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前科 交通事故の死神   作者: エントラル
第2章 物語はゆっくりと動き出す
27/54

23 罪は消えない

作者は戦闘描写が苦手です。


描写は実際にやってみないと分からないよ。まぁこの世界だと実際には危ないけど by 荒杉 理性

「なら、都合良く勝たせてもらうわ!!」


理性は大鎌を片手に力を借りて一気に有雪に詰め寄り、本気の一撃を見舞った。前回とは比較にならない早さで、普通の人間ならばまず避けられない一撃。しかし、相手はそれをやすやすと攻撃をかわす。


「死神の力があることを忘れるなよ」


一撃をかわして一時的に距離を置いた敵は分かりきったことをおさらいのつもりなのか自分に言ってきた。理性には、それが甘く見られていると捉え、更に怒りを増幅させる。


「それくらい知ってるわ。黙れ!!」


今の一撃を回避出来た。なら向こうに見える攻撃は通用しない。理性は必死に勝てる方法を頭の中で考える。


「なら、今度はこっちのターンだ!!」


有雪はナイフを構えて突進してきた。足を使わず、超人的なジャンプによるもの。そして刃の先をこちらに向ける文字どおりシンプルな戦法。


あれならかわせる。理性は前回のように大鎌を振りかぶって彼が数秒後に到達する未来位置にタイミングを合わせ、そこを一閃しようとした。物理的には向こうが跳んでいる以上、この迎撃を止めるのは不可能なはずだった。


しかし、その当たり前と思っていた法則と確信がいきなり崩された。何故なら大鎌の刃が向こうに当たる寸前に身体が狙っていた未来位置から消え、そこから少し上、大鎌を一閃する軌道から外れた位置に移動したからだ。


「……!!」


自分の驚愕する表情に敵はニヤリとその不甲斐なさを嘲笑う。


理性が一閃した間には大きな間合いが生まれた。それを察知して大鎌を急いで引き戻そうとしたが、間に合わない。


「これが実力の差だ!!」


有雪は叫び、ナイフを理性に向けて突き刺した。だが、彼も爪が甘いのか理性のとっさの回避で頭を傾けてよけたせいでナイフの狙いが狂い彼女の頬に傷をつけただけに留まった。


