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前科 交通事故の死神   作者: エントラル
第一章 異世界に順応すること
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7 緒戦の敵と乱入者

作者は戦闘表現が苦手です。(汗)

「人が……どこにもいないってどういうことよ……」


泉を拠点に探し続けて自己感覚で約2時間。粘っても人らしい姿は見えなかった。それどころか肝心の泉すら目印を放棄してひたすらに川沿いをさ迷い歩いている。そのせいで元の世界からそのまま履いてきた靴はボロボロになり、現実ならゴミ箱行き同然になってしまった。


ちなみに泉を放棄したのはもう辺り一帯は完全に森の奥深くであることを知ったから、そして生前の空想小説を読んだ知識……というより古い時代の常識からして川とか水源沿いに必ず人は住んでいる筈と見越したからだ。

この世界の技術ってどのくらいなのだろう?理性は何よりも心配した。江戸時代?産業革命?まさかの神聖ローマ?古過ぎるのはやめて欲しい。カルチャーギャップがどんどん深くなっていく一方だ。カルチャーギャップなんて生前の友人ギャップとは比べ物にならない。というよりは比べるな。


言葉は……日本語で通じるの?そんな簡単に解決できる程現実はケーキのように甘い筈がない。むしろ、ハバネロ級に辛いといえる。カルチャーギャップどころかこれはワールドギャップ……。せっかくの世界公用語の英語も異世界の前には無力。


白庄ももしいたら私以上にワールドショックを受けているだろうな……。古語と英語が取り柄の彼女が先住民相手にボディーランゲージする姿が脳裏に浮かんで吹いた。


理性は自分の額を軽く掌でパチンと叩いて喝を入れた。自分は人にすら会っていない。先住民だろうとなんだろうと言葉が通じる相手と接触しないと。


ふと理性は立ち止まって刻印に目を落とした。自分を死に追いやった奇妙な力。こんな場面で上手く使えるかのか……。藁にもすがる思いでそこに触れてみる。刻印の上に新しく皮膚が覆ったらしく触っても滑らかで痛みも引いていた。しかし何も起こらない。文字列の上のみは。


使えないか……。ガックリと気持ちを落として大鎌の方を指先でつついた。せめて鎌ぐらい出てこいこの役立たず!!怒りを身体に逃げ込んだ大鎌に文句をぶちまけた。


突然刻印が黒々と光り始めた。それは大鎌が自分の中に入り込んだときと同じ光だった。まるで理性の声に反応するかのように見えて驚いた。黒い光は形を変え、大鎌を形づくり彼女の前に完全に現れ、浮かんだ。


「え……」


理性はすんなりと現れたことに呆然とした。こんなに上手くいくの?と同時に使い勝手の良さを疑った。これなら護身用として十分だと思う。


大鎌を握るとひんやりとした金属の冷たさを感じる。同時に凸凹があることに気づいた。最初の時、凸凹はなかったのに……。理性がその部分をよく見ると意味不明な文字が彫られていることを知った。


次に試しに軽く降ってみた。ヒュンと風を切るいい音。初めて持ったときそのままの軽さだ。この長さならリーチもあるし、フラフラな状態になった時の杖代わりに使える。


うん。これなら大丈夫だよね。理性は大鎌の刃がついた方を上にして肩に掛けた。そして姿を水面を鏡として自分を見てみる。大鎌と今身につけている服装で死神っぽい格好だと思った。


白庄が自分が死神らしく見えると酷評するのも頷けるわね……。やつれているとその雰囲気がさらに際立った。骸骨のネックレスがあれば完璧死神に見られる。


よし。余計なこと考えるぐらいなら改めて捜索開始しよっ♪鬼に金棒とばかりに安心して川の下流へ河原沿いを下っていった。しかし、数分後にその安心感が片っ端から無残にも崩れ落ちることになる。


