柳の陰
なーなーおっさん。
人間は見たいモノを見るってホントか?
ならさ、みんな、もっとハッピーじゃねーの?ラリでハイったみたいによ?
バッドダウンになるわけがわかんねーんだけど?
あの時『そういう話』がどこから生まれたのかわからない。大広場で暴動が起きたとき、意味がとれる言葉は一つだった。
「運営を殺せ」
大広場からはプレイヤーが溢れ出して、逃げ回っているだけの者も少なくないように見えた。
押し潰され、轢殺状態のアバターが再生しながらまた人々の脚に踏み砕かれる。
誰かが、皆が、何かを叫び、人波が門へ向かった。
西、北、南。
口火を切る声は常に違うが、皆が続く。
誰が言い出した?
なぜ言い出した?
皆を煽って運営プレイヤーを槍玉に挙げたのは?
「誰もおらんかったんやないかな」
皆がヨイツを見た。
「せやろ?跳び過ぎや」
運営の『せい』から『捕らえろ』でも『なんとかしろ/させろ』でもなく『殺せ』。確かに飛躍しているといえばいえる。
考えた事も無かったシスターたち。
「むしろ作為を疑わないか?」
ニートが尋ねた。
飛躍した展開こそ作為ではないか?
「作為っちゅーのは判断、つまり筋があるもんや」
考える、とはそう言うこと。
考えないで人を、何かを嵌めることなんかできはしない。
陥れようとしたときに、陰謀者は何かを考える。
考えようとする。
それが上手かろうと下手だろうと、慣れてようと初めてだろうと。
途中で破綻したとしても、だ。
むしろ破綻したほうが『こーいう話にしたかったんだろうな』とよりよく見えるもの。
「筋が無いのは?」
「反応や」
「納得」
判断にあらず、反応なり。
人の気分や感情は、突き詰めれば、筋も根拠も何もない。
ドヤ顔ヨイツ。
手を引くニート。
ポカーンとしてるシスターたち。
あ、ネコはニートの膝で丸くなってます。
着ぐるみ込み130cmは人として小柄だが、膝に乗るのはどーよ?
まあ、小柄な虎を膝に遊ばせているような?
虎縞饅頭を抱えているような?
ネコの着ぐるみは模様(ぶち、寅縞、三毛、しろ、黒、他)を変えられる高性能って知ってた?
さておき。
ニートが付け足した
『突飛に過ぎてシナリオを感じない』
ということ。
シスター達にも伝わった。
いや、むしろ作為ではないなら
『誰が思いついたのか?』
と思ったが故に飲み込め無かったのだから、状況は変わらない。
ニートも失敗を悟った。
ヨイツは全く気が付いていない。
「誰、ってか、口火切ったつーか、『言い出したやつ』おらんかったんやないかな・・・あ、アンタらがウソってやなくて」
慌てるヨイツがマルコ達に弁解。大丈夫、ついてきてないから。
「あれやあれ」
どれ?
「心霊写真のそれ」
どれだよ。
「あれ」
指示代名詞だけでは伝わらないが、そーいう話方するやついるよね?
特に決まった人間関係から出ない人。
ヨイツとかヨイツとかヨイツとか。
「影の濃淡に顔を見る」
ニート。
「意味がないものに意味をこじつける。無意識に」
人間の意識、あるいは脳、またはソフトとハードの持つ機能。
意識の領域では制御出来ず、無意識から湧き上がる。
「ヴァーチャルのほぼすべてがプレイヤーの脳を使って生み出してるんやから、特に影響受けるわな。ゲーム演出なんて言い張っとる『ゲーム内で感情が隠せない』なんてのも実は」
話が脱線するのも実は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ヨイツはリ
アルでもこうです。
あまり触れてはいけない。
――――――――――そして人間は
「見た、と、見出したを識別する機能がない」
聞いた。
聞こえた。
識別する為には機能ではなく意識的に取捨選択しなくてはならない。
「余裕が無けりゃでけへんわ」
焦りが検証プロセスを省略、無意識にノイズから拾い出して組み合わせた情報。
『運営を殺せ』
を、そのまま意識が受け入れる。
「それをまんま怒鳴った奴もおるやろ」
例えば信じがたくて、声にだす。
傍らの人間に確認する為に、ざわめきに負けずに怒鳴る。
言われた者がざわめきに負けない声量で聞き返す。
それを聴き、また誰かに問い返す。
それを聞き、意味を理解する。
だが。
誰が聴いたのか、聞かせたのか。
誰が煽ったのか煽られたのか。
そこに真偽や主体があるのかないのか。
真が、嘘が、そもそも存在したのか?
