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第三章  光の戦士(一)反  撃 ≪第五三話≫ No.71 ≪第五四話≫ No.72

第三章  光の戦士

(一)反  撃  

   ≪第五三話≫     No.71

稲島家を中心に五家は互いに盟約を取り交したが、先ずその事始めに要所々々に稲島氏と同じく、物見矢倉と監視所を築き、通信網も互いに強化した。

また、定期な市場を開き、五の市・七の市として其々の産物を自由に販売もさせた。その折、租税として売り上げの5分の一を徴収したので、領国に富が蓄積し出した。

この為、周囲の人々はこの五家を指して、長者原の5人衆として、『長者衆』と呼ぶ様になっていた。

そうした中、いよいよ毒消しの販売が始まったのである。稲島・竹野・平沢の各調合作業場で出来上った薬は、油紙で出来た袋や桐の木箱に入れられ、先ずは三条・長岡の薬商人に卸されて行った。道中、警備の兵士を付け、出来るだけ紛争地帯を避けて運ぶ事にした。

此の当時、病の殆どが腹痛であった。吐き気・下痢などの原因は、飲み水や食物の衛生管理の問題、また野菜・鮮魚などに侵入している寄生虫などにより、腹痛を起こした。毒消しの用途も胃腸薬が中心となった訳だ。現在でも富山の置き薬で有名な「赤ダマ」「熊の()」「反魂(はんこん)(たん)」などは腹薬として良く飲まれている。

それを作って売ったのだから何処でも評判になるのは、当然ではあった。1年後には、上越・信州・関東などにも送られ、さらに2年後には北前船で能登・越前を経て、京の都や関西方面まで出荷されていく事になるのである。

そして、俊高は、悲願の長者原城の増築に着手した。柱を強化し、正門・大屋根・八角楼も一回り大きく頑丈に補強させた。更に内部も様々な防衛用の仕組みを造り、地下蔵を造って武器や兵糧をしっかりと貯蔵させた。

更に外堀を大きくして、敵の侵入を防ぐのに十分な規模となった。以前は外形から駒城と呼ばれたが、完成した新しい城は全体として、頑丈な亀に似ていたので、人々は何時からか『ウミガメ城』又は『亀城』と呼ぶ様になっていた。

亀城(新長者原城の愛称)の増築が始まって一月後の新津・秋葉氏の居城である秋葉山城の一室で、秋葉氏の筆頭家老・大場実(さね)(はる)と白根・佐藤家の次席家老・児玉監物がかなりの時間、密議していた。




≪第五四話≫     No.72

「大場殿、以上が長者5人衆とまで云われている西蒲の国人達が昨今の仕様でございまする。五家を合わせれば、既に御当家に並ぶ勢力になっておりまする。このまま放置致せば、戦力、財力共に我らを遥かに上回って参ろう。」

「児玉殿、お主の狙いはなんじゃ!」「昨年の進攻以来、稲島と草日部までが手を結んだのでござる。この五家が一挙に我が白根に進攻してこれを治めれば一大勢力に成り申そう。そうなれば、御当家も安穏(あんのん)ではありますまい。わしは、五家の切り崩しを計っておりまする。」

「切り崩しとな?・・・どうするのじゃ?」小柄な体を更に曲げて剥げかけた頭をグィと監物の方に(もた)げながら(さね)(はる)は凝視した。

「まず、笹川を狙いまする。」「ほう、笹川をのう・・・」「はい、当主の常満を廃して先代の弟・(ゆき)(さだ)に継承させ申す。」「それが可能か?」「されば、此度の盟約により、新津・秋葉家がこれを憂い、我が佐藤家と合一し先ずは先途の戦を先導した笹川を討つと、先代の常行に脅しを掛け申す。嫡男・常満を廃し、弟の行貞を立てれば、領土を安堵致すと申しまする。更に弟の行貞にも既に手を廻してござる。」

「なるほど、笹川が崩れれば大きな亀裂となるな!」「御意(ぎょい)、更に柿島・高野・稲島にも内部から揺さぶりを掛け申す。」「ほう、それは如何なる事か」「これは極秘の事ゆえ、暫しお待ち下され。必ず、良き結果が生じましょう!」「そうか、ならば、それは楽しみに致そう」・・・・

 ほぼ同じ頃のここは岩室・荒田惣(あらたそう)衛門(えもん)(たつ)()の館。屋敷の縁側で荒田惣衛門は、じっと児玉監物から極秘に届いた文を何度も読み(ふけ)っていた。

『お初に文仕(つかまつ)る。

 岩室に荒田辰実殿ありと、何度も聞き申した。

一度、文を(したた)めたく願っておりました。

さて、身共(みども)の就任以来、この西蒲原の地はこの二年足らずにて、稲島の若将に治められてしまった感がござる。周りの諸将も又同じく視てござる。

 先頃は赤塚の姫が輿入れされた由。さらに居城も大きく土盛り(増築)され、今や下越後に脅威を感ぜざる者なし。

 三条殿(斎藤家)も、新津殿(秋葉家)も(こと)(ほか)憂いて候。

 小計(しょうはか)り、大事(だいじ)(そこ)なうの例え有り。近々異変ありと存ずる。辰実殿は歴戦の勇で在られるのでその辺の見極めを良く、心得ていられると存ずる。

 先ずは、お家の安泰を一義にお考え下されたく願い候。

        児玉監物忠(ただ)(ふみ)    』

 惣衛門は、何度も何度も読み返した。白髪(しらが)(まだら)の頭髪に手をやりながら、(くぼ)んだ眼を()らして文字の後ろにある此の文の意図を探った。

どうやら又戦が始まるなと思い、今度は大戦となる予感がして、武者(むしゃ)(ぶる)えを起した。


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