第39話 エピローグ
「そういうことなら最初に言ってよミズキちゃん……」
時刻は夕方。
場所はカノンの研究室。
ミズキとセロリとカノンとサラダが、一堂に会していた。
カノンの淹れた茶を飲みながら反省会。
茶道楽の彼女に茶の妥協は存在しない。
で。
鉄壁砦の異名を誇るミラー砦をまったき塵に還したあと、ミズキはカノンをお姫様抱っこして、ゼネラライズ魔術たる『疾駆』を使い、早足に王立国民学院へと帰った。
無論、行きのような超音速ではなく、帰りは亜音速だ。
空気の壁にぶつかり衝撃波を友として連れられるのは、あくまで不死身の肉体を持つミズキ一人だけの時に限られる。
明日か明後日になれば、ミラー砦の消失は電撃的に麦の国と海の国に広まるだろう。
だが少なくとも、ミズキの名が出ることは万に一つもあり得ない。
目撃者は、皆々塵に変えたのだから。
「えへへ」
カノンは茶を飲むことなく、ミズキの腕に抱きついていた。
桃色の髪と瞳と……それから頬。
もはや完全に恋する乙女だ。
無論のこと、
「……………………」
「……………………」
ジト目で睨むセロリとサラダ。
「何をした?」
と目で問う。
ミズキは華麗にスルー。
喫茶。
「しかして」
はふ、とサラダが話題を変える。
「不老不病不死ですか……治癒魔術に、そんな使い方があったとは」
「セロリとしては治癒魔術による体内魔力炉の不断循環による、魔力キャパの幾何級数的上昇の方が恐ろしいなぁ」
「道理で炎竜吐息を、術式拡散で防げるわけです」
膨大な魔力を贅沢に使えるため、それは必定だった。
普通ならゼネラライズ魔術でワンオフ魔術をどうにかするのは苦労が要るのだが。
「公表しようよ! そしたら皆がミズキちゃんのこと見直すよ!」
「嫌」
ミズキの返事は、簡潔を極める。
「何で!?」
「俺が波風立てるのが嫌いなのは、お前とて重々承知してるだろうが……」
何を今更と。
「俺はへっぽこのままでいい」
「セロリが嫌なの!」
「カノンも嫌だよ?」
「わたくしとて……」
かしまし娘は三者三様に言う。
「別に褒められて喜べる類のモノでもないしなぁ」
かくてミズキはへっぽこに甘んじる。
「ミズキは無欲ですね」
カノンが、ちょっとの反抗によって、何気なく口にすると、
「もし無欲ならお前を助けてねーよ」
ソレも、ごもっともである。
「格好よかったですねぇ……あのときのミズキは……」
カノンはうっとりとして腕に抱きついたまま、コトン、と頭部を彼の肩に乗せた。
「ちょっとちょっとカノン?」
「何ですセロリ?」
蒼色と桃色の視線が、交錯する。
「ミズキちゃんはセロリがつばつけてるんだよ? 横やりはご勘弁」
「だってミズキはカノンの王子様ですもの」
「どういうことミズキちゃん!」
「吠えるなよ……」
鬱陶しげに、ミズキは渋面を作って、茶を飲む。
「カノンが絶望に囚われたなら理由も理屈も脅威も無茶も無視して童話の中の王子様みたいに何度でも助けてくれる。カノンとミズキはそんな契約を交わしました」
「ミズキ! わたくしとの結婚はどうなるんですの!」
次に吠えたのは、深緑の美少女サラダ。
「お前の都合だろう」
一片の容赦さえない。
「カノンにばっかり優しくして!」
「カノンにばかり肩入れして!」
「そんなつもりはないがなぁ……」
ホケッ、と答える。
お茶のほろ苦さが心地よい。
「えへへぇ……ミズキ……」
「可愛いなお前らは」
「ミズキちゃんはセロリの王子様であればいいの!」
「ミズキはカノンの王子様です」
「ミズキ! わたくしの想いを蔑にしますの!」
かしまし娘がミズキを巡って三国志。
「ガウ!」
「キシャー!」
「グルル!」
互いに互いを牽制する。
「嫉妬に狂った女の子には興味ないなぁ」
茶を飲みながら、あっさりとミズキの鶴の一声。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
いがみ合いの潮が引いた。
月の具合によっては満ち引きもあるので絶対ではないも。
「別にカノンに限ったことじゃない。俺は親しい人間の絶望が俺の手段で取り除けるなら、それを惜しむことはしないってだけだ。面倒事なら……また別だが」
「じゃあセロリのときも……」
「わたくしのときも……」
「まぁそんな事態が来ないことを願う方が建設的だがな」
もっともだった。
「ミーズーキッ!」
カノンが名を呼ぶ。
「なんだ?」
ミズキが答える。
「大好きです!」
カノンは、ミズキの頬に、キスをした。
「あーっ!」
「ですの!」
ガタン。
席から立ち上がるセロリとサラダ。
「何するのカノン!」
「何ってお姫様から王子様へのキス?」
「わたくしという婚約者がいながら不貞ですわミズキ!」
「なんで俺が責められる?」
やはりもっともだった。
「ミズキちゃんはセロリのもの!」
「ミズキはカノンの王子様!」
「ミズキはわたくしをめとるべきです!」
またしても場が混乱する。
ミズキはそれ以上の喧騒にかかわらず、
「好きにしろよ……もう……」
茶を飲むことに終始する。
乙女の嫉妬心は……ミズキの治癒魔術でさえ…………治すことの出来ない難病であった。
第一話終了!
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