第81話 「えっと、もしかして次もありますか?」
本体の部品の修理は終わったので、残りは核となっている宝石である。
欠けているのではなくヒビが入っている。
これなら、宝石の組織同士をつなぐイメージで整えれば元通りになりそうだ。
宝石の修理を始めると、どんどん魔力が減っていった。
「うわ……」
魔道具の修理とは、勢いが違った。
普段はカイが意識して魔力を使う。
しかし今は、宝石が勝手に魔力を吸い込んでいる。
スキルで使っている以上に、魔力が取られるのだ。
核になる宝石の特性なのだろうか。
修理を中断すれば魔力の流れも止まりそうだが、スキルからは、中途半端に修理するのは良くないという感じが伝わってくる。
きゅ、と眉を寄せたカイは、なるべく魔力の流れをコントロールするように抑えながら、修理を続けた。
立体映像で修理の進み具合を見る限り、なんとか魔力は持ちそうだ。
それよりは、魔力が引き出される感覚が気持ち悪い。
「大丈夫か?」
いぶかし気にこちらを見たセリスが、心配そうに聞いた。
「はい、多分」
もしかすると、魔道具作成関係のスキルがあれば、この気持ち悪さがないのかもしれない。
正直に言って、何度もしたくはない作業だ。
ずるずると魔力が引き出される感覚に堪えていると、ひたり、とその動きが止まった。
全方向から宝石を見て、カイはうなずいた。
「終わりました。でも、この感じだと宝石は新しく作る方が楽そうです」
「ありがとう。かなり辛そうだったが、本当に大丈夫なのか?」
セリスは、眉尻を下げてカイの顔を覗き込んだ。
そんな表情もとても美しい。
だが彼女との距離の近さも気にならないほどに、カイはくたびれていた。
「今日はもう仕事にならないと思います。核になる宝石って、やっぱり特別ですね。魔力が吸い出されてしまって、半分くらい使い切りましたよ」
「吸い出される……?そういえば、ハルトも似たようなことを言っておったな。勝手に持っていくから、やたら魔力を食うと」
どうやら、エアハルトも同じような思いをしていたらしい。
「そうだったんですね。やっぱり、魔道具関連のスキルを持っていないとそうなるのかもしれないです」
言い終わってから、カイは思わず深く息を吐いた。
「随分と面倒な仕事を頼んでしまったようだな。申し訳ないことをした。歩いて帰れるだろうか?」
セリスが肩を落としたので、カイは慌てて両手を前に出して振った。
「いえいえ、魔道具ならこれくらいは想定していましたから大丈夫です!魔力は余裕がありますし、歩いて帰るのも問題ありません。ちょっと、宝石に魔力を吸い出される感覚が何というか、慣れなくて」
「ふむ……。宝石の修理が原因か。宝石以外ならそこまでにならないということだな?」
「はい。魔道具の本体の修理なら、普通のものよりはさすがに魔力を使いますが、それだけですから」
部品が多いので、比例して使う魔力は多い。
カイの答えを聞いたセリスは、腕を組んでひとつうなずいた。
「わかった。それなら、今度からは核の宝石は新しく作るように伝えよう。本体だけなら修理すると伝える」
肯定の返事が喉まで出てきたカイは、意味を理解して思わず目を瞬いた。
「えっと、もしかして次もありますか?」
「手元にはないがな。もしこれを修理できるなら、頼みたいものがいくつかあると連絡が来ている」
まさかの、エルフの村からの修理依頼である。
思わずぽかんと口を開いてしまったカイは、数秒固まってからうなずいた。
「わかりました。ご依頼いただけるのはありがたいので、お受けします。ただ、修理料金は都度変わりそうなんですが」
壊れ方や道具の部品数などによっても、かなり大きく変わりそうだ。
カイがそう言うと、セリスは気づいた、とばかりにテーブルに向かった。
置いてあった箱から何かを取り出し、カイのところへ戻ってきた。
「村の中で使わないからか、随分と溜め込んでいたらしい金貨を箱で送ってきたんだ。当面は支払いに困らないぞ」
にこりと笑ったセリスは、金貨を一掴み持っていた。
「まさかあの箱の中、全部……?」
カイが小声で聞くと、セリスは機嫌良さそうに首を縦に振った。
「ああ、いっぱいだ。安心だろう?」
「安心できませんよ!?」
