19話 新異能お披露目
前回の後書きで「次回は冒険をする」と言ってしまいましたが、大した冒険じゃありません。
謝りません。
おはよう。今俺達は冒険者ギルドに来ている。
眠い。現在時刻は6:20だ。普段は8時過ぎに起きている俺が、なぜこんな早くから出掛けているのか。
それは昨日の夜のことだった。.........と、含みを持たせるほど大した理由ではないのだが。
「ふぅ、お腹いっぱいだな」
「あんなに美味しいものを食べたのは初めてです」
ネリーに異能の話をしてご飯を食べた後、風呂に入る前に一旦部屋に戻る。
奴隷商では流石に良いものは食べさせてもらえなかったのか、ユノの屋敷で食べた料理の味に感動していた。
...多分、感動するほどの味だった理由は俺の異能にもあるのだが。
〈ヘスティア〉...室内で、5人以上で食卓を囲うと、味に倍補正。室内で眠ると、同じ屋根の下で眠る者に、睡眠の心地良さ倍補正。
ユノの家は、メイドや執事にとても優しい。家族と同じように接していて、食事も使用人含めてみんなで食べるのだ。すると平和の象徴たる(俺が勝手に決めた)ヘスティアさんの異能が効果を見せる。
味に倍補正。これヤバくないすか? 流石、家庭を守護する女神なだけあって異能も平和だ。
ネリーにも冒険者になってもらおうと思っていたことを思い出し、一応確認を取ろうと話しかける。
「そういえば、ネリーにも冒険者になってもらおうと思ってるんだけど、いいよな?」
「もちろんです」
即答を受けて安心する。
できればB級冒険者になって欲しいな。B級の昇格テストを手っ取り早く受ける方法。それは単純に、B級冒険者が苦戦するような魔物を倒せばいいだけだ。
地道に努力している人には申し訳ないが、生憎と早く成長できる手段があるので使わない手はない。
さて、明日は適当にA級の依頼でも受けようか。
A級の為の依頼がそう簡単にあるものなのか? と思われそうだが、あるんだなそれが。
この世界では、使い魔以外の魔物は全て人類の敵。
人里に降りては来なくても、森の中や山の上にはBランクやAランクの魔物が結構いるらしい。そんな魔物を討伐してほしいという依頼が常設依頼として出ているそうな。
明日はそんな依頼を受ける予定だ。
今日のところは風呂に入ってさっさと寝よう...と、思った時、エンシーが言った。
《A級の常設依頼の対象になるような魔物は、近くてもこの街から馬車で片道三時間ほどの場所に住んでいます》
と、そんなことを...、早く言ってくれよエンシーさん。
「明日は早起きします」
俺はリクとネリーにそう言った。
と、いう訳で、俺は常設依頼を受けるべく早起きしてギルドにやって来ていたのだ。
馬車はユノの親父さんに許可を貰って借りてきました。
「あ、コーキさん。おはようございます、お早いですね」
ギルドに入ると、いつもの受付のお姉さんが挨拶をしてくれた。
中には冒険者の姿はない。お姉さんはこんな朝早くから仕事しているのか。いつもご苦労様です。
「おはよう。A級の常設依頼を受けようと思ってね。なんかいいのある?」
「常設依頼ですか。ここから近いものですと、ペレイネの山にハルピュイアの群れが住み着いているということなので、その討伐依頼が出されていますね」
お姉さんは俺の言葉を受け、すぐにいい依頼を探してくれた。これが出来る女というヤツですか。
ハルピュイア。
それは上半身は女性の身体で下半身は鳥、そして翼が生えた魔物のこと。
女性の身体といっても人間の言葉を話す訳ではない。獰猛で危険な魔物だ。
非常に不潔で、その爪で負わされた傷には毒のような効果がもたらされるそうだ。
たまに人里に降りては食べ物を盗っていき、残されたものでさえハルピュイアの爪に触れられたものは汚くて食べられなくなってしまうために、近くの村の人々が悩まされているらしい。
「ハルピュイアか。わかった、それを受けることにするよ」
バッチィのは嫌だが、これが一番移動時間が少なく済むということなので、リクたちに確認を取ってこれを受けることに決めた。
お姉さんに地図を受け取る。地図なんてなくてもエンシーに訊けば事足りるのだが、地図を貰わないというのは不自然なので一応受け取っておく。
......お姉さんお姉さんと、いつまでもお姉さん呼びなのはちょっと距離があって嫌だな。
名前を訊いてみるか。
「いつまでもお姉さんって呼んでるのは距離があって変だよね。名前はなんていうの?」
んー、なんかナンパみたいな言い方になってしまった。俺に名前を訊かれ、お姉さんはなぜか頬を赤らめて答える。
「えっと...ソフィアといいます...。でもコーキさんはまだ16歳ですよね? いや養ってくださるのなら年齢は関係ないですが...」
「いや違うから! そういうんじゃないから!」
やっぱりそういう意味で受け取ってしまったらしい。ソフィアさんは綺麗だし、養うのもやぶさかじゃ...って違ーう!
