1 召喚と魔法使いと巨大猫
学校からの帰り道、いつもの路地で黄色い帽子をかぶりランドセル姿の男の子と、更に小さな子とすれ違う。2人は嬉しそうに手を繋いで笑っていた。
兄弟だろうか。
かわいいな。そう思って思わずおれも笑顔になっていたと思う。その瞬間、目の前が真っ白になり、気がついた時には、金髪の男が目の前にいた。
「ようこそ、神子様――――っ、て、あれえ!!?」
金髪男は、キリリとした表情で優雅に挨拶を決めていたと思ったが、おれをはっきりと見た途端に間抜けな声を上げた。
おれはというと、金髪の隣にうっそりと座っていたうす茶色のふわふわの毛のとピンとした三角のかわいい耳………つまり猫、だと思うがそちらに釘付けになり……てか、
「そのねこ、でかすぎない!!!?」
金髪男よりも遥かにでかい猫(?)に釘付けになってしまっていた。
見たことない生き物。小さい頃に動物園で見たライオンよりも遥かに大きいんだが……。
男は困惑した顔でこちらを見ていた。
「え…………」
それから重大な事に気が付いたように、驚きの表情。
「すみません!!!!!!」
金髪男がものすごい速さで頭を下げた。身体をきれいな90度に曲げた芸術的とも言える形で……肩よりも長い髪が顔を隠した。
「申し訳ございません! 私の手違いで、関係のない方々をよんでしてしまいました!」
「ん?」
よぶって? と、思った瞬間、おれの言葉はすぐ後ろから聞こえてきた声によってかき消されることになった。
「なんだよ、ここ―!」
「ふ、ふぇっ……」
うわーん、と、小さな男の子の泣き声が響いた。
驚いたことに、おれの後ろには黄色い帽子とランドセルを背負ったピカピカの1年生男子と、おれのヒザくらいの背丈しかない小さな男の子がいた。
道ですれ違った子たちか?
とっさにしゃがみ込み、抱き合うふたりの顔を覗き込んだ。
「大丈夫?」
怖がらせないように話しかける。小学生がおれを見た。
「……だれ?」
大きな瞳が不安に揺れている。恐る恐る問う様子に、わざと大きく笑顔をつくった。
「おれはアオバっていうんだ。よろしくな」
きみは?と聞くと、男の子は「ハヤシリュウセイ」とぽつり。
「リュウセイくんか。よろしくな。で、キミは?」
リュウセイにしがみ付く小さな頭に向かって話しかけた。
「ユウだよ。おれのおとうと」
返答がなかったが、リュウセイが教えてくれた。
「教えてくれてありがとう」
弟くんは兄にくっついて泣いているようだ。……そりゃそうだよな。
「ユウくん。よろしく」
なるべく怖がらせないようにユウに声をかける。見てないだろうけど、にっこり笑ってみせた。
おれはそっと2人の小さな肩に触れた。
「にいちゃんが“この人”と話すからちょっと待っててな」
……さて。
覚悟を決めて前を向き、巨大ネコを連れた男と向き合う。
「あんた、さっき“よんだ”って言ったよな? どういうこと?」
明らかに年上だろう謎の男は、見苦しいほど挙動不審だ。おれから声をかけられたとたん、ぐっと近づいてきた。
でか……。
近くなったらよく分かる。背中を縮こませているが、こいつでかい。
「あ、あの、たいへん言いにくいのですが……」
男は言葉を詰まらせながら言った。
「たぶん、ここは貴方がたのいた世界とは違う世界です……。私が、よびだしたのです。貴方達を……」
「は……違う世界……?」
「えっとですね、ここはヘルクス…と言いまして、えーと、神子をよんだはずが……あの……」
へるくす? なにを言っ…て……
ふざけてんのか?
