↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛の余罪 〜同居する事になった毒舌な美少女女子高生に、雑魚と揶揄われて困っています〜  作者: ラストジェネレーション
第一章 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/22

第二十一話 お姉ちゃん 

 私の父親は20歳の時、3つ年下で当時高校生だった母親を妊娠させ、私と私の妹を産んだ。


 典型的なクズで、家庭内暴力を繰り返したため当時は生傷が絶えなかった。ある朝だった。


 誰かの泣き叫ぶ声と共に私は目覚めた。直後に感じる何かが焦げたような匂い。


 嫌な予感がして台所に駆け込むと、そこには服を脱がされ腹に煙草を押し付けられる妹の姿があった。


 当時まだ4歳だった、私の妹。今では顔を思い出す事さえままならない。


♢


「病院食って味薄くない? 味噌汁ってここまで不味く出来るんだな..」


 入院生活も日数が経つにつれ、皆川は少しずつ元気を取り戻していった。


「文句言わないでよ。健康的に作ってあるものなんだから」


「へっ..。それでこんなのしか食べれないなら、渚沙の美味しい料理を食べまくって早死にした方がマシだね..」


「....。皆川くんは早死にしたいの? あと、私だって健康面に気を遣って料理してます!」


「あはは..、それはごめんよ。でもまあ..、生きてたって碌な事がないしさ、適当に頑張って早くリタイアするのが一番だよ」


「へ、へぇ....」


 色んな死生観があるのは理解している。好きな人のそれを否定するつもりはない。


「渚沙は、どう思う..?」


「え..?」


 私は、それに対する答えを既に持っている。あの日からずっと変わらない思いを打ち明けようとした時、二人だけの病室に東雲未来がやって来た。


「おはよう。元気にやってる?」


「あぁ..。僕は大丈夫だけど、そっちは?」


「....」


 未来は暗い表情を浮かべた。どうやらうまくいってないらしい。


「まぁまぁ、かな..。少し部活関連でゴタついて..。なんてね、関係のない話だったね。それよりこれ。だんだん暑くなってきたし、アイス持って来たんだ」


「お、ありがとう..。どこかで買ったの?」


「違うよ。私が特別に作ってあげたんだから、ちゃんと感謝して。まぁ..。水に果汁を混ぜて、それを氷にしただけなんだけどね」


 彼女のその台詞を聞いて、少し驚いた。


 昔自分の振る舞ったものを再現している。あの時の事なんてすっかり忘れていると思っていたのに..。


「うん、美味しい。これ何かのレシピサイトでも参考にしたのかな..?」


「それも違うよ..。昔ね、私が不登校だった頃に出来たお友達がいて、その子が作ってくれたの。ずっと一緒にいたんだけど、ある日から突然いなくなっちゃったんだ」


「....」


 奢るな。きっと自分ではない別の誰かが、彼女に同じ事をしてあげたに違いない。


「星野..。このアイスってもしかして..」


 少し前に過去の出来事を聞いたばかりの皆川は案の定すぐに興味を示す。


「違うよ..。私じゃない..」


 そんなやり取りを尻目に、未来は話を続けた。


「初めて出来た、同姓のお友達だったんだ。赤の他人なのに、膝枕とかして貰うと自然と心が安らぐの」


「....」


 ずっと無視し続ける私に痺れを切らしたのか、彼女は立ち上がり私の右隣の椅子に腰掛けた。


「ね? 星野もそう思うでしょ?」


「....何を」


「そういう人いるでしょ。一緒にいると、安心できる人」


「別にいないよ。未来にはいるの?」


「うん」


 そこから先の言葉を遮ろうとした束の間、未来は私の両手を掴んで皆川の眠るベッドの上に押し倒した。


「ほら..。私の目の前にいる..」


「ちょっと! 離してよ!!」


「この前のお返し..。10年前、何も言わずに私のとこからいなくなった事のお返し!!」


「....違う。それは私じゃない..」


 私に迫る未来から目を逸らし譫言のように呟いた。黙っていれば皆川くんがなんとかしてくれると思ったのに、彼は知らんぷりを決め込んでいる。


