(七)亀城 籠城戦 Ⅱ≪第七九話≫ その1.No.106 ≪第七九話≫その2. No.107
(七)亀城 籠城戦 Ⅱ
≪第七九話≫ その1. No.106
5月10日、五月晴れの晴れ渡った日であった。これから起こる修羅場など想像が出来ぬほど若葉が黄緑色で嬉しそうに色着いていた。
弥彦連山の四季は、真に美しい。それ程大きな山間でもないのに、四季の彩りは格別である。春の桜、秋の紅葉は云うまでもなく、春先の雪割草・片栗・初夏の紫陽花・紫華鬘・半鐘蔓・秋の撫子・百日草等々、全国有数の自然苑となっている。
平和の時代なら、弘法大師が、親鸞が、又日蓮が其々の足を止めさせた美しさがあり、また芭蕉が俳句を読む景観が幾つも有るのである。更に国上山の一角は、良寛和尚が庵を開いた所でもあった。極めつけは、連山のほぼ中央に日本三大一宮の一つである「弥彦神社」が祀られているのである。この勇壮な神社一画は自然と調和して正に神事人事一体と成っていた。
その中で、二日間に亘って攻防戦が繰り広げられた。城内の物見兵から妙な音が稲島村から聞こえて来ると、俊高に連絡があった。
朝の評定中であったが、直ぐに重臣達と八角楼に登ってみた。確かに山間を低く垂れ染めた朝靄の中にゴロゴロと響く音が里から上って来ている。
皆、固唾を呑んで見詰めていた。そこに身の丈が20尺(凡そ7m)以上はある巨大な木造りの化け物が6頭立ての馬に引かれて、山道を登って来ていた。それも全部で5台であった。それは、児玉監物が名付けた「城崩し」という投石器であった。以前いた事のある関東の職人を白根に呼んで造らせた物である。
中央に鶴の首の様に岩石を飛ばす突き出た部分があり、左右に羽を広げた大きな弓と同じ様なバネが付いている。
外堀に等間隔で5台が並べられた。次に何が起こるかは誰の目にも明らかであった。敵方の4度目の総攻撃が始まった。5台並べられた投石器から、人の頭・2つ分の石が次から次へと飛んで来た。中央の3台は、集中的に亀城の大手門に向けて石が飛ばされた。左右の2台は、亀城の大屋根に向けて攻撃して来た。
半日近く、投石器の攻撃が繰り返された。ドカ~ン ドカ~ンと響く音が城中に振動した。まだ大砲が普及していない時代である。
稲島兵一同は、正に生きた心地がしない有様であった。しかし、第1回目の投石器攻撃は、幾つかの事が幸いして大きな損害を出さずに済んだ。
俊高が、大戦を前に亀城を頑強に改造していた事、白根方の投石器がそれ程大きな岩石を飛ばす事が出来なかった事、また投石する岩石を急いだ為、多く用意出来なかった事等で、昼前には、攻撃が止んだ。それでも、大手門の屋根や壁の一部が壊れて、正門の防備用「壁囲い」と呼んだ板壁が機能出来なくなってしまった。
≪第七九話≫ その2. No.107
暫しの静けさが辺りを覆った。城内で城外突入の待機をしていた俊高以下・120人はその時を待っていた。門を開き、敵正面に突入する!20騎の騎馬隊と40人の長槍隊、それに60人の徒歩組である。徒歩組の内20人は清水寅之助・良高が率いる錬成隊と木島勘平率いる笹川隊40人であった。
亀城の物見台から一斉に荒布に包まれた乾燥蓬の玉に火が付けられ、モクモクと煙を出しながら、城外に投げ込まれた。蓬は良く狼煙に使われた。煙が良く出たのである。これは云わば、味方の突入を援護する煙幕であった。
内堀で待機していた秋葉・白根勢は煙で前方が霞み出した時、亀城の大手門が開き、騎馬隊を先頭に100人以上の稲島軍が一気に突入して来たので、一斉に動揺が走った。先頭は十文字槍を持った笹川常満が片手で槍を竹トンボの様に振り回しながら、大声を発して切り込んで来た。西蒲原地方・随一の猛将である。その威圧感に並みの兵士であれば尻込みをする。その猛将が煙幕の中から躍り出たのである。投石器の攻撃で気を抜いていた最中、敵の猛将が切り込んで来たので正面を守っていた数百の兵が浮き足だった。そこに俊高を始めとする20騎の猛者が間髪を入れず殴りこんで行った。
前衛を守っていた新津・白根勢は半分に分断されて、更に混乱を招いた。20騎の騎馬隊は5頭づつ組と成り、敵の陣中を掻き雑ぜて行く。後から出て来た長槍隊と徒歩組は、敵陣に入ると円形に陣形を取り、敵の真中で時には突き、時には縮んで陣形を維持した。
激しく駒を飛ばしながら、俊高は佐藤忠勝を探していた。その時である。背中に激痛が走った。帷子を通して矢が俊高の背中を射たのである。手綱を強く引いたので、愛馬・春風が驚いて後ろ立ちした。そのまま、ドッと倒れ込んだ俊高に敵兵が一斉に攻撃してきた。その中に兵を掻き分けすざましい形相で大太刀を掲げた佐藤忠勝が迫っていた。
俊高は体勢を立て直して敵兵の様々な攻撃を交していたが、多勢に無勢である。更に乗り込んで来た忠勝と刀を合わせ、睨み合ったが背中の矢のせいで力が出ない。何度か攻撃を凌いだが最後に太刀を落とされてしまった。
そこに清水良高と木島勘平が駆け付けてきてくれた。間一髪の所であった。




