ミッション・スタート
シスターは緊張の面もちで評議会、の置かれている円形劇場に入った。
入れ違いに走り出すのはギルド『黄金の夜明け』メンバー。
劇場の警備役たちだ。
出入り口受付は、ギルド『マルタ騎士団』のスタッフだけ。
非戦闘系の回復役(僧侶/魔法使い)ばかりだが、数あるギルドで一番中立的な『マルタ騎士団』だからこその役目。
一昨日、暴動の後に起こったギルド間戦争。
戦いあった者たちが、再戦を防ぐために作った評議会。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・趣旨はみんな賛成だが、シコリは残っているわけで。
皆の目につくフロントは、仲裁者たるシスターたちにしか出来なかった。
そして、一応、というか、形式好きなクラウンの主張でさっきまで出入口についていた警備?スタッフ。
フロントを中立派で固めた趣旨が台無し。
遺恨が残るギルド同士が出くわして、案内待ちの間に睨み合い、受付スタッフが割り込んで仲裁。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――というしょうもないトラブルの原因。
その警備スタッフこと『黄金の夜明け』武闘派メンバーは皆、議長の召集で警邏本部に向かった。
だから評議会(円形劇場)出入口は普段より落ち着いていた。
シスターは建物内に進み、マルコたち護衛は受付に待機。
立場が微妙な事を意識しているマルコ。
劇場ロビーを行き来する評議会加盟ギルドメンバーたちの視線。
クラウンが連呼したように、運営を助けた裏切り者と蔑む者。
いたいけな少女を殺そうとした凶状持ちだと恐れる者。
事情を知らない大半の者たちの感想は『シスターが預かっている不審者』だ。
そのあたりの微妙な機敏がシスターはわかっていない。
だから、毎回、離れて待機するマルコ達を不思議そうに見る。
シスターに寄り添うようについて行くのは、尼僧姿の女性が三人。
受付のギルドメンバーがシスターに駆け寄った。
彼女たちは魔法使いローブ。ギルド『マルタ騎士団』は僧侶と魔法使い、癒やしに浄化/治癒に回復が大半だ。
「お顔の色がすぐれませんが」
受付スタッフの気遣いを一身に受けるシスター。
そのシスターを支えるのは、傍らにいたポニーテール少女。
もう一人の小柄な少女が反対側からシスターを支えていた。
長身の女性が受付スタッフの前に進み出る。
「ご気分が優れないようですので、控室を用意していただけますか」
慌てて受付スタッフがシステムウィンドウを開く。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・大丈夫です、空いてます」
「では、一番奥を抑えてください」
高校生くらいの受付スタッフ。ギルド『マルタ騎士団』は基本的に女性メンバーばかりだ。
「ギルドホームに帰ったほうが・・・・・・・・・」
年上の女性に気圧されながら、提案する受付スタッフ。
「シスター、一休みしたら、帰りますか?」
シスターは困り顔。
女性は返事を待たずに頷き、向き直る。
「では、その時はお知らせします」
受付スタッフは一礼する女性にお辞儀を返した。
円形劇場の廊下を進むシスター、というより、シスターを囲む一団。
「す、すごい、ですね」
シスター、小声。
「?」
囁かれた年上の女性は、よくわかっていない。
受付スタッフから見て年上の女性、ギルド『蝦夷共和国』局長、の近藤。
フードを降ろした尼僧姿。
堂々とした立ち居振る舞い。
シスターと同じ衣装だからではなく、その堂々とした物腰は、誰から見てもギルド『マルタ騎士団』のメンバーに見えた。
しかも、幹部クラスの物腰。
えらそう、とも言うが。
身分詐称中に普通は、そうはいかない訳で。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――だよね?
後に続く山崎(『蝦夷共和国』監察方)は剣呑な視線、支えられるフミノはフードで顔を隠しているが蒼白だ。
流石にシスターも、大丈夫ですか?、などとは言えない。
見ればわかる。
シスターの心労とは次元が違うPTSD発作中。
もはや安心枕状態のネコ、保護者に近いニートから離された(30分)ことが、そうとうに堪えているようだ。
せめて馴染み(二日前から)のセイ&トモが居ればまだ違うのだが。
第二の囮として『はじまりの街』大広場に待機中。
二人は、ほんとーに、待機(お茶会/食事会)しか、していない。
だから山崎の表情、険が深くなる。
山崎は、時折、ニートにフミノの様子をメッセージしている。
ニートから頼まれたから、でありフミノの為にだ。
北方攻略圏から色々な場所を経由して『はじまりの街』にいたる過程で、親しくなった、とは言わないが、馴染んではきた山崎とフミノ。
まあ、ニートたちとフミノは作戦上別行動。
フミノと護衛する山崎は意識的に近くで過ごしたからだ。
だから、フミノの心の傷を知っている――――――――――――――――――――彼女が孤立に弱い事を知っている。
ニートのメッセージ一つでフミノのPTSDが和らぐ事を知っている。
だからこそ、フミノの様子を、定期的に知らせるように頼んできたニートを見直した。
そしてメッセージ一つ送らないニートを、元々『大っ嫌い』だったが、更に嫌いになっている。
まあ、ギルド『蝦夷共和国』メンバーは大抵ニートが嫌いだ。
ニートが、わざわざデス・ゲーム勃発直後、近藤局長の自己嫌悪を抉っりに来たからだ。
ゲームに誘ったせいで、ギルドメンバーをデス・ゲームに巻き込んだ・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・と思いこんでいる近藤の悩みは、山崎からみてバカバカしい。
落ち込んで土方副長の手を煩わすあたり、腹立たしくもある。
だからと言って、わざわざ、傷つけにきた(としか山崎には思えない)ニートはもっと腹がたつ。
ギルド『蝦夷共和国』メンバーでニートを嫌っていないのは、限られる。
嫌いというよりニートが苦手な近藤局長。
基本的に無感情で他人に好悪を示さない土方副長。
ギルド内で山崎たち高校生と対になる社会人、見廻組の佐々木組長。
まあ、ギルドトップ3が黙認、承認、保留たから、ニートは『蝦夷共和国』に出入り出来るのだが。
「すこし休みます」
近藤が改めた控え室。シスターが強引にフミノを部屋に入れた。
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ニートはフミノを呼び出した。
目まぐるしく移り変わる風景でフミノが目を回さぬように、Sound Only。
ニートは時計を見て、その数字を控えておく。
フミノの耐久時間。
微々たるものだが、延びてはいる。
さて、誤差か?効果か?
「やあ、フミノ」
まあ、いずれにせよ、いろいろ試してみよう。
まずは15分会話。
前回の半分でどうかな?フミノはどの程度立ち直るか?さらに何分もつか?話題によって効果が変わるか?
運営拠点調査も大切ではある。
だが、ニートにとっては、フミノの耐久試験もまた重要だった。
――――――――――――――――――――――――――――――いつか再び立ち上がれるように。