手ぶらでないが心強い大鎌があり、結局深い峡谷にまでは恐怖感を払拭した勢いで進むことが出来た。しかし前の景色を塞ぐゴツゴツとした5mクラスの大岩群の隙間に差し掛かったところで……。


グルルル……。


不意に聴いたことのない動物の唸り声が隠れて見えない向かおうとする方向の死角から聞こえてきた。そのあまりのトーンの低さは理性を驚かした。


何……?今の声……犬?狼?理性は初めて聴くこの世界の動物の唸り声に不安を感じた。ここは異世界。何がいても不思議じゃない。それにここは動物園とは違うから隔てる柵などない。こちらが見たら相手だって自分を発見している。


……ここは避けた方がいいわね。即行で決断した。どこか別の道を探してやり過ごせば問題は解決する。無理して事故したらそれこそ無駄死にだ。それにまだ自分に対して向けられたものすら怪しいので気にする必要もないからそうしよう。


理性は目の前の大岩からどこか代わりに通れる場所を探した。しかしここは深過ぎる峡谷のど真ん中であり、ここを引き返すものならまた森の奥深くに戻される。さらには今のところここしか人の住んでいるところに辿り着く方法がない。おまけにこの大岩群、綺麗に削れていたせいでよじ登れる高さをはるかに超えているし、足場がない。ジャンプしたところで徒労に終わりそうだ。


最悪……。やっぱり引き返すしかないのか。あーあ……あと少しで人に会えるかと思ったのに、と心の中で呟いて後ろを振り返った。そして凍りついてしまう。


目の前に狼の群れが迫っていた。毛皮の色はグレー。北方の方にいるシベリアオオカミに似ている。目の色はグリーンで違う。しかし自分の跡をつけている時点で人喰い狼であるのは明白だった。


群れは戻り道を塞ぐように放射状に広がってこちらを貪欲に獲物を狙う目でじっと見ていた。そしてじわじわと距離を縮めてくる。


冗談……でしょ。いつから私は後をつけられていたの?全く気づけなかった。物音も気配すらも……。理性はただ呆然と立ち尽くしかなかった。


もう逃げ道がない。何度も言うがここは峡谷だ。故に一本道。後ろにも狼らしき声を聞いた。目の前には大群の人喰い狼。完全に挟まれた。しかもこの道を選んだのは自分自身。つまり自分から狼の罠まんまとかかったことになる。


ここで……終わりなの?悪あがきに肩に掛けた大鎌を構える。しかし大群の前には多勢に無勢。振り回したところで意味があるのか?と自分に問いかける。


しかし、相手はこちらに考える余裕を与えなかった。見つかったと悟るや否や一気に全部が理性目掛けて殺到してきたのだ。その数15。


もう……やるしかない!!


理性も狼の群れに向かって走り出した。じっとしていてもやられるだけならいっそのこと悪あがきでもして、死んでやる!!とやけくそに大鎌を振り上げたその時。


グォォォォ……。


また背後から今度は盛大な咆哮が戦場に響き渡った。しかしどこか幼く、弱々しい。それでも理性は仲間かと最初は思い、振り返ろうとした。が、それよりも先に自分と大きさが違わない影が構え直す暇なく脇を通り過ぎ、自分を襲う狼の群れに飛び掛かる。


狼達は突然の乱入者に驚き、足を止めたが、すぐさま迎撃しようとする。そうして自分の前に立ちはだかった乱入者を目にしたとき、理性は絶句した。


人間ではなかった……。乱入者の全身は硬い鱗に覆われ、首が蛇のように長く頭には鋭い角。背中にも棘が何本も等間隔に生え、翼がついている。そして長い尾。紛れもなく伝説の生き物たる竜だった。


本の中でしか見たことのない竜をこの目でしかも近距離で目撃した理性は一瞬その猛々しく美しい姿に心奪われた。美しいのは竜の全身の色が純白であったからだ。


しかしすぐさま冷静に戻る。白竜が乱入したせいで状況がさらに悪化したのは言うまでもない。ただ獲物争いで狼と対峙してくれただけは幸いかな。どちらにしろ、逃げなければやられる。


