≪第七八話≫ その10. No.105
≪第七八話≫ その10. No.105
10日経っても児玉監物は、4回目の攻撃を仕掛けなかった。白根方でも戦評定を開いていたが、殆どの策が監物から発していたので、討議はなく確認する事が中心であった。しかし,今朝の評定は少し様子が異なった。
異論を唱えたのは佐藤忠勝であった。全体的に味方が押しているのに、まだ何を待っているのか?と先方隊・侍大将の佐藤忠勝は、慎重過ぎる軍師の児玉監物に少し腹を立てていた。もう既に対陣してひと月は過ぎている。この前の攻撃ももう一押しすれば、城内に切り込んで行けたはずであった。多少の犠牲は戦の山場を越える時は付きものである。頭で進める戦はもう良いと感じていたのだ。
軍師の監物が、何時もの様に一通り戦談義を述べた後、何か質問はござらぬか?と定例通り尋ねた。佐藤忠勝は、全体を見渡して話した。「軍師殿、次の手立ては如何か?もうソロソロ攻め時と思うが・・・・余り時を過ごすのは良いと思われぬが・・・・味方の勢威も挫けると存ずる!・・・」
と先ずはやんわりと口に出したが、武道一筋の佐藤忠勝から見れば、針の穴を通すやり方は性に合わず、やきもきしている想いを精一杯押さえて反論してみせた。
監物は佐藤忠勝だけでなく、そのような武道派の面々には今までも多く会い、また反発も必ず受けて来た。故に言葉には出さぬが忠勝の様にはっきり物を云うかいなかだけで、其れなりに歯がゆく思っている剝きは良く判っていたし、ソロソロ不平が出始める頃合いである事も知っていた。
「忠勝殿、次の戦が此度の城攻めの明暗を分け申そう。稲島俊高も判っておるであろう。この戦、長びかせたくはないが、必ず物にしなくては成り申さぬ。一先ず、後5日は待ち申す。今、吉田豊則に長者原城の新しい抜け道を探らさせている。最後はここから侵入して城内に火を放つ。さすればあの城、逃げ道を失って、火葬場となるであろう。」
「おお!,それは得たり。ならば入城の先陣は其れが氏が必ず、果たしてしんぜる。!」と佐藤忠勝は、ここぞとばかり力説する。余程、俊高が憎いとみえると周りの諸侯も見詰めていた。
しかし監物は更に冷静に、「されど忠勝殿、以前にも云うたが、あの城、中は仕掛けで罠を張っておる。くれぐれも御用心下され。余程の機会がなければ、突入はいけませぬぞ。」と少し威圧を込めて云い放った。それを聞いていた副大将の佐藤政時が「忠勝、お主の気持ちはよう判るが焦るな。一番手柄はそちの物じゃ。今は監物の策を信じて、今までの怨みを晴らすのだ。わしも、父上の想いが胸にしみておる。」と諌めたので忠勝も治めた。
監物は更に秘策を準備していたが、まだ公表せずに胸に秘めていた。其れは『城崩し』と命名していた物であった。