35 白銀の狼
今回より主人公サイドから一転、他の主軸の人物サイドの話を織り混ぜて話を進めようと思います。by Entral
リーダーが先なんてずるい……。 by 坂追 竜治
順番だよ順番。by 多代崎 翔
「ちっ……またくるか!!」
闇夜に紛れるために黒いマントに身を隠し、ひたすらに白銀の雪が降り積もる針葉樹の森の中を同じく白髪の少年は駆ける。人間とは思えない飛ぶような速さで。その手には漆黒の刃を持つ西洋剣。
「はぁぁぁ―――!!」
耳にほんの微かな風を切る音がした。また、アレが来る音だ。少年は足を止めて振り返り、手にある剣を目の前の何もない空間に振りかざした。それは何の為か、それは……。
直後、元来た道なき道から小さな黒い影が微量の雪を撒き散らしながらこちらを襲う。しかし振りかざした剣がそれを弾き、鈍い金属音を立てた。そして、襲撃に失敗したソレは正体を相手に見せる間も与えずに再び来た方向へ消えていく。
少年はそれを確認すると、また踵を返して走り出す。あんなのに付き合っている場合ではない。油断すれば自分が殺られるのは必至だからだ。今は逃げることに集中。
先日は助けてもらった村の人達の恩返しの為に、害獣イーベルヒルパスとかいう北方の地には場違いなライオンを倒してあげた。だが、それは結局不味いものを引き寄せてしまったな。恩返しのつもりが……自分が去るきっかけになるなんて。
そう村の人々に後ろめたい気持ちを感じながら走る足を止めない少年の名前は多代崎 翔。
再び風を切る音。くそったれ。キリがない。一体相手は何個アレを持っているんだよ!!
心の中でそう悪態をつきながら、また剣で背後の空間を一閃する。そしてさっきの小さな影の攻撃を防ぎ、持ち主の元へと返す。
こちらを襲う小さな影。その正体は漆黒の刃を持つ円月輪。刃はギザギザな形状で障害物を容赦なく切断する。
しかも、相手の投擲武器はただの武器ではない。決定的に違うものがある。攻撃と攻撃の合間の時間が異常に長いのだ。まるで遥か遠くから投げたように。
「流石“遠殺の死神”か。誰かは知らないがこれじゃあ分が悪いな。どうやら向こうは完全にこっちを捕捉してる」
そう。相手は死神であり、自分も同じ。違うのは持っている道具とお互いにある特異能力。少なくとも自分の能力では勝てない。今は。
翔は自分には勝機がないことを悟ると、ある決断をして走っていた足を止める。その勢いで雪が舞い上がり、顔に掛かるが気にしない。
「そうすると……もう戦うしかないのか」
速度がゼロになり、完全に足が止まると今まで逃げてきた方向に向き直る。逃げても追手の攻撃が止む気配はない。それどころか攻撃が多い。恐らくは向こうも死神道具の強化能力で速度を上げてこちらを追いかけているだろう。
今は不利な状況だ。殺られるのはこちら側。だが、距離を詰めてしまえば勝機がある。問題は如何にして相手に近付くか。
翔は暗闇の向こうをじっと凝視し、ゆっくりと木々の間を強化能力で飛ぶように移動しては木陰に隠れる。気配は遠すぎて感じ取ることは不可能だが、ある特性から大体の距離は分かる。
キィィィィン。
じっとしていると自分の耳に何かが共鳴する甲高い耳鳴りのような音が聴こえてくる。
「段々近づいてきたか。やっぱり共鳴音を聴かれたら向こうも警戒するよな」
翔は手に握る漆黒の長剣に目をやり、不機嫌に呟く。音の発する元は彼の長剣から出ている。これは刻印の封印が解かれた道具同士で起こる現象だった。それはまるで仲間を呼ぶように、新たな死を求めるように鳴り響く。そして持っている道具が多い程強くなる。
風切る音と共に鋭利な武器が飛んで来る。今度は威力に加減があり、音が小さかった。さっきまでは距離があったから攻撃方向に予想がつけられたが、共鳴音のせいで分かりにくい。
翔は次の木陰へ飛び移った。その瞬間、今いた場所が飛んで来た道具によって土が抉られる。どうやら物陰に深く隠れると、命中精度が落ちるらしい。これはある意味こちら側にとっては助かる。
そして――――
「はぁっ!!」
次の攻撃がどこから来るのか、耳を立てながら大体の予想地点を予測し、その場所に向かって長剣を傾け、前に突き出す。今度は弾くためではない。
予測通り、木の幹を鋭利な刃で削り取りながらこちらに突っ込んできた円月輪の輪が長剣の刃にスルリと入り、足元を揺らす衝撃と共にその場で止まった。そして、グルグルと刃の上で暴れ回る。まさに絶妙なタイミング。少しでもズレたらこちらに跳ね返ってくるところだ。
「これが向こうの特異能力“遠殺”(*良い感じのネーミングが見つかりませんでした。)か。武器を止めてもまだ回転してやがる」
