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前科 交通事故の死神   作者: エントラル
第3章 旅路
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33 追及と矛盾

情報屋のことは次話で詳しく書くつもりです。今回は理性の反応がメイン。しかし話が興ざめにならないような仕様にはしてあります。割愛という手もありましたが結局入れました。

理性は衝撃の事実に驚いた。確かにこれまでの口調から情報屋の人間だとほのめかすような発言を聞いているので疑ってはいたが、まさか本当にそうだとは信じがたい。


「……信じられない」


この複雑かつ厳重な情報屋の入り方を知っている時点でもう黒だと分かっている。それでも事実を否定しようとする自分がいた。


「受け入れられないのは無理もないよ。でもこれが事実なんだ」


ラウネンは老人と向き合ったまま、ちらりとこちらに視線を向けて言う。だがその言い方はどこか暗い。


「で、取り込み中すまないが今日は何用でここに来た?」


理性はラウネンに抗議しようとした。が、その前に老人は二人の話が発展する前に自分の要件を先に終わらせたいのか、割り込んでラウネンに唐突に尋ねた。親しいと理性はさっき思ったが、少しだけ相手の黒い瞳には警戒の色が見える。


「ちょっと調べものがあってここを使う。それも重要事項だ」


ラウネンはグロンザの冷めた視線に動じることなく毅然とした態度で返答する。歳がかなり離れているのに何故か立場は対等に見えた。


「ほう……重要事項とは?そして……」


老人は空いた手で理性を指差して更に疑いの目を強めた。


「お前のその後ろにいる少女は何者だ?お前がいるということは彼女が秘密を守れると見込んでのことだが、一応聞いておく」


理性はラウネンに向けられた問いに対して不安になった。個人情報すら取引に使われるのはオルフ村にいた際、彼から聞いている。ここで真実を言わなければ向こうからは彼は裏切り者と同じだ。


理性自信は異世界転移者。これ程貴重な情報などない。明かされれば一から百まで質問攻めにされるどころか……。


「彼女は僕の親戚です」


ラウネンは考える素振りもなく、さらりとグロンザの質問に即答する。


えっ……!?


理性は思わず声に出しそうになったが、ここは修羅場ということで感情は押し込めて動揺に耐えた。


「親戚……か。お前からそんな言葉が飛び出すなんて意外だが……。それを証明するものがあるのだな?」


「ええ、ここに……」


そう言い、彼は茶色い上着の内ポケットから皺だらけの羊皮紙一枚を取り出し老人に手渡す。理性には始めて目にする代物だった。旅に出てから一度もそんな紙を見た覚えがない。


「ふむ……」


老人は手に持っていた本を近くの本棚の本の列上に置き、渡された羊皮紙に目を通した。自分の目からは遠くで見えないが、証明できる物……住民登録簿だろうか?


もし、そうであるならばラウネンの明かした情報は完全なる虚偽情報である。だから看破されれば一気に崖っぷちに立たされるのは目に見えていた。自身も緊張しているがそれは彼も同じはず。


いきなり訪れた緊迫した時間は数十秒。だがそれは長く感じた。そして確認が終わったグロンザから、認証結果が告げられる。


「住民登録簿は本物と断定した。よかろう、お前の同伴の元彼女の滞在を許可する。それで……」


ラウネンに書類を返し、次の質問を投げ掛ける。


「重要事項……ですね」


彼は老人の言葉を繋いだ。グロンザは頷き、尋ねる。


「内容は?」


重要事項は理性にも理解出来た。それは一つしかない。ラウネンは意を決して告げる。


「我が故郷、オルフ村は消滅しました」


この事実に老人は更に顔をしかめた。驚いてはいるだろうが、それを表には出さない。目だけが唯一動揺を見せていた。


「それは本当の情報か?」


「事実です。僕がこの目で確かに……」


ラウネンは言葉を最後まで口にすることはしなかった。いや、できなかったのだ。村の壊滅した惨状を思い出したからだろう。声が苦しそうだった。


「そうか……」


やや間があって向こうは重々しく呟く。受け入れられない、と言いたげだった。やはり一回で理解できる方が無理があるだろう。


「私は今すぐ執務室でその情報を今日の報告書に追加してくる。これについては証拠はなくても証言と証人さえいれば十分だろう。あと詳細は君の用事が済んでから教えてくれ」


グロンザは二人に背中を向けると棚に預けていた本を再び手にとり、静かに言うと本棚の続く長い通路の中へと歩き去ってしまう。本棚の角を曲がり、その姿は消えた。重大な事態のため様子はあわただしい。


