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そうだ。教都に行こう。

真夜中過ぎに出発。

モンスターの群生(文字通り発生する)地を避け、地形障害をなるべく迂回、街道は使わない。

一時間あたり10分の休憩を挟み6時間。


街と街の間を街道で歩けば2時間程度。

育成圏(始まりの街から五つ目の都市まで)なら、だが。

攻略圏での都市間移動はまた別になる。


ちなみにフミノと出会った場所に一番近いのは三つ目の街『クーロン』。

ネコカフェは五つ目の都市『教都』に着いた。


「まだだよ!まーだ」


着いてなかった。

先行したニートとセイが街の前に潜んでいる。

潜みながら大声は止めよう。


「トモ」

耳を指差したセイ。

イヤフォンが耳に刺さっているわけではない。

ゲーム内の会話なので危機が無くても通信可能。

制限は環境やスキル、ギルドやパーティーへの登録で変わるがどーでもいいですかそうですか。


通話中。

遥か後方のトモが「着いた着いた」をはしゃいでいるらしい。


ニートは軽く右手をふる。


「上、4。左右、各2。門内なし」

「わかんね」

頸をひねるセイ。

改めてニートが指差し。


目前の『教都』城門は開いている。

門の両脇である尖塔の見張り台に人影。


「二人づつ、門の上に4人か」

「出入りを見張るだけなら左右だけで十分です」


たいていの街では出るものだけを見張っている。

ニートは続けた。


「上」


門の上。

身を乗り出している人影は時々、左手をかざしている。

セイはニートを見た。


「遠見?」

ニートも左手をかざしていた。

遠見スキル発動中の動作だ。


「何を見張ってんだ?」

「門内が見えますか」


セイは頷いた。

街の内側、大通りが見えた。

何もいない。


「………………守ってる、って感じじゃねーな」


PKギルドやNPCモンスターの攻城イベントなら門は閉まる。

イベントフラグは自動判定か在圏PCの申請(大抵は数)次第。

逆にイベントフラグがなければ日の出日の入りに自動開閉。

あとは特殊なアイテムや称号の効果。

例外はなくもないが。


「閉めたくても閉められなきゃバリケードくらいつくるよな」

イベントではない、と。


ニートが頷いた。


「なら」

「追っ手?……なら、隠れてる、か」

何かを待ち伏せているなら姿をさらすわけがない。

門には身を隠す場所がいくらでもある。


「焦って……ない、かな」

見張りは正面左右を一人が見て、他のものはのんびりと肘をついたりしていた。

見ているものもゆっくりと見回している。

セイは両手の平を上げた。


わかんない、と。


「救援準備」


ニートの言葉に手を打つセイ。

「ほっ!」

「見える範囲に危険な状態のPCがいたら、救援隊を出すのでしょう」


救援隊役、相応のパーティー、は門の尖塔内部で休んでいるのだろう。


教都から先、攻略組ばかりがたむろする攻略圏では、門の見張りすらなくなっている。

今はカーニバル状態で出入りが激しいのもあるが、フィールドの危険が知れ渡った、というのが大きい。


攻略圏にはリスク管理が出来るPLしかいない。

自分たちの面倒を見られるからこそ外に出る。

いちいち確かめるまでもない。


攻略組は皆そう考えるからだ。

だがそれは、ここ、育成圏では通じないだろう。


フィールドの危険を自覚していない、自覚しているつもり、自分の対処能力がわかっていない、そんなPLがいくらでもいるからだ。


だから最低限、町の門に見張りを出して、警告はする。

警告を無視して外に出るPLもいるかもしれない。

そこまで面倒は見きれない。


……多くの町ではそう考えられている。


だが『教都』では、捜索隊を出す危険は冒せないとしても、見える範囲に近づきさえすれば、門内から支援を出すつもりのようだ。


「お人好し、ってーか、ごりっぱ、だなー」

「危険を承知で外にいるなら自己責任」