おれは金髪男を睨みつけた。目の前の男は顔を青くしてでかい図体を縮こませる。
その時、「にゃあご」と猫のような大きな鳴き声が聞こえた。
「っ?」
ギョッとしておれは辺りを見回した。その時、金髪男の脇からぬっと猫の顔が生えてくる。
男はほっとしたように緊張をゆるめたようだった。
「そのでかいのって………」
「ああ! 紹介してませんでしたね」
男は後ろの猫もどきのフワフワな頭を優しい手つきで撫でる。
「チビっていいます」
かわいいでしょ、と言わんばかりにわかりやすく目尻を下げる。
「チビ……。いや、めちゃくちゃデカいけど」
「あ、いえ! すいません、“チビ”という名前なんです」
「……もしかして飼い始めた時は小さかった?」
「え? よくわかりましたね!」
「……」
「でも私はチビを飼っているわけではありませんよ」
「へえ」
よく分からないことを話し始めそうな雰囲気に流されそうになるが、いや待て。
チビという名前のデカい猫も気になるけど、この男はなんなんだ?
おれの訝しげな視線に気付いたのか、男は急に背筋を伸ばした。
「! あ、わ、私の自己紹介がまだでしたね。失礼しました。……ブルーといいます」
へー、ブルーっていうんだ。……いやいや、名前がわかっただけで全然わかんない。
その時、急に夜空が赤く光った。その数秒後、轟音が響いた。ちびっこ2人がおれにしがみつく。
「雷?」
おれの問いに、ブルーが言った。
「いえ……これは……」
赤く光った夜空を仰ぎ見ていたブルーは、おれを見る。灰色の不思議な色の瞳。
「この雷は危ない。ここを早く出なければいけなくなりました。みなさん、着いてきてくれますか?」
真剣な顔でいう姿は、嫌だと言えない威圧感があった。
おれは手を強く握りしめた。
残念ながらどこかもわからない場所に来たおれたちは、今はコイツを頼りにするしかなさそうだ。
ぶっちゃけ怖いが、猫(?)を飼う(?)人(なのか?)に悪人はいないと信じたい。こういう時は直感と開き直りだ。
「ブルー……だっけ。違う世界……とかは置いといて。とにかくこの子達…」
チラリとおれにしがみ付く兄弟を見た。
「ふたりはまだ小さい。とにかく早く家に帰してやってよ」
親だって心配してるはずだ。
ブルーの目をみてお願いをしてみるが、男ははっきり言った。
「す、すみません、それはムリで……」
「はあ!?」
思わず大声で反応してしまうおれ。その声にでかい猫……もとい、チビの耳がイカ耳になる。おれに睨まれて怯んだブルーはボソボソと言った。
「あ、いえ、あの。私がどうこうできるなんて………」
「は?」
ブルーは意を決したように真剣な眼差しでおれをみた。
「選定の召喚をして神子を呼ぶんですが、今回は私が召喚の担当でして。それで……今その召喚をして…。あと、えーと……それで……………」
しとろもどろな言い草に俺は押し黙る。
選定のしょうかん? みこ?
「……。色々言いたいことあるけど。つまり、なんだ?」
「つまり、たぶん私の魔法が失敗して手違いであなた方をよんでしまった。だからすぐには帰す方法が私にはわからないんです」
スイマセン……と小さな声を発するブルー。
魔法の失敗……で、帰す方法がわからない?
なんだそれ……。
帰れないって……リュウセイとユウは子供も子供…じゃねえか。というか、おれだってまだ中学に行ってる身で……。
「……神隠しじゃん……」
思わずこぼした声にブルーは、「え? なんて?」とか言ってくる。
とぼけた顔しやがって……! 沸々と怒りが湧いてくる。
「いまいち……いや、全く理解できねーが、ひとまずお前が責任持っておれたち3人を保護しろ!」
理不尽にな出来事にふつふつと湧いた怒りに身を任せ、ブルーを睨みつけながら怒鳴ったが、それを真剣に受けた金髪男は、
「もっ、もちろんです! 貴方がたのことは私が責任を持ってお預かりいたしますので! ご安心を!」
と息巻いた。
いや、安心とかできるわけないわけで……。
いまだにおれにしがみ付く兄弟たち。一方、目の前のなぜか使命感あふれる決意に満ちた得体のしれない金髪男とでかい猫。
これからどーなっちまうんだ!?
とにかく、ちびっこたちは早く元の世界にかえさなければ……!
と、心のなかで誓った。
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