理性は彼がいる方向にすぐに振り返り、警戒を緩めない。頬に手を触れると切られた部分から赤い血が流れていて、痛みを感じた。


「ちっ……外したか。まぁ、その反応から見るにまだ初心者みたいだなァ」


血がついたナイフを軽く降りながら悪態をついて再び構え直す。どうやら今の一撃は小手調べらしい。


でも……。


「そういうあんただって刃の先が迷っているわ。私を倒せるなら何故そんなに時間を掛けたの?あのときに倒せば良かったはず」


「同じ死神同士、下調べが重要でね。ちゃんと知っておかないと駄目なんだよ」


有雪の表情がやや動揺し、自分に向かって次の質問を言わせるつもりのない連続攻撃を繰り出した。理性はそれを勘と目測でかろうじて避ける。


「つまり、私も死神ってこと?」


大鎌で胸を狙ってきたナイフを弾く。


「その通り。……いや、自覚しろ!!」


今度は空いた腕からの拳が飛んできたのでそれを武器の強化能力を借りて掌で受けとめ、カウンター。しかし当たらない。


やっぱり相手は何か知っている。しかも死神同士とか言ってるということは……。


「あんた、他の異世界転移者と戦ったことがあるって訳?」


距離が開いたのを見計らって大鎌のリーチを生かして攻めに転じる。接近戦はやはり不利だった。


「その通り。そして……そいつを殺した」


「死神は死なないのが前提じゃなかったの?」


一般常識を引き出して相手に尋ねた。もちろんお互いに武器を打ち合いながら。


「この世界では死神は死ぬらしい」


両者は再び距離をとって向かい合った。


「あんた、質問に何気なく答えてるじゃない」


「基礎知識だよ。無知な理性の為のね」


下の名前を呼ばれたことに憤り、鎌を握る手に力が入った。殺戮を行った犯人にそう呼ばれるのは屈辱的だった。


「気安く私の名前を呼ぶな!!」


理性は叫んだ。今の打ち合いからして力加減されているのは目に見えている。だから焦りを感じる。全力を出しているのに向こうは余裕だから。


相手の情報は貴重だが明かされる度に自分が動揺してしまう。様々な意味から。


だからここからは一切無言で戦いに集中することにした。


その後五分間打ち合いは続いた。どちらも決定打のないまま。ラウネンもまだ気絶したきり動かなかった。


「ハァ……ハァ……」


時間が経つにつれて自分の体力と精神に限界が迫ってきた。武器の力に頼っていても本来の体力と精神は強化されなかった。あくまで身体能力の強化だけだ。


それに……ラウネンを早く助けないと……。自分には時間がない。


「おい、まさかもう限界とかって言わないよな」


「……」


対して有雪はまだ息を切らさずにケロッとしてまだ余裕が残っているようだった。


「あーあ退屈だな。そろそろ決着をつけるか。意外と弱いし」


失望したようにそう言うと、ナイフを持ったまま目を閉じて何かを念じ始めた。口先ではブツブツと意味を持たない言葉が聞こえてくる。


「αλολκμηλ……」


理性は何か嫌な予感を感じ、それを阻止しようと動きを止めた有雪に向かって駆け出した。今までとオーラが違った。家が目の前で焼け落ちる光景が加わると尚更に。


させるか!!大鎌の力を最大限まで出して間合いを詰めて彼の肩を狙って振り下ろした。あの状態ならこっちの軌道は見えない。だから当たる。


消えろ!!


だが、その直前に有雪の身体が透け、姿が唐突に消失した。理性の一撃は完全に空を切って不発に終わる。


「なっ……!!」


消えた!?目標を失い、辺りを見回す。しかしどこにも有雪の姿がない。不安と焦りが交錯して冷や汗が頬を流れ、傷に滲みる。


おかしい……。この大鎌なら何でも貫通して相手を絶命させるはずなのに……。


「終わりだよ、理性」


視界にはラウネンと自分しか見えない炎上する家の敷地の中で消えた存在の声が響く。声が反響するせいでどこにいるのか分からない。


バン!!バン!!


突如銃声が鳴り響き、身体に激痛が走って倒れそうになる。


なっ……どこ……から?


理性は自分の身体を見下ろした。そこには自分の青い服を二つの穴が空いていた。一つは腹部に、もう一つは心臓から僅かに外れた肩口に命中し貫通していた。手で触れると、自然と赤い血がジワジワと溢れ出した。


身体をくの字に曲げて背後を振り返る。険しい目で向けるとそこには一瞬前までいなかった場所に有雪が黒いマグナム型の拳銃を向けて立っていた。銃口からは煙が立ち上っている。


「最初に言っただろう。俺は“消える”を司る死神だと」


そ……んな。痛みに足が耐えられずうつ伏せに地面に崩れ落ち、青い髪が背中に広がった。しかし、執念で大鎌を手放すことはしなかったが。


「くっ……」


理性はそれでも立ち上がろうとする。自分が倒れたらラウネンを救えない。だからこんなことで倒れる訳にはいかない。


でもそこに現実がのしかかってきて、背中を有雪の靴が非情に踏みつけてくる。


「残念だったな。所詮は死神の最低ランクの少女かよ。失望した」


残念そうに言い、ため息を吐いた。そして拳銃の銃口を理性の頭に向ける。


「他の異世界転移者を倒したってことはすなわち武器は二つあるんだよ。だからナイフ一つ失ったくらいで戦力が落ちる訳じゃない」

解説のつもりなのか理性に余裕の笑みで答えを続けた。その間に家の屋根が焼け落ちて不気味な音を立てた。


「それがもう一つの死神道具であるこの拳銃。お前は気づいていると思ってたけど……違ったか」


拳銃をくるくる回して自慢気に話した。


ラウネンには銃口を向けた。しかし殺してはいない。つまり自分が鹿に刃を向けたときみたいに何らかのトリガーがあるのか……。


「さっきの……能力は……」


「あれは死ぬ寸前のあんたでもノーコメントだ。まぁ姿隠して村のあちこちに爆薬を仕掛けたのが今回の使い道かな。これでも理系専攻の高二を甘く見るなよ」


潔くネタバレする彼の話を聞いているときに密かに大鎌で反撃しようと企んでいたが、寸前に持っている腕を片足で踏まれた。


「おっと。そう簡単には反撃させないよ。それにもうお話は終わりだ。二度目の死を味わえ!!」


有雪は躊躇うことなく理性の頭に向けて弾丸を発射した。


もう……駄目なのね。


理性は心が折れ、目をきつく閉じた。交通事故以来の二度目の死を覚悟した。


「なっ……嘘だろ……ぐぁ!!」


ブンッ!!ドカッ!!


