誰が悪い事にしようか?
空を仰いだ。
不思議だ。
謎だ。
なぜだろう。
なにゆえに、思い通りにならないのか?
「どうしました」
知人の声。
ニートは応えた。
「なかなか上手くいきませんね」
当たり障りなく。
「宗旨替えですか?」
「収支替えです」
粉飾決算?
「なら帳尻は合わせますか」
ニートに問うた知人は意味を違えない。さすがに苦笑気味だが。
「良いじゃないですか」
知人は知人で、いろいろ苦労が多いので、まんざら気休めでもない。
「手を尽くした挙げ句、帳尻しか合わないんですよ」
こぼすニート。
同席した知人は不思議そうな目でみる。
「帳尻が合い、メリットがあるのでしょう」
なら、良いではないか。
と。
ニートは慣れたもの。
世間の無理解は飽きるほど体験しているニート。
そこで異常に気付けという話だが。
だがしかし、ニートは寛大になれる。
邪魔にならない相手にはとても親切だから。
世間にケンカを売るスタイル。
ニートなりの親切で、困惑している知人に落胆の理由を伝える。
「努力して手に入れるモノになんの価値がありますか」
ニートは肩をすくめた。
相手はニートの視界で活動する相手。
どうでもいい相手なら適当に煙に巻く。
だが、知人にはスタンスを知らせて置かないと『手間が増える』と思っている。
「給料30万より拾った500円の方が価値があります」
聞く知人は吹き出した。
相変わらずだ。
ニートは、まったく変わらない。
努力すれば手に入るなんて当たり前。
レジで金を払い品を受け取る。
それに喜ぶ奴が居るか?
コスト無しに手に入れる。
そうでなくては価値がない。
ニートの基本的な発想。
ニートと付き合いがある相手なら、敵も味方も知っている。
賛同する者はいない。
いや、知人自身は見たことがないだけかもしれないが。
ニートの味方は『出た出た』と苦笑。
ニートの敵は『世の中を舐めるな!』と激昂。
「心から信じているんてすね」
知人は笑いながら考える。
自分はニートの味方ではない。敵でもない。
だから、楽しめる。
――――――――――知人は、不思議そうに見返すニートを見た。
珍しく、こちらの意図が読めないんだな、と考える知人。
嘲りでも共感でもない、笑いがあふれる。
ニートは自分の発想を信じていない。
信じるのではなく、自明のことと知っている、と。
『手順を踏めば何でも出来る』
出来るに決まってるから、喜びも驚きもない。
だから、イレギュラーに腹をたてる。
決まりきった結果に至るまで、手間が増えて時間もかかる。
せめて変えてほしい。
微かにでも結果が変わるなら、イレギュラーも楽しめる。
などと考えているニート。
それを楽しんで見る知人。
「我に支点を与えよ」
「されば地球も動かしてみせよう」
合いの手をいれて互いに笑う。
知人は続けた。
笑った理由の、ニートに伝わりやすい、一つ。
「いや、あいつとは合わないわけだ、とね」
ニートが笑った。
確かにクラウンとは合わないと自覚している。
扱い方はわかっているが、役にたたない。
だから、彼が息をしている事が嘆かわしい。
ニートはクラウンを思い出し声を出さずに嘲笑う。
それもまたニートには不愉快だった。
他人を嘲笑して楽しい訳がない。
クラウンが産まれてきているのが残念だ。
とてもとても残念だ。
とまあ、ニートがアレな思索を打ち切り、ホストに向き直った。
「議長」
ギルド『黄金の夜明け』ギルドマスター。
なぜ二人が一緒なのかと言えば、彼が評議会議長だからだ。
なぜ評議会議長が零細ギルド『ネコカフェ』の、たかだか中の中レベルの平凡プレイヤーと差し向かいなのか。
ニートが評議会と敵対したからである。
30分程前。
評議会がある円形劇場に連行されて来たニート。
旧知のエルコレと雑談し、ストレージから取り出したドリンクとツマミで楽しみ。
頭上のネコにドーナツを放り。
ドリンクは南方名物スライムジュース。
ツマミは西方はカマル産ドラゴンの爪揚げ。
「すっげー!ドラゴン出たんか!しかも猟った?」
「カマルから先に進むと群生地があったらしいですよ」
なぜ過去形。
「暇がありゃな~」
といろんな店を冷やかしながら、到着。
「なにをしていたか貴様等~~~~~~~~!!!!!!!!!!」
円形劇場にクラウンがいた。
「お早いお着きで」
「――――――――――」
ニートは呑気に挨拶。
声が出ないクラウン。
何とか声を絞り出す。
「キサマ!!!!あの女をどこに隠した!!!!!!」
「どの女で」
「運営だ!」
「シバタさんならお亡くなりで」
「そいつじゃない!!!」
「どいつで」
「キサマ!」
※繰り返し。
「あれは、五年前の冬、ゆ」
「ちがうちがうちがうちがうちがう!!!!!!!!!!」
ニートに詰め寄り、ネコに威嚇され、周りのギルドメンバーに羽交い締めなクラウン。
ニートのネタ切れとクラウンの脳溢血、どちらが先に訪れる?
