馬鹿にバカというはなし
大広場。中継映像は音を拾わない筈だった。だが異常事態に気がついた中継スタッフが音を戻した。
中継を仕切るギルド《スフィア・タイムズ》は報道ギルド。ギルドメンバーの勘が、報じるべき、と囁いたからだ。
だが、断片的なやりとりではギャラリーに事情はわからない。
かくれんぼ参加者のアベンジャーズとアーネ。
かくれんぼ標的のネコをプロモートする、運営に近いニート。
アベンジャーズがニートを襲ったこと。
アーネが盾になってニートを守ったこと。
アベンジャーズはニートを人殺しと糾弾している。
だが、直接危害を加えられたわけではないらしい。
――――――――――――――――――――わかるのは、そんなところだ。
「お゛い」
ドスの効いた中学生女子の声。
「止めさせろ」
セイ。
拳法胴着に胸当て、篭手脚甲、普段は使わない棍を展開した完全戦闘体形。大広場にいるアベンジャーズ、僧侶二人に棍の先を突きつけた。
「うちのオッサンに、手を出させるな」
今から現場に行っても無駄。距離がある。間に合わない。即断したセイ。すぐに手が届くアベンジャーズの一味、彼女らを脅せば間に合うと踏んだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やりなさいよ」
アベンジャーズの女僧侶の二人。
白いフードを被った長身の女と、フードを上げてボブカットを見せた少女。
少女の方が答えた。
「どうぞ」
少女がセイが突きつける、尖った棍の先を自分の眉間に合わせた。
「胸を抉るなり、喉を潰すなり、手足を折るなり。好きなだけなんでもすればいいじゃない。アタシたちは死なないもの。アイツやお姉ちゃんと違って、くるしいだけだものね」
セイが舌打ち。
「ネコちゃんは、あなたたちをフィールドにだせますよ」
つまり、殺せる。
トモがセイの後ろから言い添えた。
ゲーム的な部分を超えて、社会的常識が欠如したハイプレイヤー、ネコ。
ネコなら、ヤる。
デスゲームを理解、いや、悟った上で、殺る。
セイ&トモはネコの異常性を理解しているし、止める気もない。
「うちのオッサンに手を出して、殺さなきゃ殺されないと思うなよ」
セイの眼が据わっている。
言い回しがアレだがこういうこと。
人間はイメージだけで死ぬ。しかもシステムの安全装置が利かないデスゲーム中は、その程度の結果は不思議でもなんでもない。
と、ニートは他の誰にも教えていない。
だからセイは思っている。
安全圏、ニートが切り刻まれても、死にはしない、と。
だが、ソレはどうでもいいかもしれない。
ニートが死なないからといって、セイの怒りは変わらない。
どんな結果、取り返しの有無じゃない。ニートを傷つける意志が赦せない。だからアベンジャーズは殺す。安全圏では殺せない?
中堅程度のセイ&トモの実力では、他のプレイヤーをフィールドに追い出せない?
なら、追い出せる奴に頼る。
普段は振り回されるばかりで、セイ&トモはネコの力に頼ろうとはしない。何かを頼もうと思った事もない。
だが、違う。
オッサン、つまりニート、が狙われた以上、違う。
ネコはクズ共をフィールドに放り出す。そしてみんな、みんなで殺してヤる。セイは独りで全員を殺りたいが、仕方ないと思っている。
ニートによく言われるのだ。仲良くしなさい、と。
「オッサンが言うから、みんなで殺らないと、な」
眼が跳んでるセイ。すでに脅しでアベンジャーズを止めようと思ったことを忘れている。
「ニートさんは、助けてあげたんですよ」
トモが我慢する。ニートがいない以上、笑っていれば済む状況じゃない。普段は何も考える必要がないけれど、それは何もかも考えてくれる人がいたからだ。
「ふざけないで!!!!!!!!!!」
「ふざけてませんあなたたちはフィールドで言い争ってたじゃないですか!!!!!!!!!!」
「関係ないでしょ!!!!!!!!!!」
「危なかったんです!!!!!!!!!!プレイヤーが街に逃げる最中で倒されてないモンスターがいつ来てもおかし」
「頼んでないわよ!!!!!!!!!!」
「ほうって置けなかったんです!あなたたちも他のパーティーも!」
「ほうって置いてよ余計なお世話!!!!!!!!!!」
「あなたたちは生き延びたじゃないですか!!!!!!!!!!」
トモが泣き出した。
「あなただけじゃない!!!!!!!!!!ニートさんにバカにされて!!!!!!!!!!ニートさんを追っかけたから!!!!!!!!!!あなたも、他のパーティーの人たちも!!!!!!!!!!フィールドで言い争ってたみんなが安全な街に入れたんじゃないですか!!!!!!!!!!」
「ならなんでいないのよ!!!!!!!!!!」
泣き出したアベンジャーズの少女。
フードをかぶっていた女僧侶が前に出た。
