?」
問うたカノンに、
「メイド喫茶だよ!」
溌剌とセロリは答えた。
カノンの淹れた紅茶を飲んでいたミズキが……ブッと噴いたのも宜なるかな。




