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暦君には壁が居る  作者: 二核


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12/22

美亜の右腕、夏海里香

 地獄のような我が家から逃げ出した私は、正真正銘天の光を浴びて、傷を癒していた。

 しかし、朝御飯を早食いしてから走って逃げだしたせいで、横腹がとても痛い。

 世間が言っている“母親は怖い”って、こういうことだったのね……。

 身をもって痛感していると、前方に里香の後ろ姿があった。

 本当はただの人間の後ろ姿のはずなのだが、今の私にはそれすらも神々しく映っていた。

「里香ー!」

 私はその神にすがるように走って飛び乗った。

「全く懲りないやつだ……うぉっ!」

 里香はいつもの嫌がらせだと思い込んでいたのか、私の怯えきった有り様に目を見張る。

「どうしたんだよ。現実逃避してるみたいな目になって」

「怖かった。怖かったよ〜、ママ〜!」

「誰がママだ!」

 里香はくっついて離れない私を、強引に引っぺがした。

 少しして気持ちを落ち着かせた私は、里香に家での出来事を事細かく語った。

「へぇ〜、お母さんにそんなことされたんだ」

「うん……。酷いと思わない? 実の愛娘に対してこんな仕打ちするなんて……」

「そうかそうか。なんか気が合いそうな気がするから、今度紹介してくれ」

「ちょっと、里香!? お母さんに共感してないで私を慰めてよ!」

 結局、里香から私が思い描くような慰めの言葉は与えられることもなく、その物足りなさしか感じない体に縋りながら校門を潜り抜けた。

 今日の放課後は高校生としての時間が許す限り、外で遊ぶことにしよう。



 時は流れ、昼休みの時間、いつもの食堂にて。

「さて! 今日はどうしようか!」

「切り替え早くね?」

「なんか、教室に入って暦君のことずっと見てたら、元気になっちゃった。やっぱ、愛の力って素敵ね!」

 それに、昨日は暦君と初めて会話できたし。

「要するに、母親がしてくれたせっかくの躾も台無しになったんだな。残念でならない」

「……どうして、里香はお母さんの味方するの?」

「言った方がいい?」

「……いえ、結構です」

 里香の目つきが鋭かったので、目を反らして遠慮した。

多分、無理に聞いたら今朝の二の舞になる予感がした。

「それにしても、意外だったな。暦が異性相手にしっかりと謝るなんて」

 里香は薄れた感嘆を漏らしながら、食堂で買ってきたあんパンの袋を開けて小さくかじった。

「もしかしたら、本当は私に気があったりして」

「向こうがたった一言のために、めちゃくちゃ頑張ったようにしか見えなかったんだけど……」

 あんパンを口の中で嚙みながら反論する里香に、私は眉を顰めて頬を膨らませる。

「むぅ……。きっと、暦君はすごく奥手なんだよ」

「だとしても、変な期待はしない方がいいと思うぞ。ただでさえ誤解されてるんだから」

 里香は私の膨らませた頬を人差し指を突いて割り、淡々と返してきた事実を突き刺した。

 しかし、私は刺された痛みをグッと堪えて、冷静に口元で手を組んだ。

「そうなのです。今の私には暦君の誤解を解くことが、何よりも重大なミッションなのです。なので、里香よ。あなたも私と一緒にどうすれば解決するのか考えるのです」

「どうして、お前はいつもそう上からなんだ。あと、そのキャラは一体何なんだ」

「これが、朝の教訓なのです」

「もっと他に学ぶべきところあっただろうが……」

 里香は完全に呆れ返っていたが、なんだかんだ言って一緒に考えてくれる。

 やはり、持つべきものは友達だ。

「ひとまず、暦に折節とは付き合っていませんって伝わればいいんだよな?」

「それが一番難しいんだよねぇ。何で私たちが“女”ってだけで、こうも苦労しなきゃいけないんだか」

 私はテーブルにだらんと上半身を乗せる。

「それなら、暦に女って認識を持たれないようにすれば、会話のキャッチボールくらいはできるんじゃないか?」

「ほぅ、それはどういうことかね、リカソン君」

 里香の妙案に、私はドラマに出てきそうなキメ顔を再現して訊ねた。

「探偵の助手みたいな呼び方するな。恥ずかしい」

 里香は頬杖をついて、詳しい内容を説明し始める。

「つまり、美亜が架空の男子として、暦に手紙とか送ればいいんじゃない?」

「そんな詐欺みたいなことを私にさせるの!? 見損なったわ、里香!」

 私は勢いで項垂れていた上体が起きる。

「どの口が言う」

 反対に里香は落ち着いた様子で、牛乳を啜った。

「付け加えておくけど、別に詐欺のつもりじゃないから。“架空”って言葉に引っ張られ過ぎ」

「そ、そうか。別に金銭要求とか中傷するわけじゃないもんね」

 私も冷静になって、コーヒー牛乳を啜った。

「で? どうするの?」

「すごく良いアイデアだよ! ありがとう、里香! やっぱり、私の自慢の親友だわ!」

 興奮した私は里香の右手を包み込み、顔を近づけて感謝を伝えた。

「あっそ。でも、喜ぶのは上手くいってからにしなよ」

 里香は赤らめた頬を隠すように目線を反らして、兜の緒を締めさせるような言葉を返し、牛乳をゴクゴクと飲んだ。

 照れ屋なところは、気分が泥沼に沈んだ時の私よりは可愛いと思う。

 こうして、里香からの知恵を授かった私は、早速準備に取り掛かり、決行の日を待った。

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