白竜は狼の群れに向かって威嚇の咆哮をあげてゆっくりと近づく。それに対して狼の群れは怯える鳴き声を返して一歩、また一歩と後ずさる。幼竜だから効果は薄いとたかをくくっていたが絶大だった。


これなら狼を追い払ってくれるし、下流の方へ向かえば大丈夫。良かった……。とホッと胸を撫で下ろし、白竜と狼の群れとの小競り合いに踵を返して岩の隙間を一気に駆け出して抜けようとした。


(だめ!!)


唐突に心の中で少年の叫ぶ声が強くこだまして走ろうとする足を止められた。同時に上からいないと思っていた狼が落ちてきた。理性はとっさにそれを避ける。飛び掛かって仕留め損なった狼達は受け止めるためのクッションもなくそのまま河原の岩や地面に叩きつけられて一部は動かなくなった。残りは血を流しながら立ち上がり、退却したが、入れ替わりに新手が行く手を塞ぐ。


まだこいつら諦めてなかったの!?野生のしぶとさに舌打ちした。やっぱり上手くはいかないのね。理性は今度こそ決断して大鎌の刃を邪魔する彼らに向けた。


理性の前に立ちはだかる相手は3匹。後ろは白竜が足止めしてるからいい。そう呟いて鎌を右手一本に持ち変えて後ろに刃を引いた。


実際緊張した。こんな武器を片手に戦うなんて経験はない。元の世界での紛争についてメディアを通じて知っていたものの、考えはいつも蚊帳の外だった。自分なんて関係ないから……と。しかし、こうして自分が戦場に立たされるとその立場の重さに圧倒された。あれは元の世界の考え方。この世界は自身が戦わなければ生き残れない!!


狼は残虐な目を光らせ、躊躇なくこちらに向かってくる。


対して理性はすう~と息を吐いて呼吸を整えると真剣な表情で走り出した。

すぐに両者の距離が縮んだ。相手が三方向から牙を剥いて襲いかかる中、真っ正面から理性は大鎌を一閃した。狼は迫る刃に気づいたときはすでに遅く地面を蹴っていたため迫る刃を避けられずに突っ込む。しかしどう転んだところで全てを凪ぎ払う前に一匹の攻撃を食らう。


死ね!!


怒りのあまり、心の中で叫んだ。こんな動物ごときに負けてたまるかという意地で黒々と染まった刃を降り下ろした。


すると大鎌自体がまた光った。今度は黒でなく、血のように赤い光。また何かが起こると 直感で悟った。赤い光を帯びた刃は無防備の敵の首筋に向かっていく。理性は首から流血するグロテスクな瞬間を見たくなかったので刃が触れる前に目を閉じようとする。


しかし、刃は狼の体をすり抜けた。その代わりに体の中心を通る際、何かを深く斬り裂いた感触。そして刃は次の相手に向かい、同じものを仕留める。まるで空を切っているようなに抵抗ない感覚。すり抜けるだけなので、一閃したスピードそのままに三匹目まで届いて斬り倒した。


襲ってきた狼達は全て悲鳴すらあげることなく理性の前に落ちた。牙は剥き出し、襲うときの目がひらいたまま、抜け殻のように突っ伏して動きを止めている。


一応、辺りを見渡してまだ敵がいないか確かめる。今の襲撃が切り札なのか物音が止んで静寂さだけが残った。そして倒した相手に近づき、大鎌の柄の先で動かない狼をつついてみる。返事がない。次に気味が悪いが素手でもう一度。体がもう冷たくなってる。


即死だった。しかも一滴の血も流さずに。理性はその力に恐怖を覚えた。あれほどの狼を一撃で倒してしまうなんて……。敵の亡骸を目前にしてそのあっけない力の差にただ立ち竦む。こんなに簡単に終わって良かったのかと奇妙な違和感が自分の中にあった。

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