「私にどうして情報屋のことを隠していたの?」


危機が去ってから理性は半ば怒りを込めて抑え声で背を向けたままの彼に尋ねた。言葉にはしなかったが、故郷を失ってもなぜそのことを今まで自分に黙っていたのか、理解ができなかった。


「……」


彼は振り向くこともせず、沈黙する。答えることが出来ない。狼狽えた表情がそれを物語っている。自分の問いから逃げるように……目をそらしてしまう。


「そこまでして隠す理由があったの?居場所を失っても」


彼は沈黙する。顔色が悪くなっていき、表情が歪む。


「まさか……本当は私から情報を引き出すために素性を隠していたの?親しく接してくれたのも……」


理性は彼のもう一つの素性を知ったことによって不安になった。自分は出来る限り異世界転移者ということ以外は素性を隠しているつもりだ。だが彼が情報屋の一員である以上、密かに第三者に知られている可能性は否定出来ない。もし、仮に知られていなかったとしてもこれから知られるかもしれない。


だから不信感が募り、段々と理性のブルーの目が細くなって警戒するような視線に変わった。そして被害妄想は膨らんでいく。彼は自分を騙し……。


「……違う」


目をきつく閉じ、絞り出すような苦しい口調でラウネンは激しく首を横に振る。声は震えていた。


「じゃあどうして……?」


納得のいく理由が欲しい。理性はそれだけだった。そうしなければならない理由が。だが彼の口から出た答えは全くそんな複雑なものではなく純粋なものだった。


「ただ……怖かったんだ」


理性はその答えにハッとして糾弾の言葉が止まった。意図的なものではない、純粋な素性を明かすことに対する恐怖。そして自分も抱えているもの。


「本当は明かしたかった。でも……君にこのことを明かしたら僕を避けてしまうんじゃないか、帰る場所もない僕を置いて何処かへ行ってしまうんじゃないかって思うとどうしても言えなかった。独りぼっちにはなりたくないってね」


「……」


理性は彼の話を静かに聞いた。あまりに自分の持つ恐怖と全く同じだから。さっきまで彼に向けられていた糾弾が今度は自分に跳ね返されていた。


「今まで隠してごめん。でも君を助けたいっていう思いは本物だ。異世界から迷い込んで途方に暮れるところから、少しでも先に進めるように力になりたかった。だからこそ……グロンザに君の名前を書き入れた本物の住民記録簿を渡した。村が滅亡した今となっては紙切れ同然の価値で、完全な罪滅ぼしにはならないけど……」


自分はラウネンを責めることは出来ない。現に自分だって彼に隠している。一瞬にして命を奪うことのできる死神のような存在であることを。それを隠す理由は彼と同じ、怖いから。そして、彼を異世界転移者同士の争いから守りたいから。


「ラウネン……」


理性の声に彼はピクッと緊張するように反応した。さっきからの理性の態度と彼自身が秘密にしていたことに対する罪悪感から、然るべき罰を受け入れようとする意図が見て取れる。しかし、ラウネンの予期していたことは起こらなかった。


