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暦君には壁が居る  作者: 二核


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頭突きと乱入

「うおっ!」

 頭突きをもろに受けた間寺は、そのままピッチに倒れ込んだ。

 その姿は上葉高校がやってきたような、ファウルをもらうための大袈裟な振る舞いのようにもみえる。

 しかし、この行為に対して選手たちは声を荒げるどころか、その前のプレーで揉めていた選手たちは揃ってあんぐりとさせていた。

 そして、暦も起きた出来事が理解できず、呆然と突っ立っていた。

 そう、確かに間寺は頭突きにより倒れたが、実際に行ったのは暦ではないのだ。

「いったーい!」

 そして、頭突きの当事者は痛そうに頭を抑えて、ネズミのように叫びながら左右に転がっていた。

「あいつの体どうなってんのよー!」

 彼女は文句を垂れつつ立ち上がると、服に付いた汚れを振り払った。

「お前、行方不明になってたうちのマネージャーじゃないか!?」

 驚いた表情で彼女に向かって指を指すキャプテン。

 それは、準決勝の試合が終わったばかりの時。

 突如チームの輪から消え去った“春山美亜”という名の女子マネージャーがいた。

 結局、決勝直前になっても見つからず、半ば諦めていたマネージャー陣だったが、そんな彼らも何故かピッチに乱入して頭突きをしていることに霹靂としていた。

「行方不明のマネージャー? 私、あなた方の高校の人間じゃないんですけどぉ」

 そう言って、彼女は耳に右手を当てて、左手で身に纏っているジャージをひらつかせた。

 確かに、彼女の着用しているジャージは相手高校が来ているもののだ。

 しかし、上葉高校で行方不明になっている人物の人相は春山美亜の顔で間違いない

 状況が飲み込めない選手たちが戸惑っていると、主審が笛を吹き彼女の下へ駆け寄る。

「君! 部外者の立ち入りは……」

「そんなことより! そこのチンパンジー! ちょっとその崩れ切った顔面を貸しなさいよぉ!!」

美亜は強めに迫る審判を一蹴し、倒れている間寺に蹴りを入れて無理矢理立たせようとした。

「お、俺が……チンパンジー……崩れ切った……顔」

 どうやら、間寺は美亜が突き刺す鋭い言動に、体も心も深く傷つけられた様子だ。

「どう考えても顔と中身が人間以下でしょうが! さっきからネチネチネチネチネチネチネチネチ! こよ……あ、相手の10番にちょっかいかけやがって!!」

『『『……今、“暦君”って言いかけたよな』』』

美亜の吐き出す言葉に、上葉高校関係者一同が揃って心の中で呟くのだった。

「……し、仕方ねぇだろ! 勝つためにやってんだから!!」

「勝つためなら相手やその親友の罵倒は許されると? 世界を一つにするスポーツで、人格否定することが正しい勝利だと?」

 美亜の語る正論に、間寺は反論ができない。

 すると、美亜は座り込む間寺の胸ぐらを掴み、激しい形相で睨みつけた。


「クソ野郎上等! けどね、人として最低限のリスペクトくらいは持ちなさいよっ!!」

 

 そう吐き捨てると、美亜は投げ捨てるように掴んでいた胸ぐらから手を離して、暦の安否を確かめた。

「こよ……そこの10番の君、大丈夫かね?」

 美亜は堂々たる声で誤魔化そうと試みるが、初めての呼ばれ方をされた暦は困惑している。

 この状況はチャンスだと感づいたのか、美亜は自然な流れを装って暦の手を取った。

「安心したまえ。これで、君を邪魔する動物はいなくなったよ」

「……っ!!」

 しかし、美亜の執拗なまでのアプローチが暦の試合に対する集中力を切らし、異性に対して苦手意識を持つ“普段の暦”に戻ってしまった。

 これまた自然な流れで美亜は王子様のように暦の手の甲に口づけを敢行すると、我に返った暦は即刻美亜から手を離し、ベンチにいる折節の背中へと引っ込んでしまった。

「あ、あれれ。まだ試合終わってないんですけど!!」

 美亜は暦を追いかけようとするが、審判に腕を掴まれ進行を妨げられてしまった。

「君、いい加減にしないか!」

「ちょっと! 人助けしてる人間になんて扱いしてんのよ!!」

「何を言うか! さっき仲間の23番に暴言吐いてたじゃないか!!」

「我が校流の躾ですー! 暴言じゃないですー!!」

 すると、この様子をずっと見ていた観客が、審判に抗議する美亜に向けてブーイングを浴びせた。

 しかし、美亜はそんな声も聞こえないと、片耳に手を当てて挑発する。

「そうであったとしても、乱入行為は見逃せない。いいから、早く出なさい!」

 審判は美亜にレッドカードを提示して、退場するように促した。

「あんたに言われなくても、こっちから願い下げよ! 侮辱行為にカードもろくに出せない臆病者がっ!」

「……っ!!」

 美亜は最後に言い捨てると、自らの足でピッチを去っていった。



 試合が再開されると、長い小競り合いの影響により、アディショナルタイム15分という“延長戦の延長戦”のような恰好となった。

 しかし、上葉高校が粘り強い守備を見せ、試合終了間際に焦って攻め上がった敵チームの隙をつくようにカウンターを炸裂させた。

カウンターのフィニッシュは暦が決めたことにより、この試合もハットトリックを達成することができた。

 そして、このゴールと共に試合終了のホイッスルが鳴り、スコアは3―1で上葉高校が最後まで苦しみながらも優勝を勝ち取った。

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