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≪第五五話≫  No.73 ≪第五六話≫ No.74

≪第五五話≫     No.73

 11月の終り、外では冬の到来を思わせる粉雪が舞い始めた亥の刻(午後10時過ぎ)、政務を終えて館に帰還する支度をしていた笹川常満であったが、突然武装した武者達が彼を取囲んだ。

 数人いた周りの者達も、すでに捕えられ身動きが出来ずにいた。「常満殿、騒がれるな!ここは我らが占拠(せんきょ)致した。」と中心核の男が叫んだ。「叔父上!謀反か!」と常満が(にら)んだその男は、父・常行の弟の(ゆき)(さだ)であった。

 「謀反では無いわ!兄・常行の命でも有る。そなたは黙って我らに従うが良いぞ!」「何!父上が命じられたと申すのか?」「そうだ。お前は稲島に(かたよ)り過ぎた!命は取らん。暫らく謹慎しておれば良い‼」「叔父上、父上に会わせてくれ!その旨確めたい。」「問答無用!皆の者、こ奴をひっ立てよ。!」

 あっという間の反乱であった。常満は縛られ、馬に乗せられて夜の雪道を走らせられた。行き先は笹川家の菩提寺(ぼだいじ)である浄源寺(じょうげんじ)であった。(あらかじ)め整えていたのであろう、既に警備の者たちが10人程篝(かがり)()を燃やして待っていた。

 寺の奥にある米蔵の中に、常満は閉じ込められた。そこも既に監禁の為の用意がされており、窓や出口には鉄格子が張り巡らされていた。土間には板張りがされ、中央に二畳の(たたみ)が敷かれていた。恐らく、何日も前に準備していた事は常満にも直ぐに判った。

 「暫らく、ここで我慢致せ。時が来れば解き放ってくれる故」と行貞が云い残して去って行った。常満は暫らく物思いに(ふけ)ったが観念して寝てしまった。

 朝方、小さな物音に気付いて、常満は起された.チリンチリンという鈴の音であった。不思議に思い周りを見渡すと屋根に近い小窓から黒装束の男がこちらを(のぞ)いていた。外に警備の者がいるので迂闊(うかつ)に声を出せない。

じっと睨んでいると(拙者は稲島俊高様の手の者でござる。昨夜より待機致しておりました。)遠くの小さな声なのに、耳元で聞こえて来た。忍びの技である。

 (これより、俊高様にこの旨をお伝え云いたすので、何か申されたい事がござれば声を出さず、口だけを動かして下され。)云わば、(どく)(しん)の術である。(判った。わしを捕えたのは叔父の行貞であるが、父の常行も関与していてその背後に誰かいるようだ。狙いは俊高殿の様だから、慎重に動かれたし・・・と伝えてくれ)(判り申した。早速お伝え致しまする。)と言い残して、朱鷺の権坐は風の様に走り去って行った。

  ≪第五六話≫     No.74

 朱鷺(とき)権坐(ごんざ)は笹川領の中之口から稲島の亀城までの3里(約12Km)を30分程で走り貫いた。忍びの者の力量にもよるが大抵、1日40里(160Km)は走った様である。権坐も40歳に近かったが、良く走った。

 亀城に着いたが、俊高が居らず、家老の佐野久衛門にこの事を伝えた。「ご家老様、昨夜、中之口の常満様が監禁され申した。」「何!!誠か?誰の仕業だ!」「はい、先代の弟である笹川行貞でござる。」「行貞の独断か?」「いえ、常行殿も承知の事の様です。」「三条の斎藤が動いたのか?」

「いえ、白根の児玉監物の差し金と視えまする。白根から何度も使者が遣わされ申した。」「うむ!・・・そうか、で、常満殿は何処に幽閉された?」「はっ、中之口城から移され、笹川家の菩提寺である浄源寺の米蔵にておわします。それとお屋形様に、狙いは俊高殿の様だから、慎重に動かれたしと申されまいた。」

 「良し、判った。わしは直ぐにお屋形様にお知らせ致す。お主は再び戻って更に詳しく調べよ。夜半には戻って来い!良いな」「はっ、(かしこ)まりました.」権坐は再び風の様に消えて行った。

 佐野久衛門は、俊高の行き先を確認して,急ぎ、城を出た。俊高は稲島村の中央に位置していた長者原山の登り口に山を切り開いて鉄工鍛冶工場を造らせていたが、その進み具合を見聞に来ていた。

 2年前、三条に鍛冶職見習いとして、村の者5人を送っていたが、今年の秋口にその内の一人である留吉という職人が、三条から正文(まさふみ)という鍛冶職人を連れて来た。安芸(現在の広島県)の国の出で、戦に会い、家族と流浪する内に、近江の国の刀鍛冶師・長国(ながくに)に師事した男であった。

その後、越前(現在の福井県)で城付きの刀鍛冶師となったが、ここでも当主が戦に負け、流れ流れて越後の国・三条まで来た時、稲島の留吉に出会ったのだ。

 訳を聞き、その内容を長者原城の俊高にまで文を送った。俊高は是非会いたいと返事を送ったので、留吉がこの秋口に家族と共に連れて来ていた。俊高は、この正文(まさふみ)という者の人柄を気に入って留吉と後二人を三条より戻し、すぐさま鉄工鍛冶工場を造らせたのであった。

 佐野久衛門がそこに着いた時、俊高は正文や留吉達と立ち話をしていた折であった。久衛門は俊高に目配せをして他の者達と離れた所で耳打ちした。

「お屋形様、一大事でござる。笹川常満殿が監禁され申した。」「何!」と俊高も声を押さえて返答したが、顔は険しくなっていた。「詳しく申せ!」「はい、先程、権坐が来て(しら)せて参りました。昨夜遅く、中之口城内にて常行殿の弟である行貞が常満殿を拉致し、菩提寺の浄源寺の米蔵に幽閉致した(よし)。今の処、御命には別状無しとの事。ただ常満殿から、狙いは俊高殿の様だから、慎重に動かれたしとの伝言でござった。」

 


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