「謝らなくていいわ」


「え……どうして……?」


訳が分からずラウネンはこちらを振り返り、聞き返した。


「今私は何もされていない。それどころかここでも助けてもらってる。何の被害も受けていないのに、咎める必要なんてある?」


理性は怒っていないとアピールする為に表情と口調を和らげた。少し前の攻撃的な一面とは真反対の理性的に振る舞う。


「でも……」


「いいの。むしろこっちが感謝したいわ。結果的にはそれが私にもいい方向に働いたから。どうやらさっきの会話から察するに情報屋に入れるのはここの関係者だけらしいし」


彼は更に何か言おうとするが、理性はその言葉を遮った。これ以上彼を責める必要も彼が謝る必要はない。自分は……ラウネンよりも重い罪を背負っているのだから。


「うん……。それも隠してたことだけど……ここまで来ると理由は分かるよね?」


「分かるわ。あからさまに」


グロンザとの会話以前に情報屋に入るまでの道のりで薄々気付いていた。あんな厳重なセキュリティなら誰だって疑う。これが本当に普通の平民が訪れるのだろうか?と。


「そうだよね……、うん」


ここでやや間が空く。ラウネンはこの中途半端になった空気からどう話せばいいのか、口をつぐんで黙ってしまう。それは緊迫した時間が終わったことを意味していた。理性はそれだけで安心する。


「じゃあ……改めてこれからもよろしく。迷惑をかけるかもしれないけど……」


理性はこれ以上彼のことについて議論する必要はないと判断し、右手を差し出しここで現話題にピリオドを打つことにした。そして会話に行き詰った彼に助け舟を出すためにも。


「うん……。よろしくね」


彼は彼女の差し出された右手に自分のものを重ねる。だが彼の手の力には躊躇いがあり、またそれでもすがりたい。そんな思いが籠っているように感じた。


「じゃあ検索を始めよう、ラウネン。この中は貴方が頼りだから……」


重い話題を終えたところで理性は本題を切り出した。この会話の間にグロンザが戻って来なかったことが奇跡だろう。だが、今はその安心感に浸っている場合ではない。この膨大な国立図書館クラスの情報屋の中から多代崎達メンバーの消息についての情報を集めなければならないのだから。しかも今日は夜更けまでの短い時間の間に。


「いいよ。この情報屋がどれだけ凄いのか、見せてあげる」


彼の暗い表情に光が差した。エメラルドグリーンの瞳に輝きが戻り、目の前の本棚に勝負を挑むような目つきに変わるとその情報を満載した本棚の迷路の中に足を踏み入れていく。


理性はその後に続く。ただ、彼女の心は嬉しい反面、不安もあった。自分の隠している秘密はいつか彼と同じように明かさなければならない。自らが”死神”であること、そして自分のせいで彼の故郷が滅亡し、村の人々を死なせてしまったこと何もかもを話したときに彼は私を見て何を思うのだろうか?今回のように穏やかに終わるのだろうか?胸の内に秘めた不安はますます広がった。


そして……。


理性はポケットから何回も折られた小さな羊皮紙を出して彼に見つからないようにそっと開いた。それはスクレーンから、情報屋に行けない代わりに調べてきて欲しいと頼まれた情報のリストだった。


あなたもそうでしょ?スクレーン。


メモにはこう書かれていた。



・竜討伐記録

・竜目撃記録

・魔法士全世界配置図、又は魔法士管轄地域一覧



Another Episode : 執筆の際に出てきたもう一つの展開。要は没展開。


(前文)……彼に助け舟を出すためにも。


「迷惑を掛けたっていいよ。だって……一緒に居たいから」


一緒に……居たい!?


理性は元の世界では高校生である。恋とはいかなるものかを知っているし、恋に対してはかなり敏感に反応する時期だ。だからラウネンのその言葉は本人が純粋な仲間意識としての願いとしてのものだとしても、受け手の理性には一種の告白のように聞こえた。


「えっ……!?」


理性が一気に顔が真っ赤に染まりかけているのが見えていないのか、彼は差し出された右手に自分のものを躊躇なく重ねた。何故か別の意味で緊張してしまった。


「これからもよろしく」


「あっ……。うっ……うん」


理性は知っていても心が熱くなってしまった。


感想、意見があれば出来るかぎりお答えします。

次回更新は未定。


この三人の中で先発は誰かしら? by 荒杉 理性

ストーリー展開からして俺とかァ? by 坂追 竜治

NO、この個性的キャラのmeよ!! by Hakusyou 天海

これ、前にもやったような気がする…… by 多代崎 翔

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