あなたに、胸を張れるように。
「君の話を聞く限り不死王の城だけじゃなく、きっと龍王と獣王の城にも、魔王を封印する魔法陣があるに違いない。私たちはその、麗しの魔法陣を探し求める壮大な旅の途上なのだよ」
それまで星空をひたすらに見上げていたお師様の瞳が、初めて僕をまっすぐに見つめた。
「どうだいリーン、ワクワクしないかい? 私たちはきっと、世界中で一番幸運な旅人になれる筈だと思うんだ」
心底幸せそうなお師様の笑顔は、こっちまで釣られて幸せになってしまいそうに輝いている。
「失ったものを嘆くより、手に入るかも知れない幸せを、一緒に探してみないかい?」
ああ。
ああ、そうだった。
懐かしさに、思わず涙がこみ上げる。
孤児だった僕の魔力を見極めて僕を拾ってくれた時も、お師様はこんな風に優しく諭して、手を差し伸べてくれたっけ。
親を亡くして、このままのたれ死んでもいいと思っていたあの頃。
お師様のあの手が、どんなに頼もしかったか。
「それにね、これは仮説だけれど、私は王家に伝わる聖女召喚の術法を会得している。あれも賢者がもたらした術法だからね、もしかしたら新たな魔法陣を研究することで、異界との交信や行き来も可能になる新たな術法を編み出せるかも知れないよ?」
とんでもない提案だけど、お師様が言うとなぜか信じられる。僕が塞ぎこむと、いつだってお師様はこんな風に、途方も無い計画を口にするんだ。
荒唐無稽に思える、夢みたいな計画。
でも、お師様は不思議なくらいその計画を実現してきた。
普通より魔力が秀でてるくらいだった僕が、お師様に次ぐ魔力を手にしたのも、神の加護なく回復魔法を操れるのも、他の魔術師が目を剥くほどの高等魔術が操れるのも、みんなこの、お師様のお気楽とも思える計画を全うしたがゆえの産物だ。
「ねえリーン、夢があると思わないかい? きっと、頑張ってみる価値がある筈だよ」
いつものお師様の決め台詞に、思わず笑みが零れる。
「笑っているね。信じられない?」
「いいえ」
僕は笑って頭を振った。
これで「信じられない」なんて言おうものなら、多分お師様なりの策と根拠をたっぷり小一時間は語られるだろう。
でも、もうそんなものは必要ないんだ。僕は、お師様のよく解らない根拠が、なぜか信じられるって知ってるから。
「いいえ、信じます。だって、お師様の言う通り、僕は大魔導師になれたから」
「いい子だ。さあ涙を拭いて。私たちは魔道の徒だ。悲しみも希望も、それはきっと、魔道への確かな道しるべになるのだよ」
お師様の言葉に、僕はただ何度もうなずく。
そうだね、泣いていたって何一つ始まらない。
キッカさん、本当は僕、貴女にずっと言いたかったことがあるんだ。もう、遅いのかも知れないけど。
ごめんね。
あなたを守るって……絶対に元の世界に送り返してあげるって誓ったのに、結局なにもしてあげられなかったね。
だから僕は目指すよ。
「ただ、お師様。僕は異界と近くなることは望みません。それはきっと、新たな軋轢や争いの火種を生む結果になると思うから。それよりも……」
キョトンとした顔のお師様に、僕はハッキリと告げる。
「もともとあの魔法陣は封じるためのものです。その組成を理解して、叶うなら他の世界に干渉できないよう、封じの力として使いたい」
「それは……君の大切な人とも、二度と会えなくなってしまうかも知れないよ?」
「きっと、それでいいのです」
寂しいけれど。
もうキッカさんのような思いをする人を出しちゃいけないんだ。
「いいのかい?」
念を押すように尋ねるお師様に、僕は力強く頷いた。
いつかきっと、僕はその夢を叶えるだろう。そのために僕は日々を歩んでいきたい。
違う世界にいる貴女に、胸を張って笑える日が来るように。
これでリーンのSSも終了です!
ずっと寝っぱなしだったお師様も出せて満足です。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました(╹◡╹)