セイがニートを見た。

呟きに侮蔑が混じっていたからだ。


「違うのか?」

「そう感じるモノも少なくないでしょうね。残念ながら」


セイは目を見開く。

煙に巻かずに答えたからだ。

ニートにしては、はっきりと。


「独立した自己とは誇大妄想です。そこに責任を被せるのは悪い事、です」


はぁ……目が点なセイ。


「大丈夫です」

ニートがセイの髪を撫でた。

「セイは考える側の人間ですから、正解が解りますよ。老衰前に」

言い返そうとしたセイにシーッ!っとジェスチャー。

そのままニートがメッセージウィンドウを開いた。



《call》



『無事か!』

「はい。ご無事でしたか」

『たりめー!っーか、わりぃ』

「お礼も謝罪も私のモノです」

『いい加減にしろ!怒るぞ!』

「怒られてもしかたありませんね」

『……やな奴だな、オマエ』


「吟さんに嫌われることだけは悲しいです」


『………………………………………………わかった。オマエが悪い。認める。言うとおりにする。だから、かんべんしろ』


「ありがとうございます」


『とにかく!今更だが、無事だな』

「おかげさまで」

『一晩中着拒ったーー寿命が縮むぜ』

「隠れて逃げてましたから……片づいたのですか?」

『ちょっと揉めたが、街中から人が集まって来たから、大事には、な』


「真夜中に?」


『ああ。バレンタイン・ファミリーのヤツら、はじまってから十分くらいでエモノ固めて勢揃いよ』

「ほう」

『人数が少ないから脚がはぇーんだな。め組なんかは最後まで全員そろわなかったが、ウチだって当事者じゃなきゃそんなもんだ』

「十数と百、ではしかたありませんね」


『早く終わったせいもあるしな。いきがってたが、あっという間に数百に囲まれて蒼白だったぜ』


笑い声。


『でな、キャプチャは送ったが、あいつ等と揉めたのか?』

「まだ経緯を聞けないんです」

『あ?』

「女の子を拾いましてね」

『また託児所やってんのか』

「妹さんくらいの子ですよ」

『子ってか、娘か、どこで』


「フィールドで襲われてました」


『……………………………………………………なにぃ!!!!!!』


「独りきりでしたが。男5人が」

『!!!!!!!!!!』


無音。


『裏技、か』

「殺すぞ。が、三日前から現実と同じ意味をもっているんです」


『……単純な脅迫で、システムガードを無力化出来る……』


「皆が気がつくには時間がかかるでしょう」

『長引けばいずれ、か』


「電子的犯罪は必ず足がつく。とりわけすべてがデータ化されている仮想世界では。PKに絡めて、その事実を先に広めましょう」


『ああ、協力する』

「テキスト送りましたから読んでおいてください」


『わーった………………………………そのな、』


「彼女は、一昨日ご挨拶した時にお話した件で移動中にネコが見つけまして」


『……………………………………………………』


「私が着いた時、HPが無くなりかけ、命乞い中」


『……わかった、いい、それじゃ何がキッカケか聴くどころじゃないわね』


「素に戻ってますよ」


『うるせー。ははっ。ちょっと、気分が……いや、あれだ、そいつら殺したか?』


「……」


『いやいや、責める気はない。ただ、こういう時にレッドだとアレだから、うちならもともとレッドがいるし、役にたつぜ』

「表示はレッドになっていません」

『あー、裏技、か。いや、いい、わかった。なにかあったら言ってくれりゃいーや』


「些事はさておき」


無言。


「単純な犯罪じゃありませんね」

『いきずりなら、あんな追っ手はない、な』

「どうでした?吟さんに喧嘩を売った連中」


『トウシロ』

「ほう」


『いきがって見せただけ。あたし等はおろか、クーロンを知らねー感じ。門にいた数人を10人ばかりで囲んでるうちはチョーしてたが、外と内からあたしらに囲み返されてビビってた。PKどころか決闘もしたことねー奴ら。真ん中はレベルそこそこ』