確かに投擲武器は確かに遠距離攻撃に適しているが、その遠距離の定義は敵が見える範囲での遠距離だ。しかし、この攻撃の遠距離は常識を越える。この明かり一つない森の中で正確に相手を追尾し、仕留める。狙いを外すことは決してない。攻撃を超至近距離で弾かない限りは。これは特異能力によるものだった。
特異能力。それは死神道具それぞれに付加される特殊な能力であり、戦いにおいて切り札に近い重要価値を持つ。しかしその能力は練度が関係しているため、この世界に転移して最初は使えない。何度も使うことによってようやく使えるようになる。
今回の敵の特異能力は遠距離攻撃。狙いの正確さから練度は高い。一度は近付いてみたが、やはり命中精度が低いとはいえ、それでも接近する前にやられそうになる。剣で倒すのは無理。とすると倒すには別の方法が必要だ。
遠距離攻撃は敵にとっては最大の強みとすると……いや、それは違う。ここで翔はそれこそ最大の弱点だということに気付く。注目するのは攻撃範囲ではない。攻撃してそれに失敗した後だ。
「俺の予測が正しければ……」
そう言いながら剣を取り落とさないように細心の注意を払い、空いた手で刻印に強く念じ、そこから黒い霧を出して取り出す。それはこの状況を打開する秘密兵器であり、かなり異質な死神道具だった。
中から出てきたのは掌サイズの黒曜石の塊。その艶やかな表面を渾身の力を込めて擦る。すると石の砕ける音と共に割れ、更に小さな欠片が生まれた。
そして、翔は塊だけをまた刻印に戻すと残った黒曜石の欠片をチェーンソーのように回転を続ける円月輪の刃の上に落とす。普通の物ならすぐ刃に弾かれ砕け散るが、黒曜石の欠片は止まっている的に刺さるダーツのように回転する刃に張り付いた。
この死神道具の能力その壱は吸着。あらゆる物に張り付く能力。死神道具全てが持つ即死攻撃はお互いにぶつけると効果は相殺されるが、固有の特異能力はその限りではない。
「これでもくらえ!!」
翔は叫び、剣を振り下ろして拘束していた死神道具を解放した。解放された円月輪は一度至近距離で弾かれ、攻撃を失敗したので軌道はこちらには向かず持ち主の元へと帰っていく。
ここからが勝負だ。木々を半ば薙ぎ倒す威力を撒き散らしながらもう一つの円月輪がこちらに向かってくる。さっきまで仕掛けた円月輪に集中していたため、こちらは捕まえるような芸当は出来ない。
15秒、16秒、17秒……。
頭の中で時間を数えながら剣を一閃させて、目前に迫った円月輪の攻撃を弾く。一度でも数え間違えれば相手を倒せることは不可能だ。
これは攻撃してくる円月輪の数を3と仮定し、一つの円月輪が持ち主に戻ってからこちらへ再攻撃する時間を数え、それを2で割った秒数までのカウントである。襲撃される際、いくつ円月輪を持っているかを黒曜石の欠片を用いて計算しながら逃走していたが、どうやら攻撃に一定の周期があるらしい。
だから、攻撃時間の約半分手前プラス再投(*再び投げるという意味)する時間をイメージして計算すれば、そして円月輪を投げ方が普通なら……相手を倒せる筈。
到達まで3、2、1……今!!
しかし、3つ目の円月輪がすぐそこまでに迫る。被弾まで4、3、2……。黒曜石の能力発動をしたら間違いなくあれを避けるのは難しい。だが……。
「当たれ―――!!」
静寂な森の中で翔は白髪を振り乱し、思わず叫ぶ。万に一つの可能性と勝機。それを逃す訳にはいかない。
弾けろ!!
翔は心の中で強く念じる。それが能力発動のトリガー。
直後、深い森の中から大地を震わせるような爆発音が響き渡った。しかし同時に3つ目の円月輪が最後の悪あがきとばかりに自分の間合いに入ってくる。剣で弾こうとするが間に合わない。
くっ……ここまでか。
自分に迫る円月輪を睨み付け、自分の胸の前で……消えた。
「!?」
突然の消滅に翔は目を疑った。その場にしばし立ち竦み、自分の目の前と敵がいる場所に交互に目をやる。
自分が逃げてきた方向からは黒煙が色濃く空に立ち登っていた。黒曜石の第弐能力、分散。簡単に言えば爆弾に変わること。欠片の威力は少しの量で爆発力があるニトログリセリンみたいなもの。塊でやったらどうなるか、考えるだけで恐ろしい。
翔は自分の右掌に刻まれた刻印に目をやった。
001
Myself
Completed
Information
Break 4 → 6
討伐人数の変化。それは相手を倒した証拠であり、この戦闘の終結を示していた。
35.5話に続く。
更新時刻:1月 16日 AM 8:00
白銀の狼って……。by 多代崎 翔




