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第18話 鉄壁砦のひみちゅ09


 ミズキ自身は知りようもない事だったが――何せミズキは自身で自身を「へっぽこ」と称しているくらいだ――ミズキとサラダの決闘は、海の国の娯楽に飢えた人たちの間で、電撃的に広まっていた。


 処置として、学院にはコロシアムのように立派な決闘場も存在し、王侯貴族を賓客として招いて、優雅に魔術師同士の決闘を見ることの出来るような造りもある。


 そして此度の決闘は、王族御前試合と相成った。


 マリン王としては、


「話のタネに見ておくか」


 程度の気持ちだったが、迎える側にとっては、堅苦しいこと、この上ないだろう。


 海の国の大貴族であるシルバーマンの面々も、娘を見るためと称して来訪するのだった。


 おかげで……と云うより、そのせいで、王立国民学院は厳戒態勢をとっている。


 王立国民学院のすぐ北にはグラス砦があり、麦の国との国境があり、鉄壁砦の異名を持つ麦の国のミラー砦さえあるのだ。


 仮にミラー砦の兵士たちが競って攻めてきても、戦争を起こし抵抗できる十分な兵力が、学院に居座っているのだった。


 その雰囲気を、ミズキは感じ取れなかった。


 対照的に、セロリとカノンは、鋭敏に察しえた。


 尤も、憂うことも危ぶむこともなかった。


 ミラー砦をして鉄壁砦と呼ばせていた原因の根幹……つまりカノンが当学院にいるのだ。


 今、麦の国がミラー砦を介して海の国に進軍しても、過去の戦果を加害者と被害者をひっくり返して再現するようなものである。


 カノンは、それだけの戦力を持っている。


 そして魔術の使えない兵士たちが、いくら集団で来ようと、『魔術師一人の魔術一つ』に敗北するのが世の常だ。


 その意味では、現時点において、麦の国が攻めてくることはないであろう。


 だからと言って警護に手抜かりが無いのも、確かな必然ではあった。


 そしてマリン王を含めた王侯貴族が学院に滞在して、その期間にミズキとサラダの決闘が行なわれることになった。


 賭博も、決闘における娯楽の一つだ。


「サラダの勝利は揺るぎないが、いったい何分で決着がつくか?」


 その言葉が、胴元に支配されて、賭けの対象となっているのだった。


 ちなみにミズキが勝利する可能性は大穴である。


 当たり前と申せる。


 そして決闘当日。


「ん……」


 ミズキは、控室で背伸びをしていた。


 決闘までまだ時間はある。


 朝寝坊こそしたものの別に早朝から決闘をするでもないため、寝溜めをしたミズキであった。


 白い髪は輝かしく、白い瞳に緊張や恐怖や気後れは無い。


「怪我はしょうがないけど無事で帰ってきてね?」


 ミズキの控室にいるセロリが、矛盾したことを言ってきた。


「さぁて」


 はぐらかすミズキ。


 ミズキとしても痛いのは御免だったが、サラダが手加減してくれるとも思えなかった。


 へっぽこ――ミズキのことである――に恥をかかされたのだ。


 殺害は禁じ手にしても、死なない程度になぶるくらいはやってのけるだろう。


「そもそもにして経緯を聞く限りでは、決闘になるのがおかしいんですけど……」


 これはカノン。


 桃色の瞳には、


「ご苦労様」


 との思念が宿っている。


 白い瞳でソレを見つめ返し、


「貴族が傲慢なのは、今に始まったことじゃないしね」


 白い髪を弄りながら、彼は答える。


 アルビノであるため、虚弱体質に見える。


 その実、彼の体は練り込まれている。


 さらに言えば、ウルトラCがある。


 それを懇切丁寧に説明するほど、殊勝な性格ではなかった。


「勝算は?」


 カノンの率直な問い。


「無い」


 ミズキの率直な答え。


 そもそも論であれど、サラダがミズキに勝てる要素を持っていないのなら、決闘にはならなかったはずである。


 自身の勝利を疑っておらず、ミズキを見下し「へっぽこ」と呼ばしめているからこそ、此度の決闘と相成った……と彼自身は思っていた。


 そうには違いない……。


「付き合い良いよね」


「反論のしようもないな」


 彼にも思うところはあるのか、苦笑してしまう。


「そだ」


 これはセロリ。


 蒼い瞳は、


「いいことを思いついたよ」


 と語っていた。


「何だ?」


「ミズキちゃんの魔術を、カノンがこっそりブーストすればいいんじゃない?」


「魔力が己の内から発せられる以上、遠隔干渉魔術は不可能なのが、魔術研究者たちの結論だろう。疑似遠隔干渉魔術は可能ではあるが、タイミングを合わせる打ち合わせもしてないしな。それにこれは王族御前試合だ。下手にイリーガルなことをすれば首が飛ぶ」


「むぅ」


 アイデアを封殺されて、セロリは口を尖らせる。


「でもでも、どうにかしないとミズキちゃんが怪我を」


「死なないだけマシだ。実際優秀な治癒強化を使える魔術師が控えている。で、ある以上大事には至らんさ」


「そんなことが言いたいんじゃないの!」


「知ってるよ」


 ミズキは断言した。


 そしてセロリの蒼い髪を、クシャリと撫ぜる。


「お前の心配を杞憂に変えてみせる。それでいいか?」


「出来るの?」


「近くば寄って目にも見よ……ってな」


「実際近場で見るんだけど」


 事実だ。


 決闘場の控室にいる三人。


 ミズキは当事者だが、セロリとカノンは客席からではなく、コロシアムの出入り口から、決闘を立ち見することが許可されている。


 何よりミズキが満身創痍の結果に終わった際に、カノンが治癒強化のゼネラライズ魔術に、威力増幅のワンオフ魔術を重ねる算段である。


 それを十二分にわかっているから、ミズキに気負いは無い。


「死ななけりゃ儲け物さ」


 と嘯くのだった。


 事実はどうあれ。


「生徒ミズキ。時間です」


 教師の一人にして、此度の決闘の進行係の一人でもある人間が、控室に顔を出して始まりを告げた。


「あいあーい」


 彼は立ち上がると、彼女らと共に、コロシアムの会場に顔を出す。


 それから控室と決闘場を繋ぐ出入り口に、彼女らを残して、彼は歩を進める。


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