「あそこなら、荒事専門だっていますよね」

『攻略組クラスがな』


「独断?一部が、とか」

『命令って様子だった。とにかく、渡せ渡せ、何をしているかわかっているのか……』

「ギルド命令、専任はフィールドに出払って、安全圏の待ち伏せは一般メンバーに任せたのかもしれませんね」

『なら、雑魚くせーのも納得だ。一番吠えてたヤツが、みんなの為って言ってたが、具体性が無くて、いまいち理解してないようだったぜ』

「なるほど」

『ま、後は、思い出したらメールする。後でウチの連中にも聞いてみるしな』


「あちらと揉めるようなら、私の名前を出してください」


『ねーよ。門番してたら因縁付けられただけだからな。ネタは若頭しかしらねー』

「みなさんに奢っておいてください」


『あーそうだ!』


セイが驚いて振り向いた。

聞き耳をたてていたのだ。


『金貨50枚ってなんだ!なんもしてねーんだ!約束分だって受け取る理はねーぞ!受け取り拒否設定解除しろよ!!!!』

「ヤです」


『なんじゃそりゃー!!!!!!』


「迷惑料です」

『ざけんな!!!!リスク承知で受けた仕事に迷惑もクソもあっか!!!!』


罵詈讒謗。


「よろしいか」


息切れ。


「みな、疲れています。そこに騒動が起きれば不安になる」


吟は黙認。


「始末の付き方一つで破綻して、或いは自信となります」


『だからなんだ!』

「区切りをつける儀式、宴が必要」


『……ウチはビンボーじゃねー。そんくらいの金はある!』

「まだ、ね。閉じこもっている以上、蓄えは減る一方。いずれ片付けるにせよ、今は減らしているように見えてはいけません」


『あーえー』


「ゴタゴタの後、余裕を見せる必要があります」


『……』


「吟さんの余裕を、です」

『はぁ?あたし?』


「皆が頼ってるのはギルドじゃない。あなたです」

『……いゃ……でも、そりゃ、あたしらの問題だろ』


「ら、は、さておき、吟さんの生死は私の問題です」

『……………………………………!!』


「もしも借りだと感じるなら」

『……………………?』


「体で払い受けます」

『ちょ!!!!!!!!!!』



《out》



ニートは視界の隅を見た。時刻表示。

「あと10分くらい」


セイは門を見たまま。

背中がそわそわしている。


「……あー」


どうぞ、っと言うようにニートはセイの肩を叩く。


「………………………………………………フミノ」


「追っ手は理性的な方々でした。捕獲以外は狙ってなかったでしょう。殺しかけていましたが、加減に慣れている人は少ないですから、殺意はなかったのではないかと。手に回復薬を用意してましたしね」

ニートは門を見張りはじめた。


「私が見た範囲では推測される痕跡もありません。たいへん幸いにHP以外のダメージはなかったでしょう」


セイは安堵。

ふと、頸をかしげた。


「さっきは?」

「吟さんは口が堅いから大丈夫です」


はぁ?っと表情で語るセイ。


「独り立ちする時に役に立ちます」

最初から同情心を持ってもらえる。


有力ギルドのマスターからのソレはアイテムよりも役に立つ。

セイは釈然としない。


だが、騙して利用することの是非などニートには通じない。

そもそも騙した自覚があるかどうか。


「バレたら」

「騙したのは私ですから」


どうにでもするだろう。

ニート自身はそれで済む。


「吟さんは八つ当たりする人じゃありません」


先回りされたセイ。

独り立ち、ってことは。


「フミノを捨てて、騙した女に押し付ける気か」

「いいえ?」


疑問符。


「一つ」

人差し指。

「あの子は独りで歩けるようにします」


ニートはセイを見つめる。


「二つ」

中指。

「杖は一つ以上必要ですから吟さんだけではいけません」


つまりは、捨てない、押し付けない、とセイは理解。

騙した女、は否定すらしないニートに苛立ちMAX。


「三つ」

薬指。

「同情はキッカケにしか使えません。フミノさんには自分を中心にした適度な相互依存関係を構築してあげましょう」


門を見直したニート。


「他に質問はありますか」


あーえー、と唸るセイ。


「独り立ちってなんだ」

自己責任は嘲笑するくせに。


「切り替え可能な関係性の中で自己をある程度は保てる状態」

セイ、?


「私たち全員が一気に死んでも残った独りで世界に対処出来ること」

セイ、フリーズ。


「感覚の及ぶ範囲を把握し、可能行動を見極め、範囲外の情報を得る伝手を持ち、決断する意志力を持つ」

ニートが振り返った。

「そろそろです。質問は一つだけにしてください」


セイは慌てた。


「あ、えと、吟、とかは、あんたの女か、とか」


いまさらだが。

なに訊いてんだ!っと頭を抱えるセイ。

言い直す。


「えらく気前がいーんだな」

女の次は金かよ!っと連続コンボで自爆するセイ。


「とか、が昨日今日で話した女性PCのことなら、どなたも私の物じゃありませんね」

セイはニートの目をチラ見。


「お金は今回の私たちの動きを換金しただけですから、損はしてません」

情報料で200。

礼金50×四カ所


「いや、あれだ、金貨50を4ギルドって、儲ける気ねーの」

+-ゼロ。


「必要なモノは必要な時に必要なだけ手に入れます」

多少によらず過ぎない。

だからゼロ。

不足はないから困らない。

アイテムや金貨は余分に溜め込まない。

ストレージも空くし、採取や獲得時のコストやリスクは最小で済む。


「私のやり方にあわせなくてかまいません」

できねーよ!っと言えないセイ。

「目的無しに手段を溜め込む愚を犯さなければ大丈夫」


ニートは門に視線を向けた。

話は終わり、ということだ。




「約束の時間」

セイも門を見た。

動きは無い。

ニートを見た。


「後十分だというのに」

はぁ?


「下見が無いとは」

イベントや新マップ探索時ならともかく、待ち合わせに下見する、か?


「ああ、」

不思議そうに見上げるセイに、微笑むニート。


「今回の相手は、そういう人たちではありますから、異常ではありません」

そうじゃない。


「何であれ、事前確認は必須ですからね」

だから30分前から門前待機。


……………………。


「おっさんは、いつもそーなのか?」




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