慌てた様子の俺を見て、ソフィアさんはクスッと笑い、
「私を養ってくださるコーキさんには沢山お金を稼いでもらわないといけないので、今回の依頼頑張ってくださいね。達成報酬は200万ヘルです」
「冗談か~。冗談ですよね。焦るからやめてくださいよホント。ホントに」
弱肉強食のこの異世界では、初対面の人や目上の人に一々敬語で話していると舐められるかもしれない。
そう思ってなるべくタメ口な強めの口調で話すようにしていたのだが、つい敬語が出てしまった。
そんな俺を見てニヤニヤしている後ろの二人がうざったい。リク、お前はもっと気い弱そうなキャラだっただろ! 人の恥ずかしいところを見てニヤつくようなタチじゃないだろ!
ギルドを出ると、俺の後ろでネリーが口を開く。......未だニヤつきながら。
「...ご主人様。冗談だとわかってなんでちょっと残念そうだったんですか?」
こ、こいつ...っ!
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「ピシャァァーーー!!」
山に着いた。ギルドで聞いたとおりの見た目をした魔物が20~30体ほどいる。
馬車は馬を狙われると面倒なので少し前のところへ置いてきた。借り物だしな。
何時間も馬車に揺られてここまで来たんだから、ちょっとくらい休ませてくれ。そんな俺の願いは届く筈もなく、ハルピュイアは俺達に気付くなり襲いかかってきた。
「〈ヘパイストス〉は火を生み出すことはできないと思うから、火魔法で火を出してから操るといいぞ」
〈ポセイドン〉は水を生み出すことはできない(三叉の矛を召喚すれば生み出せるが)。だからヘパイストスでも同じだろう。
俺はアドバイスをすると一歩下がった。なんか近くにいたら巻き込まれそうだし。
「火球!!」
ネリーの前にサッカーボール大の火の玉が現れる。
〈ヘパイストス〉は火を生み出すことはできないが、火を操ることに関しては文句なしの性能を誇る。
例えば、酸素がなくても火を維持することができるだろうし、訓練は必要だろうが水中で火を燃やすことだって可能だろう。勿論火の温度を上げることなど造作もない。
火の玉は赤から青、そして透明に色を変えていく。
酸素が足りないと完全燃焼にはならないだとか、地球で学んだ物理法則はこの世界だと役に立たないらしい。もしかしたら酸素も操っているのかもしれないが。
俺には陽炎によって辛うじて形を把握できる程度だが、その火の玉が段々平たく広がっていくのがわかる。
ネリーは透明な火で壁を作ったのだ。
「ピギャァァーーー!!」
こちらに飛んできたハルピュイアは直前で熱さに気付き速度を緩めるが時既に遅し、透明な壁によって呆気なく命を落とす。
いきなり燃やされた仲間を目にし、ひるんだ他のハルピュイアたちは慌てて逃げ出そうと飛び立つ。
しかしそのまま逃がすネリーではない。
火の壁は透明から青に色を変え、そのまま青い龍に形を変化させた。
逃げるハルピュイアに火の龍は無情にも簡単に追い付き、焼く。
断末魔の声を上げ死んでいくハルピュイアたち。
Oh...... えげつないな。
エンシーに訊いたところ、この世界に召喚された地球人は所謂”残酷なもの”に対して耐性を得るらしい。俺が魔物や盗賊を殺してもあまり忌避感がなかったのはその為だ。
だが、いくら耐性があるといっても平和な日本で育った健全な高校生にこの光景は心にクるものがあるな。
《〈精神耐性〉を獲得しました》
お、なんか獲得した。〈精神耐性〉?
どうやらこれには精神的な苦痛を和らげる効果があるらしい。
スキルを簡単に獲得できる自分のチートさとご都合主義っぷりに驚かされるな。
しかし、精神的な苦痛を和らげる、ね。俺もこうして段々感情が薄れていくのか、悲しいな。いや「悲しい」ってそれ、感情やないかーい! なんでもないです。
俺が脳内で下らない一人漫才をしていると、ネリーが得意気に話しかけてくる。
「ご主人様、見てましたか? 魔物の大群を私一人で全滅させましたよ! この力を下さって本当にありがとうございます!」
来る前から予想してはいたが、本当にあっさり終わってしまった。
「す、凄いね。ソフィアさんがハルピュイアはBランクの魔物だって言ってたけど、その群れをものの数秒で倒しちゃったんだもんね」
リクが目を見開きそんなことを言う。
リクはこのグロい惨状を見ても何も思わないのだろうか。俺と同じように〈精神耐性〉を獲得したのかな? あ、リクはいじめられてたから残酷なことに慣れてるんだったっけ。なんというか、リク可哀想。
褒められるのを待っているのか、期待の眼差しで俺を見上げるネリーに俺は言う。
「そうだなぁ。こんな呆気なく終わると思わなかった。流石ネリーは、〈ヘパイストス〉との相性がいいのかもな」
「ドワーフですし、そうかもしれないですね」
「〈アテナ〉の盾も使ってみて欲しかったけど、まぁいいか」
「あっ! 忘れてました、ごめんなさい」
あらゆる攻撃を受け付けないアテナの盾を一度見てみたかったが、まぁいいか今度で。