だが、残念ながら先に訪れた。
「議長がお呼びです」
訪れたのは盗賊スタイルの女性。この賭けはノーゲームである。
「すぐに、ニートを連れてこい、と」
皆が押し黙る。
調整型で礼儀正しく、温厚な議長、つまりギルド『黄金の夜明け』マスター。
彼が、呼び捨て?呼びつけ?命令?
「ただ今すぐに」
ニートが走り出し、盗賊スタイルの女性が先導する。
クラウンも続いた。
円形劇場の一室。評議会議長執務室(命名、クラウン)。
まあ、観劇用VIP席だ。
オフィシャル設定で防音仕様、しかも外から中は見えない。
ヴァーチャルゲーム『スフィア』。
オフィシャルエントリーとして、芸能人も多数招待されていたからかもしれない。
デス・ゲームが無ければ、この劇場でコンサートも開かれただろう。
「出ていけ」
議長が執務席から立ち上がり、皆に告げた。
ニートはパイプ椅子に座らされている。
「「ハッ!」」
半裸のギリシャ彫刻と女盗賊。
棒を飲んだように敬礼、即座に外へ。
二人に巻き込まれたクラウンも、厳しい顔の議長に気圧されて、逆らえなかった。
パタンと扉が閉じた。
1,2,3,4,5・・・・・。
「しばらく居てくれるよね」
肩をもみながら、議長が椅子に体を沈めた。
ニートもさっさとソファーに。
「評議会はどうしました?」
「会議は終わってたし、早めに帰って貰ったよ」
先にニートを先導、するフリをしたギルド『アルゴ』のメンバー。
ニートがエルコレを待つ間にさっさと走り去ったが、伝令だったのだろう。
「意地悪だよね」
評議会の席上、クラウンに、ひいてはギルド『黄金の夜明け』に大恥をかかせるつもりだったニート。
「意地悪ですな」
エルコレが走らせた伝令、更に、ニートがクラウンで遊んでいる間に、エルコレから事情を確認して手を打った議長。
「まさか、あんな話させる訳にはいかないよ」
「ご本人の希望ですから、なんとも」
クラウン。
評議会の職務中に攻撃を受けた!これは評議会に対する攻撃であり!首謀者のネコカフェは討伐されるべきだ!!!
とやらかすつもりだった。
かってに。
「小学生に安全圏で状態異常回復薬を投げられました」
――――――――――この議案で召集されたら、評議員、有力ギルドのトップがどう思うか。
怒るか、キレるか。
笑ってくれたら幸運だ。
「興味深い議題になったでしょう」
議長は肩をすくめた。
「理屈が通っているから、却下もしたくない」
「だから、譴責を受けた事にする訳ですね」
同じく肩をすくめたニート。
「恩にきるよ」
「アナタとワタシの仲です」
ニートも、議長まで敵に回すつもりはない。
それに評議会そのものを評価していた。
使える、と。
「じゃあ、時間潰そうか。仕事してるからさ、好きにしてて」
アイテムストレージのメニューウィンドウをニートに差し出した。
冒頭に戻る。
だらだらとニートライフなニート。
メッセージをやりとりして、チャットを挟み、仕事を片づける議長。
時々、雑談しながら時間が過ぎる。
緊急コールが響いた。




