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Vγ ~ アークエンジェルは眠らない ~  作者: 甲賀野カッパ丸
File.1「逃げたサラマンダー」
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1-1 頭の中で声が聞こえる

激鐡に詰まったらこっちを書くことにしました。

現代を舞台にした三人称視点の物語も書いてみたくなりました。

 とある日の夕方、首都圏の最西端に存在するとある訓練施設。建物中に鳴り響く警報が周辺の静寂を破った。


「緊急事態、訓練生が一名脱走した!、繰り返す、訓練生が一名脱走した!!」


 途端に施設内があわただしくなる。ほどなくしてこの知らせは施設を統括する人物の耳に届く。


「何事かね…」


 物々しい雰囲気の中、統括者は落ち着いた口調で部下に問う。


「報告します、訓練生が一名脱走しました!」

「名前は?」

「コードネーム“Vβ”です!」

「わかった。「同室」の訓練生を追跡に向かわせろ」

「はっ!!」


 部下が部屋を出ると、統括者はつぶやいた。


「だが、しくじった時に備えて「保険」もかけておこうか…」


 そして、机にある電話をかけた。


*


 訓練施設から県境を東に越えた場所…ここは首都圏のやや西寄りに位置する埃冠洲(あいかんしゅう)市。街の読み方が「アーカンソー」に近いのと治安の悪さから「日本のアーカンソー」とも呼ばれている。

 

 近年、「能力者」と呼ばれる人知を超える力を持った者たちがこの街にはびこり始め、人々の生活を脅かすようになった。

 

 当然、能力者による犯罪も増加の一途をたどり、もはや警察や行政では手に負えなくなっていた。その結果、治安の維持は自治体に委ねられることとなった。


 だが、頼りの自治体も「自分の身は自分で守れ」というルールを掲げて、結局何もしなかった。


 その影響からか、市内の学校の多くは部外者の侵入を防止するセキュリティシステムを導入するようになった。


 そのうちの一つである市立葛桐高校…通称クズ高も、例にもれずセキュリティシステムを導入していた。


 ここに通う1年の紫苑ひかる…いわゆる不良生徒だ。


 彼女は両親を失い、天涯孤独の身だ…いや、正確には彼女は母親の顔を知らない。唯一の肉親だった父親も数年前に亡くなった。そのため彼女は今、奨学金とバイトの給料で生活している。


 不良といっても暴れて授業を妨害するでもなく、タバコも吸わない。売られたケンカは買うだけで、目立った問題行動も起こしていない。たまに居眠りをして授業を真面目に聞いていなかったり、体を動かすのが面倒という理由で体育も毎回見学ばかりしていた。


 ただひとつ、厄介な点を挙げるとすれば、彼女は父親以外に下の名前で呼ばれると怒る…ぐらいだろうか。


 そんな彼女だが、最近すこぶる機嫌が悪い。


 理由は、数日前から紫苑の頭の中で幼い少女の声がするのだ。


 その声は自らを「Vα(ブイアルファ)」と名乗り、紫苑のことを「Vγ(ブイガンマ)」もしくは「γ(ガンマ)」と呼ぶのだ。


 いわく、「居眠りしてては先生の話が頭に入らない」


 いわく、「今日も体育は見学するの?体操服は?」


 いわく、「空っぽのカバンで学校に行くつもり?」


 他人に下の名前で呼ばれるだけでも腹が立つのに、変なあだ名で呼ばれるうえに、おせっかいなことばかり言うのだ。苛立ちを覚えないほうがおかしい。




 そんなある日の六校時目のさなか、紫苑が居眠りをしていると例の頭の中の声がこんなことを言い出した。


「きいて、Vγ。まもなくそこは戦場になるわ…」

「ふぁっ!!?」


 紫苑は驚いて頭をあげて叫んだ。周りの生徒たちは紫苑を注目するが、先生だけはいつものことと思って気にせず授業を続けている。

 

 紫苑は壁掛け時計を見た。あと15分で授業が終わる。


「…たく、変な夢見ちまったぜ」


 それだけつぶやくと紫苑は再び眠りについた。




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