6.5 仲間の行方
6話についての補充部分なので話は短いです。
捜索開始からおよそ30分後……。それは唐突に舞い込んできた。
泉から少しだけ離れ、明らかに深いなと思う直立した木で月明かりすら届かない針葉樹林群を歩いていたときである。いきなり刻印の部分が痛くなった。しかし、交通事故のときとは違ってヒリヒリする程度。
一体何!?理性はとっさに刻印を読んだ。もはや刻印は交通事故に遭った彼女にとってトラウマになりつつあった。刻印が疼けば必ず何か嫌なことが起こる、とばかりに怯える。
もう、一度死んだのにまだ私を殺す気なのかと勝手に被害妄想しながら憎しみを込めて不満をこぼす。
刻印に書いてあったのは自分に対しての宣告ではなかった。しかも次々と現れては消えるといった情報ラッシュだった。
008
Traffic accident
Completed
Information
003
Warp in a space
Completed
001
Myself
Completed
006
Suddenly
Completed
002
Curse
Completed
………。
載っていたのは自分の仲間のことだった。その他にも同じく刻印のある人の情報もまとめて浮かび上がってくる。
結局みんなこっちに来てしまったのね……。
理性はそのことを喜べばいいのか、悲しめばいいのかわからない。これらのきっかけでみんな死んで異世界に飛ばされたのだから常人なら不幸だと思うだろう。なのに自分は安心感すら覚えている。同じ境遇の仲間が増えたんだ、と喜んでいる。それは他人の不幸を心から笑っているのと何ら変わりないのではないか?
理性は自分を責めた。喜んじゃだめ。これは自分だけで済めば良かったこと。他人の不幸を願うなんてもってのほか、と戒めた。
それに異世界自体、ここひとつだけとは限らない。いくつもあれば彼らがそっちへ送られた可能性だってあり得る。つまり状況はこのままでもおかしくないのだ。
それでも……。別の意味で無事だと分かっただけでも嬉しい。また会えるのかな、と期待して再度刻印を見返す。しかし、次の瞬間、彼女の顔から明るさが消えた。
刻印の情報欄の最後にはこう書かれていた。
Once Dead parson List
008
Only
一度死んだ人間は一人。そう最終行を締めくくった後、刻印の情報はスッと跡形も残さず消えてなくなった。
理性はその情報に愕然とした。
私……だけ?死んだ人間は。嘘……でしょ?理性は刻印を信じられなかった。じゃあ、他の人は生きているってこと?
なら……私の死は何だったの?みんな、生きているのにどうして私だけ一回余分に死を体験しなきゃならなかったの?なぜ死んだ自分を無理矢理生き返らせたの?納得いかない。きっかけがあることはこれで理解した。でも段階に生死が関係ないのはなぜ?疑問がいくつも浮かぶ。でもどれだけ刻印に問いかけても沈黙を返してくるだけだった。
理性は自分の中で仲間とのギャップがさらに深く広がるのを感じた。このギャップはどうしても埋められないだろう。生と死それはあまりに大きな差。死人に口なし、とも呼べる世界だ。
再び不幸を宣告した刻印を睨み付け、彼女は思う。この刻印は一体これから何を示し続けどんな不幸を宣告するのか、と。
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