「わたしたちのリーダーは、死にました」
システムウィンドウを開いて見せた。パーティーメンバーステータス、Lost表示。つまりHPがゼロとなり、ゲーム上死亡処理されたことを意味する。
通常はゲーム的なペナルティを負って再度ログインする。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・デスゲーム中でなければ。
トモの目が見開いた。
「え?ウソ?見たのに」
あの時、ネコカフェ、というよりニートを追いかけて来た全員が最寄りの街に入った。
「おかげさまで
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・無事、安全圏に逃げ込めました。間違いなく」
その時に生きていた部活仲間。幼なじみグループ。みな、生き延びた。ニート巧みに挑発されながら、ネコに引き離されずに追い続けたら、何故か街の門をくぐっていた。
あの時にネコカフェを追いかけていた七つのパーティーと、パーティーを組んでいない5人プレイヤーたちは、間違いなく街の、安全圏の門をくぐった。
ニートに言われてトモがその目で確認したのだ。それをアベンジャーズも否定しない。
「その後」
アベンジャーズの女僧侶が目を伏せた。
「リーダーは街を出ました。独りで」
夜間。
攻略圏とは違い、街の門の封鎖まで手が回っていなかった頃の育成圏。
弟を失った姉は独りで街を出た。
フレンドリストにLost表示が出ていたことに気がついたのは、朝だった。
通知が切られていたこと。
みなが疲れ切って眠っていたこと。
それが遺された皆を追いつめたこと。
女僧侶は死んだリーダーの部活仲間。少女僧侶は幼なじみの少年と恋仲であり、弟の跡を追うようにフィールドに消えたリーダーを、姉のように慕っていた。
(へぇ)
ニートはギルドコールで、セイ&トモのシステム経由で話を聴いていた。こういう時の為に、オープン設定にさせてるのだ。
だが、予定調和。感想を抱いた事が奇跡かもしれない。
ニート自身、残念とは思っている。
すごしやすいデスゲーム。
それがニートの計画。
その為にプレイヤーの気分を安定させたい。一人の死がもたらす波及効果の大きい事は目の前のアベンジャーズを見ればわかる。
その為に被害を最小化。
それは概ね成功していた・・・・ニートの判断では、多少の誤差で済んでいる。
あの時はそこまで考えが回らなかったが、今はニート以外もその危険性に気がついている。
プレイヤーの自殺。
これからも起こるだろう。
ピークはデスゲーム開始から3日間。
ここ一週間で減っている。
いろんな伝手でニートが調べた範囲の話ではあるが・・・・・・・・・・・デスゲームが解決する前に、もっと正確な資料が手に入るだろう。
ニートの計画に対する阻害要素。
殺し合いの方がまだマシだ・・・・・・・とニートは考えている。
一つ一つクリアする手間と時間はない。口実をつけてその傾向がある連中をモンスターの巣に引き込んでもいいかもしれない。
(そのほうが確実ですね)
などと判断していることは、おくびにもださない。
今は、目の前の連中を片付ければいいだろう、とニートは結論。
アーネに囁いた。
「どうせ死にはしませんよ」
ニートに言わせれば、アベンジャーズは典型例。
自責、喪失感、後悔
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・捌け口がニート。
なら、軽い軽い。
他のメンバーならいざ知らず、ニート自身は憎まれるのも嫌われるのも慣れたもの。セイ&トモたちが余計な恨みを引き受ける前に、片付ければいいだけ。
感情なぞ、運動で解消出来る。
殺せない安全圏だからこそ、気楽にアベンジャーなどとのたまわる。
軽い奴らだ。
たかだかアバターを、切り刻まれてやればいい。
生死に対して関心がない分、アバターが受ける打撃にも強いニート。
せいぜい苦しんでやれば、アベンジャーズの皆さんも納得するだろう。
その程度の話とニートは見切りをつけた。
(という訳ですよ!アーネさん)
「――――――――――バカなのはわかりましたから、だまんなさい」
あれ?
話が通じない。
コミュニケーション能力に自信があるニートは戸惑う。
何年振りだろうか?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――利害を理解させた相手に拒否されるとは。
「このデスゲームが解決したら、リアルにアナタをひっぱたきますから、忘れないでください」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あなたが忘れてもいいように?」




