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第35話 へっぽこなりし治癒魔術16


 要するにミズキは、


「カノンを助けるために麦の国のミラー砦に攻め込む」


 と言ったのだから。


 しかもカノンを取り戻して、元の鞘に収まった「鉄壁砦」の異名を持つソレに……である。


「待って待って待って!」


 セロリが慌てる。


「ミズキちゃん……カノンを助けに行くの?」


「そう言ってる」


「何で?」


「監督責任」


 心にもないことを、真顔で述べる。


「でも海の国の軍は生徒の一存じゃ動かせないよ? 仮に動いてもカノンの魔術で鏖殺されるだけだよ!」


「誰が軍を動かすと言った?」


「へ?」


 ポカンとしたセロリに代わって、サラダが問うた。


「まさか」


 深緑の瞳に、疑念を乗せて。


「ミズキは……一人でミラー砦に喧嘩を売るつもりですの?」


「ああ」


 躊躇は無い。


 ここまで潔く肯定されたら、


「……………………」


 サラダとて答える言葉を探すのは難しかった。


「さて……それじゃあ……」


 指の骨をパキパキと鳴らして気合を入れようとしたミズキ目掛けて、


「待って!」


「お待ちなさいな!」


 セロリとサラダが、厳しい声で引き留めた。


「何だ?」


 いっそ剣呑な感情を白い瞳に宿して、彼が問う。


「行かせると思う?」


「邪魔するってのか」


「あえて言いますがへっぽこ一人がミラー砦に喧嘩を売ってどうなると思います?」


「カノンを取り返す」


「出来ると思ってるの……ミズキちゃん?」


「可不可はお前がジャッジすることじゃない」


「――疑似変換テンポレリトランス――」


 地面に手をついて魔術の起動。


 サラダは、地面の一部を、片手剣に変換せしめた。


「行かせませんわ」


 剣の切っ先をミズキに向けて、断固として言うサラダ。


「……………………」


 はふ、と溜息をつくと、


「ならお前らは俺の敵だな」


 ミズキは、ギラリと殺意を乗せて、視線を向ける。


 あまりのプレッシャーに、大気が鳴動したように強風を呼んだ。


「……っ」


「……!」


 ――ミズキは魔術師としてはへっぽこ……劣等生。


 それを十二分に理解していながら、それでも我を押し通そうとするミズキの裂帛の気合いに、彼女たちは気後れした。


 それほどのプレッシャーだったのだ。


 それでも同じく気合いで心情を立て直すと、


「たとえミズキちゃんを傷つけてでも行かせないよ!」


「それでも行くというのなら一時的な激痛を覚悟することですわね!」


 ミズキの意思を否定してのける。


「ほう?」


 ミズキは興味深げに言った。


「俺に負けたサラダとソレに劣るセロリに俺が倒せると?」


「死なせないように手加減はするけどね」


「不意をうったくらいで増長しないでもらえます?」


 三人の会話は平行線だった。


「そっか……」


 彼は、彼女らの本気の具合を認めると、


「――術式拡散システムディフュージョン――」


 呪文を唱えた。


 魔力は、キャパに貯蓄してある。


「さて……」


 魔術をかき消す魔性の風を纏って、皮肉気にミズキは言う。


「俺を止めたいなら殺す気でこい。そうでなければ俺は行ってしまうぞ?」


「上等!」


「ですわ!」


 そして二人は魔術を行使した。


「――土槍グラウンドバルジ――」


「――火球ファイヤーボール――」


 セロリが起動させたのは、土属性のゼネラライズ魔術……土槍。


 地面に魔力で干渉して、一本の槍状に変質させ、相手を下から刺し殺す魔術である。


 が、ミズキの魔術……術式拡散の前には無力だった。


 それはサラダの放った火属性のゼネラライズ魔術……火球も同様である。


「そんなちゃちな魔術が効くか」


 鼻を鳴らすミズキ。


「――土刺剣山グラウンドフロッグ――」


 今度はセロリが土槍の上位互換……土刺剣山を起動させる。


 ある一定範囲を選択して、その範囲内で土槍を連続起動させるゼネラライズ魔術だ。


 が、ミズキは術式拡散の風にて、無為徒労に変えられる。


 今度はサラダだ。


「――火球ファイヤーボール――」


「――属性強化タイプエンハンスメント――」


 ゼネラライズ魔術のマルチタスク。


 一流の魔術師しか扱えないスキルであり、サラダをして「麒麟」と呼ばしめる一端である。


 火球自体は、火の球を生み出し対象を燃やすもの。


 それを昇華の性質を持つ水属性のゼネラライズ魔術……属性強化で威力を高めたのだ。


 カノンのワンオフ魔術である『威力増幅』と違い、天才の名に恥じぬサラダであっても、属性強化は二倍が精々だ。


 それでも凶悪な威力であることに変わりはしないはずだった。


 されどミズキの術式拡散の前には無力だった。


 フツリ。


 蝋燭の火を消すように、強化された火球が消え去る。


「……っ」


「……!」


 驚愕する彼女ら。


「気は済んだか?」


 ミズキはいっそ優しく言った。


 これ以上は無益だろうと。


「待って!」


「待ちなさい!」


 彼女たちにも、矜持はある。


「どうしても行くというのなら……!」


「ワンオフ魔術さえ行使を厭いませんよ……!」


「剣山刀樹に炎竜吐息……か」


「然りだよ」


「その通りですわ」


「やってみろよ。それで俺の術式拡散を突破できるというのならばな」


 不敵なミズキの言葉。


 刺激されるは、セロリとサラダのプライド。


 遠慮は無かった。


 剣刀槍戟を地面から生み出すセロリのワンオフ魔術……剣山刀樹。


 ドラゴンのブレスを再現するサラダのワンオフ魔術……炎竜吐息。


「四肢の一、二本は覚悟してね……!」


「治癒不可能な傷を負ってもシルバーマンで保護しますから後のことは任せなさい」


 物騒なセリフを吐いた後、


「――剣山刀樹ソードフォレスト――」


「――炎竜吐息ドラゴンブレス――」


 セロリとサラダは、凶悪なワンオフ魔術を、ミズキ目掛けて放つのであった。


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