最終話 卒業
周防の異動はトントン拍子に決まった。俺が異動願いを前川さんに送ったその二日後には辞令が出ていた。前川さんが本社の人事部長をずいぶんつついたらしいことは、後になって知った。
異動などというものは月初に行われるものなのだが、周防の場合は何もかもが異例尽くしだった。俺に異動を依頼してから翌週の初めには辞令が交付され、そのさらに翌週の月曜日から異動という段取りになった。わずか五日間での引継ぎはどうかとも思ったが、そこらへんは小春さんが周防の仕事を把握していたので、特に大きな問題もなく進めることができた。
そして、最終出社日になったその日、周防は殊勝にもお菓子を買ってきて皆にふるまった。デパートで買ったと思われるおかきだった。金のない中で彼女にしてはよくかんばった方だと思う。
退社時間になり、帰り支度を整えた彼女が俺たちに向かって突然口を開いた。
「いままで大変、お世話になりました」
彼女の眼には涙が光っていた。何とも言えない雰囲気の中、
「今度はもっと成長して戻ってきます。お疲れさまでした」
そう言って事務所を出ていった。
「……アイツ、戻って来るって言ってましたよね?」
係長の尾関がそんなことを言ってきた。俺は苦笑いを浮かべながら、そう願いたいものだと、誰に言うともなくつぶやいた。そのとき、部長が俺のデスクにやってきた。
「周防がいなくなると、寂しいものだな」
そうですね、と返事をしておく。
「だが、安心しろ。また春から新卒の女性がひとり配属されることになった。池端、また、頼むな」
……なんじゃそら、と言いながら俺は遠くを見つめた。また、新人に振り回されるのかと思うと暗鬱な気持ちになった。だが、本社は周防をある程度まで教育した俺のことを評価して、新人を預けるのだと聞いては、嫌と言えるはずもなかった。
◆ ◆ ◆
「本日よりお世話になります。野森杏です。よろしくおねがいします」
数か月後、俺たちは新たな新人を迎えていた。野森と名乗る女性は、周防とは違って研修成績はトップクラスだった。会社としても期待をかけている新人であることがわかる。俺はきちんと育てねばと意気込んでいた。その野森は、あいさつの締めにこんな言葉を吐いた。
「私が一番好きなのは、ポルノです。同じポルノ好きの方がいらっしゃったら、うれしいです!」
「……なかなか期待が持てる新人が来たな」
部長が嬉しそうな声で呟いている。そうか、ポルノが好きか。よかった。話が合いそうだ。と思う一方で、堂々とポルノが好きと公言してしまうこの女性はかなりヤバイ。コイツはとんでもない奴が来たと、俺はため息をついた。
彼女の好きなポルノ、というのは、ポルノグラフティというバンドであることを知るのは、それから二日後のことだった……。
課長のグチ、完結です。ご覧いただいた皆様、ありがとうございました。