鈍い何かが頭上を横切り、何かを跳ね上げて吹き飛ばした音。そして直後に理性の上に大きな影が落ちた。


なっ……何!?


理性は堅く閉じた目を開けて細目で頭上に降りた影の正体を見上げた。そしてその正体に驚愕した。


さっきまでいた有雪を吹き飛ばし、代わりにそこにいたのは幼い白竜だった。飛べない翼を広げて自分を守るように立ちはだかっている。こちらを見下ろすその瞳の色は血のような緋色。


「ラウェンド……?」


思いもよらない助っすけったに理性は失血に意識を奪われながらその名前を呼んだ。


(理性……大丈夫?)


ラウェンドは絞るような悲痛な声で自分に話しかけてきた。口では話さない心の声。理性には深く響いた。


(それよりも……あいつを倒さないと……)


理性は唇から赤い血を流しながらラウェンドに声を出した。そして無言の了解のうち、白竜は吹き飛ばされた男に首を回した。


「チッ……。一番重要なタイミングで竜が乱入とか卑怯だろ。まぁ気付かないだけで正面からやり合うなら問題ないけど」


有雪は地面に頭から叩きつけられて頭から出血していた。しかし執念からか手から離れた拳銃を探すが、見つからない。だが、それでも余裕は崩れない。またあの能力を使えば……。


「竜だって所詮生き物だ。死神じゃない。だから無駄なんだよ、獣め!!」


立ち上がると手元に残った漆黒のナイフを持ち、また意味不明な暗唱をするとまた姿が消えた。


(ラウェンド、気をつけて!!)


理性は地面に転がっていた拳銃を密かに拾い上げながら白竜に叫んだ。竜だとしても貫通能力が適用する限り危険だった。


しかし、白竜は無言で理性を離れて誰もいない場所に向かって走り出して鉤爪で暗闇を切り裂いた。そこには誰もいないはずだった。


「ぐぁ!!」


しかしそこから男の悲鳴が聞こえ、ドシャッ!!という地面に叩きつけられた衝撃音を立てて自分の傍にいきなりクレーターが出現したかと思うと透明になっていた有雪の姿が浮かび上がった。


「ちくしょう……どうして俺の姿が見えるんだよ……。ちゃんと姿を隠したはずだぞ」


悪態をつきながら有雪はそれでも立ち上がろうとする。服装も身体も鉤爪で切り裂かれて自分より酷い有り様だった。


「そうか……ラウネンを人質にとれば」


「待ちなさい」


彼が振り向くとすぐそこには理性が地面に這いつくばりながら無くした黒い拳銃の銃口を自分に向けていた。指は引き金に添えてあっていつでも撃てる状態。


形勢逆転だった。


有雪は恐怖のあまり後ろに下がろうとするがそこには白竜が牙を出して鉤爪を振り上げて待ち構えていた。痛みが身体の動きを制限してまともに相対出来ない。


「ちょっ……ちょっと待てよ。俺を殺すのか?俺が罪を犯したのは間違いないが、それは完全な殺人だぞ。出来るのか?」



理性に思い留まろうと言葉を掛けるが、有雪の言い逃れの姿に理性はフッと笑った。それは本物の死神が命を刈り取るように。


「私は前科交通事故にあって一度死んでいるわ。非業の死を遂げた死者に失うものなんてない」


冷たく言い放ち、理性は引き金を引いた。


「やめてくれ――――!!」


バン!!バン!!バン!!


銃声が彼の悲鳴をかき消した。


急所を撃ち、交通事故加害者有雪仁志は被害者荒杉理性によって復讐された。

23.5話に続きます。


さて問題。私、多代崎、坂追のうち先に出てくるのは誰でしょうか? by 白庄 天海

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