思わず大声で言ったカイは、両手で口を塞いだ。
「何故だ?足りないだろうか」
セリスは、不思議そうに首をひねった。
「そうではなくてですね、こんなところにこんな大金があるなんて安心できないと思うんです」
きちんとしたところに保管しておくべきである。
金庫があったとしても、安心できそうにない。
「ああ、それなら大丈夫だ。普段は、我にしか扱えない、まあ正確にはエルフにしか扱えない収納箱にしまっておくからな」
安心させるように微笑んで、セリスはうなずいた。
「もしかして、それも魔道具ですか?」
「そうだ。これもあやつが考えた鍵の仕組みを使っておる。何と言ったか……魔力キイ、だったかな。エルフ専用だが、個人が設定できる故、貴重品を片付けておくのにちょうどいいのだよ」
まさかのキーレスシステムで、個人の特定は魔力で行うようだ。
「すごいですね……。それなら、先に片づけておいてください。主に僕の心の安寧のために」
カイが頼むと、セリスは手の中の金貨を見た。
「しかし、カイに支払いをせねばならん」
「あ、はい。えっと、今回は金貨で七枚いただきます。本体の修理が金貨二枚で、宝石の方が五枚です」
「わかった。七枚だな」
セリスは、手の中から数えて取った金貨をカイに手渡した。
金貨を握ったカイは、向こうに見える箱を見た。
「確かに、ありがとうございます。そしてできるだけ早く金庫に入れてください」
頼み込むように言ったカイに、苦笑を向けたセリスはうなずいた。
「わかったわかった。あちらに置いてあるから、箱ごと入れてくる。少し待ってくれ」
「お願いします」
「あ、重いなら手伝います」
財布代わりの巾着に金貨をしまい込んだカイは、慌てて立ち上がった。
「それは助かる。運び込むのも、持って来てくれた商人に手伝ってもらったのだよ」
「ですよね。こちら側を持ちます」
箱は大きめの段ボールサイズで、見ただけでも重そうだ。
「では、持ち上げるぞ」
「はい。せえの!」
「ふっ」
持ち上げた箱は、予想通りものすごく重かった。
「あっちだ」
「はいっ!」
落とさないように慎重に別の部屋へ移動し、宝箱のようなデザインの箱にゆっくりと下ろした。
ゲームなどで見たことのある、上の蓋が丸くなっている箱だ。
角には、補強のためか金属が使われている。
「よし。これで蓋を閉めれば勝手に鍵がかかる」
セリスがゆっくりと蓋を閉めると、小さくカチリと音が鳴った。
「これで一安心です。でもセリスさん、大金があることはあまり言わない方が良いと思います」
カイが少し遠慮しながら言うと、セリスは一拍考えてからうなずいた。
「……村の人たちは善性の強い者ばかりだと思うが、この村には冒険者もそれなりに訪れるしな。街道を通る馬車も少なくない。気を付けるに越したことはないか」
世間知らずなようだが、やはり長年の経験で色々と見てきたのだろう。
セリスは納得してくれたようだった。
「はい、そうしてください。冒険者ギルドに登録があるなら、ギルドに預けてしまうという手もあるんですが」
冒険者ギルドは、大陸中のギルドで情報を共有していて、銀行のような役割も果たしている。
カイも、以前アウレリアから受け取った分はギルドに預けてあった。
「冒険者ギルドか。気づいたら仕組みが変わっているから、あまり使おうと思わなんだ。この箱で充分だと思う」
エルフはほとんど村から出ないというし、そもそもエルフが所属することは想定されていないだろう。
長命種であることを考えると、ギルドの仕組みは合わないかもしれない。
「ちょっと失礼しますね。『故障品再生』……あ、これは安全です。ほかの人が下手に開けようとしたら、仕込んである剣が飛び出して攻撃します。しかも、何種類も準備されていますね。いや攻撃的すぎますよこれ」
カイは、内部の仕組みを確認するためにスキルで見た。
内部の金属の部品には、しっかりと春人のサインが刻印されていた。
「ほう。我は攻撃したところは見たことがなかった。ハルトめ、我には黙っていたとみえる。まあ、それならここに入れておけば大丈夫だろう」
「はい」
セリスは、攻撃機構があることは知らなかったようだ。
なんというか、セリスらしい。