「いつもいつもそうやって、自信ないのか分からないけどウジウジしてて、努力する前から諦めてた。何も出来ないくせに、上から目線で気取ってるところが癪だった!」


「....未来。言わせてもらうけどあんただって気持ち悪いのよ。だって....」


「ふふ..。そういえば喧嘩するのも初めてだよね、私たち..」


 違う。喧嘩じゃない。私は、未来の事をどうしても貶す事が出来なかった。とても辛そうだった。生きているだけで精一杯で、些細な発言で壊れてしまいそうだった。


 そういった危うさは、今も変わらない。彼女の目はあの時からずっと死んだままだ。


「うん..。それよりも、私の事覚えていてくれたんだね..」


 だから、私は彼女を抱き締める事にした。両腕を掴む未来の上体を振り解き、細い腰に手を回してハグをした。あんなに太っていたのが嘘のようだ。


「忘れられてると思ってた。私は、未来の眼中にもない人間なんだって..。いつか貴方から拒絶されるのが怖くなって逃げ出したの..。本当にごめん....」


「馬鹿..。私が大好きな友達の事を忘れるわけないじゃない..。拒絶なんて、絶対にしない。だって、私の事を雑魚とか豚じゃなくて、未来と呼んでくれる人も、身体に触ってくれる人も、初めてだったから..」


「え..。初めては皆川くんじゃないの?」


「うん。彼は一度だけ私を豚って呼んだから駄目」


「結構判定厳しいんだな」


 そう突っ込んだ皆川くんを、未来は鬼のような形相で睨みつけた。今は二人だけの時間だ。その間に割り込むのはやはり無粋なのだろうう。


「ねぇ..。私まだ、星野の事を友達と思って良いかな..?」


 涙が抑まらなくなって、私は返事をする代わりに腕にこめる力を強めた。未来は痛いよと笑って言ったが、拒絶しないで受け止めてくれた。


「大好き..」


 不意に漏れたその一言。


 奇妙な感覚だった。さっき未来も言っていたが、私達は元来赤の他人であるはずなのに、こうして抱き締めていると心が安らいでいく気がする。


「ふふ..。私も大好きだよ..」


 頭を撫でられながら、未来は笑い、そしてーー


「大好きだよ。お姉ちゃん..」


「え?」


 異変に気付いた時には、もう遅かった。徐々に意識が遠のき、視界が暗転していく。


「ねむ、い..」


 皆川の方を向くと、彼は既に気を失っている。アイスの中に睡眠薬が入っていたんだ。


「ごめんね..。病院の先生が、皆川くんもう退院出来るって。だからもう大丈夫。今までつきっきりで介抱してくれてありがとう..。けれど....」


「.....」


「彼の事を世界で一番好きなのは私。それだけは絶対に譲れないから」


♢


 次に目覚めた時、私は家の布団の上で横になっていた。その隣で母が泣いている。状況の整理をしようと身体を起こすと、急に覚醒したせいか眩暈がした。


「もしかして、全部夢..」


 そう声を発した直後、母に抱き付かれて妙な既視感に襲われた。


「ずっとどこに行ってたのよ! 家に連絡も入れないで..。本当に心配だったんだから」


 そっか。私はさっきまで夢だと誤認していたものが、全て現実である事を理解した。


 なら、聞かなければならない。


「母さん。紗希(さき)は、本当に死んだの?」


「何寝坊けた事言ってるの? 紗希は12年前、津波に呑まれてしまったじゃない..」


「でも、まだ紗希の遺体は見つかってないよね? どこかで生きてる可能性はないの? 本当に調べたの?」


「ちょっと渚沙、落ち着いて頂戴..。確かにあれはショッキングな出来事だったから、忘れるなという方が難しいわ。けれど紗希は死んだ..。いつまでも行方が分からない以上、もうそう考えるしかないのよ..」


 これ以上母の悲しそうな顔を見たくなくて、私は何も言えなかった。


 けれど眠る直前に未来の放った一言が、胸の奥に張り付いて離れない。


 未来は死んんだはずの私の妹、咲希なのではないか?


 

 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。