交換ノートで挽回を
放課後――。
帰りの挨拶が終わったと同時に、私は一人でとある場所に向かった。
「……おっ! あるある」
そして、目的の物を手に取ったら、里香の待つ教室に戻る。
「暦君、ちゃんと約束守ってくれたよー!」
私は軽快に体を弾ませて、手に持ったノートを里香に見せつけた。
私のノートを初めて見た里香は、表紙にばら撒かれた文字たちを見る。
――必ず見なさい!
――見なかったら女ぶつけてやる!
――もし折節様に言ったら引き離す!
「ただの脅しじゃねーか!」
目立つそれらのメッセージを見た里香は眉をひそめて、私に言及した。
「こうでもしないと、確実にやってくれないでしょ!? 私、こう見えて現実はしっかりと受け入れる人だから」
「それにしたって、もっとやり方あっただろう……可哀想に」
「まぁ、そんなに私を心配しなくて大丈夫だよ。脅迫したのが私だって、バレなきゃいいんだから」
「お前に言ったんじゃない」
私は暦君からどんな返信が来たのか、期待に胸を膨らませながら、ノートを開いた。
「どんなこと書いたんだ?」
里香も気になっているようで、机越しから前のめりになって、ノートを覗いた。
私は見やすくなるよう里香にノートを近づけ、私が書いたページを見せた。
交換ノート1ページ目――通りすがりの普通のファン(男です)。
初めましてだぜぃ。
俺は三度の飯よりサッカーが好きな、あなたのファンだぜぃ。
あなたのプレーはファンタジスタって感じで、とても好きだぜぃ。
俺はめっちゃシャイで直接会話するのが苦手だから、こうやって紙にしたためてメッセージを送らせてもらうぜぃ。
返信待ってるぜぃ。
――終わり。
「なんだこれ……」
一通り読んだ里香は、いきなり変人に出くわしたかのような戸惑った反応を見せていた。
「これなら、確実に男子が書いたものだって、分かってくれるでしょ!」
「お前の中の男子って、口だけワイルドっぽく見せるお笑い芸人みたいな感じなんだな」
「タイプではないけどね。身長低そうだし」
「暦もそこまで背は高くないけどな」
私の完璧な男子の装いを見せたところで、本題である暦君の返信をチェックするため、私はごくりと固唾を吞んで、次のページを開いた。
交換ノート2ページ目――暦君。
こんにちは。暦です。
最初は何のノートだろうって思いましたが、ファンレターだったんですね。
表紙がとても怖かったので、てっきりその類のモノかと警察に相談するところでした(笑)。
ファンタジスタのサッカー選手がお好きなんですね。
僕も小学生の頃から好きで、よく真似してました(笑)。
それにしても、文面を見る限りでは随分と達者な方のように見受けられます。
そのキャラクターだったら、お友達の一人や二人できるんじゃないですか?
もっと自信を持っても良いと思いますよ。
――終わり。
「暦君、なんて良い人なの」
私は感動のあまり、泣きながら口元を手で覆う。
「ちょっと間違ってたら、警察沙汰じゃねぇか」
「でも、暦君は大丈夫だと信じてノートを開いてくれた。これってやっぱり神様のお導きなんだわ」
「お前はもうちょっと自責の念を持った方がいいと思うぞ」
こうして、暦君の人柄の良さを肌身で感じた私は、早速返事を書こうと筆箱からペンを取る。
そして、得意げにペンを回して、どんな風に書こうか思案した。
「とりあえず、誤解解くのか?」
「うん、最優先事項だから。でも……」
私はおもむろに回していたペンを、開いたノートの上に落とした。
「……でも?」
「よく考えたら、架空の男の子使って、自然な流れで私の名前出すの難しくない?」
完全に盲点だった。
説明するのは簡単だけど、どうやってその話に持って行けばいいの?
あからさまに恋愛とか興味無さそうだし。
考えれば考えるほど、目的地に遠ざかるような感覚に陥り、私は痛み出した頭を抱える。
「知り合いとか親戚とか言えばいいんじゃないか? まだ、この架空の男子の設定、付け加える余地あるだろうし」
「じゃあ、里香が文章作って!」
「のっけから、諦めんなよ……」
私は机に突っ伏して、ペンを里香に手渡そうとしたが、里香は受け取りを拒否した。
しかし、渡そうと伸ばした腕をそのまま放置して項垂れていると、時が止まったような空間に痺れを切らした里香が私の手ごとペンを掴んだ。
「あー、もう! 私も手伝ってやるから、さっさと書いて暦に出すぞ!」
「やっと、落ちてくれたかー」
必死の足掻きに疲れた私は、体を起こしてうんと腕を伸ばした。
里香の良心は利用のしがいがあって、とても助かる。
「お前、覚えとけよ……」
こうして、私は里香のアドバイスの下で、暦君への返信メッセージを書き上げ、昨日と同様に暦君の机にこっそりとしまった。
「いやぁ~、良いのが書けた~。ありがとう、里香」
私は背後から里香に抱き着いて、感謝の気持ちを伝える。
「やめろ、暑苦しい!」
恥ずかしそうに顔を赤くした里香は、私の肩を持って引き離した。
「美少女からのハグだよ? もっと素直に喜んでもいいんですよ、里香ちゃん。ほら、良い匂いでしょ? 私」
そう言いながら、私自慢の髪の毛から漂う、甘い香りを里香に届ける。
「お前にそうされると、腹立つ」
「もぉ~、素直じゃないな~」
私は宥めようと再び里香に接近して顎を優しくさするが、すぐにどかされてしまった。
本当は、お礼をしたいだけなんだけど、里香が満足しそうなお返しが思いつかない。
私の持ち味が通用しないのであれば、直接訊くしかなさそうだ。
「里香、今日手伝ってくれたから、私が何かしてあげる」
「何かって?」
「里香が満足できることなら、なんでもいいよ」
「ほぉ、なんでもいいんだな?」
「もちろん!」
こんなこと、他人には言ってはいけないのは重々承知しているけど、親友の里香なら大丈夫だよね。
だって、私のわがままに付き合ってくれる優しい里香なんだから、“理由もなく”私を傷つけるようなことするわけない。
私はにんまりとしながら、里香の要望を待つ。
「それじゃあ、準備しなきゃいけないから、日を改めてお願いするよ」
「オッケー!」
準備って、何だろう?
私は少し気になったが、友達の頼みとあらば、気を長くして待つとしよう。