すると、リクが口を挟む。
「じゃあコーキが攻撃してみたら? 神様の力を疑う訳じゃないけど、試しに木に立て掛けるなりしてやってみたらいいと思う」
なるほど。防御力を試すのであれば魔物が相手じゃなくてもいいのか。
「よし、早速召喚してくれ。ネリーが持ったら、俺が攻撃するから」
「え、ネリーが持ってやるの!? 危なくない!?」
なんだよ、神様の力は疑わないんじゃなかったのかよ。
ネリーはアテナの盾を召喚する。
それはネリーの身長ほどの大きさがある長方形の盾だった。
明らかに重そうな盾を軽々持ち上げるネリー。
これはネリーの力が強いのか盾が軽いのかわからないが、色々と違和感のある絵面だということは確かだな。鍛冶の神が作ったものなので重さはあまりないのかもしれない。
「よし、いっきまーす」
そう声をかけると、ネリーは盾を構える。盾がでかいからその後ろのネリーは見えないな。
三叉の矛を召喚し、最大出力で水を放つ。
水を放つというのは攻撃として地味な気がするが、実際そうでもない。
神の道具によって放出される水の水圧はとんでもないことになっている。人間に当たれば軽く貫通するだろう。
しかし、盾はびくともしない。水圧で押され、盾を抑えるのに必死という様子もない。衝撃を吸収しているのだろうか。
次に、ゼウスの雷霆を召喚し、先から雷を放つ。
うん、眩しい。だがその威力は申し分ない。明らかにここら一体の気温が上がっているのだ。
しかしこれでも盾はなんともない。
「っはぁ、はぁ」
これ以上やっても同じだろうと、俺は雷霆を仕舞う。
攻撃を受けている方よりも、放っているこっちの方がめちゃくちゃ疲れるんだが。
でもこれでアテナの盾は無敵だということが証明された。
今の攻撃を耐えて他の攻撃に耐えられないなんてありえない。
「もう少し、観戦している側のことも考えてもらえると助かるかな」
大分遠くで見守っていたリクだが、水が盾に当たって弾けたのかびしょ濡れだった。
「ごめんごめん、今乾かすから」
乾かすといっても正確には違う。
水を操れる〈ポセイドン〉にかかれば水を吸った衣服から水分を抜くことくらい余裕のよっちゃんだ。
「無事異能の性能も確かめられましたが、帰りますか?」
ネリーがそう言ってくるが、山に着いてから30分も経っていないのにもう帰ろうとは思えない。
「そうだな...、せっかく何時間もかけてここまで来たんだし、ちょっとこの山を回ってみないか?」
「何か面白いものがあるかもしれないし、そうしよっか」
「わかりました」
みんなの了承も得られたので山探検コースに決定。
馬車へ戻って山道を進む。
さて、面白い魔物とかがいるといいんだけど。
30分後
何もいねぇ。魔物どころか小動物の一匹もいない。ハルピュイアが住み着いたことで、この山に居た弱い魔物や動物はみんな逃げてしまったらしい。
珍しい植物でもあるかなと思ってその辺の草を鑑定するも、どこかで聞いたことがあるような名前のものばかり。
なんやねん。
俺が一人憤っていた中、今まで静かにしていたネリーが声を上げる。
「あっ! あそこに泉がありますよ」
泉...?
これ以上進んでも何もなさそうなのでちょっと行ってみるか。
馬車を泉の方へ走らせる。
遠目で見ているだけだが、泉の水はとても綺麗に見える。
あそこで少し休憩しようか。
暫くして、泉に着いた。
泉は学校の教室くらいの大きさで、側に大きな岩がある。
結構な深さがあるが、その底がしっかり見えるほど水は澄んでいて綺麗だ。
手で掬い飲んでみると、これまた凄く美味しい。
ここで少し休憩する旨を二人に伝え、腰かける。
時間でいうともうお昼過ぎだろう。朝アイテムボックスに入れておいたおにぎりをみんなで食べようか。
ここで豆知識ね。おにぎりは単に米を握ったもので、おむすびは三角に握ったものなんだって。転移する前に見た「月曜か○夜更かし」でやってた。
間違ってるかもしれないけど、もし違ってたら「月曜○ら夜更かし」に問い合わせてね。
外で食べる弁当というのはなんでこんなに美味しいのだろうか。
出来たての状態でアイテムボックスに入れたからおにぎりが温かいのに違和感があるが、まぁいいだろう。
暫く休憩して馬車に戻ろうとしたとき、ふと気付いた。
岩の側に何かがあるのだ。
白い岩のようなそれは、わずかに上下に揺れている。
気になって近付いてみる。すると俺はその正体に驚かされた。
それは自分の腹を枕にして眠っている真っ白い馬だったのだ。
それも、翼の生えた。
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コーキ
〈スキル〉
精神耐性1new
アテナの盾。
固有名詞が多くなると読者様が混乱するかもと思い「アテナの盾」と表記していますが、ギリシャ神話の中ではちゃんと名前があり、「アイギスの盾」と呼ばれています。
豆知識コーナーとして紹介しようか迷いましたが、後書きで紹介することにしました。




