表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/111

(二)夜明けの救出 ≪第五七話≫ No.75 ≪第五八話≫ No.76

(二)夜明けの救出

 ≪第五七話≫    No.75

 俊高はその後、久衛門を待たせ、再び正文達の所に行って暫し話しをした。それが終ると取って返して久衛門と共に亀城に引き返した。

 急遽、中心幹部を招集する。亀城の当主の間に久衛門の他、横山重光・吉田三左衛門が呼ばれて合議となった。久衛門が事の次第を話し其々が対策を述べた。

 重光は「後ろで白根の児玉監物が動いているのは確かなのだな」と久衛門に確認すると「何度も中之口に使いがされていた事は事実でござる。」三左衛門が神妙な面持ちで「常満殿が云う、狙いはお屋形様に有るとは我らを分断してここに押し寄せると云う事にござるか!」

 重光が怒った様に「それ以外にあるまいて!」と吐くと「次は高野家や柿島・草日部両氏をも崩しに掛かるでしょうな!」と久衛門が続いた。「児玉監物とやら、かなり手強(てごわ)い男だな・・・」と重光が唸った。三左衛門が「こちらもこのまま手を(こまね)いていては成りませんぞ。次の手を打たねば・・・・」

 久衛門が俊高に「お屋形様、如何致しまするか?」と顔を向けた。俊高は暫らく宙を睨み、はっきり云い放った。「わしは、常満殿を救出に参る。」「えっ、お屋形様が直々(じきじき)に!?」と三左衛門が跳ねる様に云うと、さすがの佐野久衛門も止めに懸った。

「敵の罠かも知れません。余りにも危険過ぎまする!」重光も「お屋形様!もう暫らく様子を見てからになされよ!」「いや、時を逸してはならぬ。常満殿の命にも関わる事!我ら三人,西福寺にて誓い合ったのだ。志を一つに生死を共にすると!」「しかし、お屋形様が直に赴かなくても宜しゅうのでは・・・・」と三左衛門も反対した。

 「この度の五家の盟約の要であるわしが動かぬでどうしよう! 皆、わしを信じて立ってくれたのだ。命を張る覚悟で盟約を結んだのだ。わしはそれに応えねばなるまい。」

 その言葉を聞いて三人は黙った。いや感服したのだ。当主になりまだ2年ほどだが、我らの御大将は人心の的を得ている。無謀とも思える事だが弱小の国同士の連結が強い絆で結ばれる為には、自ら命懸けで取り組まなければならない。

 己が保身を保つのが常の人であるが、増して戦国の世、自分が一番大事である。この若者の何処から利を越えた信念が湧いてくるのか老齢な三人の重臣たちは改めて我が主君に一目置かざるを得なかった。

≪第五八話≫      No.76

 常満の救出は、極秘に準備された。出動は俊高を始め清水寅之助・高喜とその親衛隊合計20名が騎馬で真夜中に柿島領に向って出発した。

柿島領からギリギリ笹川領に近寄り寝静まった寅の刻(午前3~5時)に決行する計画であった。勿論それは、その後の権坐よりの情報を把握しての行動である。

 夜の野道を飛ばして、一端味方(あじかた)の柿島信政に会い、事情を詳しく説明した後、暫し休憩して再び中之口に向った。幸い小雪は降ったが柿島と笹川の国境まで何事も無く着いた。しかし、ここからが危険である。

 朱鷺の権坐が待ち合せ場所の神明宮(しんめいぐう)神社で待っていた。辺りを警戒しながら、馬から降りた一同に黒い影が4つ近づいて来た。「お屋形様、御待ち申しておりました。」と低く耳元で聞こえる権坐の声がした。

「うむ、異常はない様だな。」「はっ、ここからは私どもがご案内仕る。」「この者達は?」「はっ、私目が雇った忍びの者でござる。」権坐が振り向くと三人は頭を下げた。暗闇で良く顔が見えぬが立ち姿で使える者達だと俊高は視た。

 「浄源寺までを此の人数で行けるのか?」「はい、同じ道ですが、二手に分かれて参りまする。少し遠周りを致しまするが安全な道でございます。」「そうか。夜明け前には間に会うな!?」「はっ,充分に!」「良し判った!」と云って俊高は後の者達に向って話しした。

「良いか、一度だけの機会じゃ.しくじりは許されぬ!万が一、途中にて邪魔が入れば、直ぐに救出を断念する。良いな!」「はっ!!」と全員が小声で返答した。

 権坐を先頭に第一団は、俊高・高喜・忍びの者を含めた12名、第二団は忍びの者二名を先頭に清水寅之介を含めた12名が少し距離を空けて進んだ。冬近い小雪が静かに舞って彼らを包んだ。俊高は走りながら常満の無事を祈り、又敵に見つからず目的地まで着く事も天地に願った。

 権坐の道案内が巧みであったせいか、見事に救出隊は、浄源寺近くの雑木林に着く事が出来た。時は午前4時を回っていたが、未だ夜は真っ暗な闇に包まれていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