23.5 敗者の遺言
今回で第2章は終わりです。そして大学の夏休みも今日で終わりです。
「ちく……しょう。あと少しで……」
急所を撃たれても彼は虫の息で生きていた。
しかしもう動けないようにナイフは取り上げて身体はラウェンドの前足に押さえつけておいた。
(理性……酷い怪我だよ……。手当てしないと……)
ラウェンドは心配そうに声を掛けながら辺りを見回して何かないか探すが、全てが焼け落ちて何も残っていなかった。
「大丈夫……だよ」
理性は震える足で立ち上がり、ラウェンドの脇腹に寄りかかった。腹部と肩からの出血が酷い。そのうち失血で意識を失うだろう。それでも痛む手で白竜の顎の下を掻いた。教科書なら逆鱗に触れると殺されるが、ラウェンドはそれを許した。
(ありがとう、ラウェンド……。貴方がいなかったら私は……)
ラウェンドの低い唸り声が言葉をかき消した。
(今だって瀕死なんだよ。まだ助かってない……)
緋色の目を理性に向けて言う。幼竜なのに精神は自分と同じに思えた。
「まだ……勝った気でいるなよお前……」
白竜の前足の下で有雪は負け惜しみのようにパクパクと口を動かした。まるで死ぬ寸前の遺言のようだった。
「遺言なら……聞いてあげるわ……」
同じく虫の息で理性は話しかけた。
「俺ら……みたいな死神は……まだこの世界にいくら……でもいるぞ」
「どういう……こと?」
男はニヤリと何か意味を込めて言う。
「この……殺し合いは世界中で……起きているのさ……」
「何の……意味があるの?」
理性は深い闇に頭を突っ込んだように震える声で呟いた。
「さあな……。俺は……知らねえ」
有雪の息が段々と浅くなってきた。意識が冥界に飛ばされる瞬間だと理性は悟る。
「貴方の武器は……貰っていくわ。二度とこんなことが……起きないように」
「持ってけ。それがルールだよ。俺の死でお前のものだ」
面倒くさそうに言う。
理性は漆黒の拳銃、ナイフ、大鎌を持った。刻印に封じる為に。
「貴方……何を願ってここに来たの?」
この男の刻印にはwishという原因が引き金だと書かれている。しかし、内容を知らない。だから知りたかった。
「全ての自由……だ」
そして理性に向けて今度は不気味な笑みを向けた。
「せいぜい……苦しめ。死……神に」
それを最後に有雪仁志の息が止まり、死亡が確定した。そして同時に手元のナイフと拳銃に刻まれた刻印が変化した。自分の刻印にゆっくりと歪むように。そして情報が追加された。
008
Traffic accident
Completed
Information
Break 2
二人。自分と同じように巻き込まれ、そして死んだ人数。殺し合いは続く……。有雪の言葉が甦る。
また……同じことを繰り返す……の?
全てが終わり、理性は力が抜けてその場に倒れた。残ったのは深い悲しみだけだった。自分が巻き込み、死なせてしまったという罪悪感。
(理性……!!)
ラウェンドが後ろ立ちで前足で優しく抱き止めた。自分も意識が薄れ始めていた。
(戻れ……)
理性が念じると三つの死神道具は刻印の中に封印された。これでいい。これで……。
(理性、隣の村まで運ぶからじっとしていて!!)
道具が消えるとラウェンドは自分の背中に理性を乗せた。
(ラウネンを……)
震える手で気絶し、負傷して倒れている少年を指差した。自分だけでは駄目だから。
(あの子……?)
確かめるようにもう一度尋ねた。
(そう……。だけど……)
(だけど?)
(あの子は竜を憎んでいるの。気をつけて……)
ラウェンドはその言葉に少し身体を震わせて怯えていたが、頷きすぐさまラウネンも前足を使って背中に載せられた。
(これで……いい?)
(ええ……行って)
理性が促すとラウェンドは地面を馬のように走り出した。家を出て炎上する村を見ると、夜の闇で不気味に哀しい光景だった。
(私の……せいだ)
この惨劇を生み出した全ての責任を自分に押し付け、悔やみながら理性は意識を失った。夜の道はまるで自分の行く末のように感じた。
そしてその中をラウェンドは走る。
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これでようやく第2章を終えていよいよ第3章の旅路がスタートします。ご期待下さい。




