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第33話 へっぽこなりし治癒魔術14


「興味ない」


「ミズキの魔術は戦場では大した役には立ちませんが、護衛としてなら無類の効果が望めますわ。わたくしが本家を通して推薦します故。わたくしと結婚なさいな。シルバーマンの家系に入って宮廷魔術師になれば馬鹿にする人間は現れませんわ」


「元より気にしてない」


「そうしたらわたくしもあいつらを見返すことが出来ますわ。ミズキというステータスを持てば……きっと……!」


「他を当たれ」


 ミズキに一切の配慮は無い。


「あいつらを見返すって何だよ? 何故に俺が付き合う必要がある?」


「……………………」


 深緑の瞳には責めるような感情。


 憤慨……というには少し駄々が混じっている。


「俺の治癒魔術で解決できる問題か?」


「迂遠に言えば」


「その言葉が迂遠だろう」


「わたくしはシルバーマンの家系ではありますが愛人の子どもなんです……」


「へぇ……」


「で、ある以上は本妻の子どもに逆らうことは許されませんでした。わたくしは自身こそ至高とし、そのつもりで振る舞っていましたが、本妻の子どもにはそれが気にくわない様子でした。当然と言えば当然でしょうけど」


「まぁな」


「深緑の髪と瞳はシルバーマンの血統の証。それを持っている数少ない子どもが本妻の子どもを押しのけて愛人の子どもであるわたくしでした。加えてわたくしは容姿にも学問にも魔術にも秀でた麒麟。本妻の子どもがわたくしと比べられ、劣っている様を見せつけられて面白いわけがありませんの」


「ふーん」


「陰湿ないじめを受けたわたくしはシルバーマン本家を飛び出して王立国民学院に身を移しました。そこでミズキ……あなたと出会ったのですわ」


「俺?」


「はい。シルバーマン家において立場で劣っていたわたくしの様に、ミズキは王立国民学院にて劣っていた。正直なところ鏡像を見せつけられているかのような気分がして反吐が出ましたわ。何より誰に馬鹿にされても見返そうなどと一切思わないミズキに苛立ちを覚えたほどです。因果……というより業の深い唾棄すべき感情ですが」


「はあ」


「弱いミズキ。そう思っていましたが今は違います。ミズキが馬鹿にされても平然としているのは諦めていたのではなく確固たる矜持ゆえの誇りあるモノだと」


「過大評価だ」


「であればわたくしはミズキを評価します」


「聞けよ」


「ミズキ?」


「なんだ?」


「結婚しましょう?」


「断る」


「わたくしと一緒にシルバーマンの家系の地位をさらに押し上げましょう? ミズキとわたくしになら出来ますわ。そうすれば本妻の子どもだというだけでわたくしを見下してきたあいつらも、わたくしを認めざるを得ないでしょう?」


「自分一人でやれよ。ドラゴンブレスなら幾らでも出世できるだろ。俺がお前に利用される意味がわからん」


「代わりにわたくしの全てをミズキに捧げますわ」


「……………………」


 しばし沈黙。


「本気か?」


「嘘をついてもしょうがないでしょう?」


「正気か?」


「はっきりと」


「それだけの決意があるなら俺を頼るな。お前の問題だろう」


「ミズキをわたくしと肩を並べる価値のある人間と評しているんですのよ?」


「知ったこっちゃないな」


 どこまでもミズキはけんもほろろ。


「わたくしを好きにして構いませんのよ。この胸も、唇も、性器も、全てを……」


「そういうのは好きな奴とやってくれ」


「ですからわたくしはミズキに惚れているんですの。言わせないでくださいな……こんなこと……」


「悪いが興味ない。他にも俺に惚れてる奴もいるし」


「セロリですね?」


「知ってるのか?」


「剣山刀樹のセロリ。わたくしほどではないにしても優秀な魔術師ですわね。有名ですわよ。主に蓼食う虫も好き好きという意味で。今のわたくしには言えませんが」


「だろうな」


 それは納得だった。


「後はカノンとかな」


「特別顧問……でしたっけ?」


「そ」


 コックリと頷く。


「そんなわけで、女の子には不自由してないからお前に入れ込む理由も無い」


「お待ちなさいな。冷静に考えてみなさい。シルバーマンの婿養子になれるんですのよ? これがどれほど名誉なことかお分かりになりませんの?」


「わからないな」


 いとも平然と。


 栄光をドブに捨てるミズキ。


 少なくとも彼にとって、権威や栄光などと云うのは、何らの価値も見出せない代物だ。


「さて」


 ミズキは話題を変える。


「お前も目が覚めたことだし……勲章贈与の式があるからその心構えでいろよ」


「あの……ミズキ……?」


「じゃあ俺は飯を食いに行くわ。腹減ってしょうがなくてな」


「……ミズキ……?」


 どこまでも飄々として、貴族の栄光も、乙女の恋慕も、踏みにじる彼に、彼女は呆然とする他なかった。


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