8 井戸とうごめく何か
それからは大忙しだった。
神殿とやらには、タングステンも含めて全員で行くという。まだ眠っていたリュウセイとユウを起こし、眠そうな彼らをなだめつつ朝食を食べさせる。
その間に、荷物をまとめるわけだが。
なんでも、俺たちがこっちの世界に来た時に持っていた荷物……おれは財布と時計、リュウセイとユウはランドセルや水筒などすべてを持っていかなくてはならないらしい。
詳しいことはわからないが、異世界からの荷物はチェックする必要があるとのこと。召還された理由が持ち物のせいだった……なんてこともありえるらしい。
おれとしては、帰れる手がかりがとにかく欲しいので問題はなく。言われるがままに準備をした。
「さて、よろしいでしょうか」
リュウセイとユウ……の真ん中にチビが鎮座。ブルーとタングステン。それとおれ。
「チビも一緒なんだな」
見た目が大きな猫なので、神殿……なんていう格式が高そうな場所へ行ってよいのか心配だったが、オッケーらしい。
ちびっ子達はすっかりチビになついていたので、一緒なのは心強かった。
「ぷるぅ」
まかせとけ、とでも言うようにチビがおれに向かってひと鳴きした。やっぱり言葉を理解してるよな。
そもそも『妖精』らしいし、だから言葉が分かるのかな?
「はい。チビはいつも一緒ですからね」
ブルーはチビの話になると自慢げだ。
準備が終わるとブルーに促されて庭に出た。5人と一匹の全員が一気に外に出てもあり余る庭の一角にある井戸。昨日、ブルーに魔法をかけてもらった所だ。
「皆さんが帰れる方法を探すために、神殿に行きます。恐れ入りますがご協力お願いします」
ブルーは深々と頭を下げた。大げさなやつ。
「いや、こちらこそ。頼むな。ところでさ、神殿ってどこにあるの?」
こんな僻地からどこへ行くんだろう。
「神殿はカルビアの町の外れにあります。カルビアには私の家がありますから。まずそこに行ってから神殿へ向かいましょう」
ブルーはいつの間にか持っていた小瓶の蓋を開けて、井戸に垂らした。井戸が青白く光り出す。
「この中に入ってください」
魔法使いの男は井戸の中を指さして言った。
「やだ」
思わず、反射的に断りを入れてしまうおれ。
「えっ」
目をまん丸くするブルー。
「だ、大丈夫ですよ。森から沼地に来たときと同じように移動するだけですから」
「い、井戸の底ってなんか……」
ほら、ホラー映画とかであったよな? 呪いのなんとか、とかのやつ。
「えー、アオバにいちゃん、怖いの?」
リュウセイが無邪気に言った。
「だいじょぶ! ユウといっしょだもん」
ユウが励ますようにしがみついてきた。
「腹をくくれ、アオバ!」
タングステンがおかしそうに言い放つ。
「ぷるる」
チビまでおれを励ますようにひと鳴きする。そして、チビを先頭に井戸の中に落ちていく面々。
……ちびっ子たちも、結構ドキョーあるな……。最後に残ったのはブルーとおれ。
「アオバくん」
じっと見つめられて、おれは観念した。
「う……っ、わかったよ」
井戸の縁に足をかける。下をのぞくと青くキラキラした光が底から溢れていた。
「っ!」
覚悟を決めて、底へ落ちていった。
※ ※ ※
「ねー、私のあの人はどこに行ったの!」
長い手足をばたつかせる女からでた言葉にコウモリは笑った。
「アンタ、年いくつだ? 子どもじゃねぇんだから、見苦しく騒ぐのやめろ」
「……相変わらず毒舌ねー」
フォッシルウッドはジト目でコウモリを睨みつけた。
「あの人に会いたくてあんなことまでしたのに……」
束ねた緑色の長い髪がフォッシルウッドの気持ちを表すように左右に揺れた。
「……選定の儀に細工したのはさすがに驚いた。あっさりタブーを犯すとはな」
コウモリの咎めるような声に、フォッシルウッドは鼻を鳴らした。
「そういえば……今朝、神殿からの連絡がきた」
「なんて返した?」
「居留守したから何も」
「アハ、いいねー」
笑うフォッシルウッドの顔をじっと見て、つまらなそうにコウモリが言った。
「アンタがいうあの人って誰?」
フォッシルウッドはぼうっと考え込む。
「わからない」
「まだ分からない?」
「うん。でも……あの人はどこかにいる。それだけは分かる、んだけど……」
騒がしかったフォッシルウッドは、なにも映さない人形のような無機質なものとなる。それを一瞥し、コウモリは言う。
「ふーん……。あー、そういえば。今朝はヒノコも来てたぜ」
「ヒノコが?」
フォッシルウッドに表情が戻った。
「面白いやつがいるとかいってたな」
「あの子が誰かに興味を持つの、珍しいね」
「選定の儀で喚ばれたやつらしい」
フォッシルウッドの整った眉がピクリと動く。
「なまえは?」
「アオバっていってたな」
「アオバ」
「そういえば。あんたと同じ緑色の髪だったな」
「見てきたように言うね」
「見てきたから」
「ふ~ん」
フォッシルウッドの瞳が鈍く光った。
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