「なぜ」
シスターが青ざめている。
「仮にそうだとして・・・・・・・・・・・・・・・・・・でなくてはいけなかったんです?」
ありもしないモノを見つける。そこまではいい。錯覚と言えばよく聞く話だ。
それが、なぜ、ソレじゃなくてはいけなかった?
『運営を殺せ』
だった理由は?
理屈も筋も弾き飛ばして、皆が『運営黒幕説』見いだしたのは、なぜ。
「そりゃなあ」
ヨイツが頬をポリポリ。
「みんなが探していたから」
ニートが笑った。
「あんな、幽霊好きか?」
ふるふる。シスター達。
「なら、なんで見る?別に好きやない、むしろ怖がりのほうがよく見るやろ」
ふるふる。シスター達。
「暗闇が怖いからや。幽霊より怖いからや」
??????????
「暗いと怖い。なんでやろ?」
見えないから。
「わからない、が一番怖いんですよ」
ニートが笑う。
どれほどの災厄より、いっそ死ぬより怖いもの。
『わからない』
危険?安全?敵?味方?強い?弱い?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――いる?いない?
だから『いる』ことにする。
だから『名前』を付ける。
だから『説明』をはる。
「暗闇より幽霊の方がマシや」
『状況不明』
より。
『運営のテロ』
の方がマシ。
かくして道は定まった。
「一人残らず知っている」
運営。
「つじつまが合う」
つじつまだけは。
「負い目がある」
すくなくとも、運営に責任がないというやつはいない。
だから、誰も庇わない。
「「生贄」」
ニートとヨイツは何でもないことのように肩をすくめた。
あとは勢い。
怒り、恐怖、焦り。
いっそ運営がもっと強圧的なら状況をコントロール出来ただろう。
恐れられてるということは、使い方次第で強制力にもできる。
だがしかし。
まったくその場を見聞きしていない、ニートには見当がつく。
大企業のパターン。
謝罪から入り、ひたすら受け流して、相手が落ち着くのを待つ。
しかる後に・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・彼らは理解していなかった。
自分たちが運営している世界を。
PKが出来る意味を。
そこから出られない恐怖を。
運営の姿勢が情勢を最悪の方向へ加速させた。運営黒幕説が彼らに皆の感情を集め、噴出させた。
「「「「運営を殺せ」」」」
そう聞いた、聞いたと思った、無数のプレイヤー。
だがしかし。
「殺せと言われて殺すのか?」
呟くマルコ。
激昂して殴りかかるならわかる。
気がついたら死んでいたならあり得る。
こ、ろ、せ。
そう聞こえたとしよう。
殺すか?
(おまいう)
と思ったヨイツ。
マルコ達は見ず知らずのフミノを、命じられるままに追ったじゃないか、と。
(乖離してる、か)
値踏みを続けるニート。
『はじまりの暴動』に居合わせたものは、多かれ少なかれ余波を受けたはず。
そこから離れてしまえば、それが自分の行いと感じられないのでは?
ヨイツは黙り、ニートは質す。
「殺してませんでした?」
質問ではない。確認でもない。
『殺してたのを見てないか?』
という尋問。
「殺そうとしていた、と思う」
マルコ達は人波の外周。
つまりは見ていない。
状況を飲み込めずにとりあえず外を目指した。
人波に逆らって。
ようは逃げた。
状況不明なら逃げる。
攻略圏の常識。
攻略圏を目指して活動してきた彼らも自然にパターンが身に染みており、そうした訳だ。
「人波は、向かっていたんですね」
運営に。
運営がいるとおぼしき方向に。
『運営を殺せ』と言われのか、聞こえたのか、聴こえたのか。
マルコも戸惑った表情。
質されるままに思い出している。
実際にマルコ達が、この数日の行動を冷静に『考える』のは初めてだった。
フミノを追うまでは夢中。
フミノに逃げられてからはいろいろありすぎて。
シスターに保護されて、フミノの告白映像を見て、自責の念に駆られ。
考えていなかった。
なぜ?
あの時何をした?
最初は訳が分からないから避難だった。
次に今は何も出来ないから避難に変わった。
何も?
何を?
何故?
あの混乱の最中、何かすべき、と、闘う意識を、持ち始めた。
マルコ達だけじゃない。
「焦燥感が行動を駆り立てる」
ニートが吐き捨てるように言う。愚行を見下ろすように。
混乱したプレイヤー達は混乱したまま走り出した。
何かの衝動に駆られ、それが何かわからぬままに。
「あとはニートはんの手口とおんなじ、ふぎゃ」
ニートに、ではなく、ニートの視線に反応したネコの肉球がヨイツの頭を掴んでいた。




