第69話 「ねぇカイ、代わりに聞いて?」
セリスは、アウレリアたちと同じように、村の空き家を借りている。
日中は魔物のいる森に行くことも多いそうだが、それ以外は村の周辺で過ごしているそうだ。
「ねえカイにいちゃん。あのエルフの人と知り合いって本当?」
カイが村をのんびり歩いていると、子どもたちが寄ってきて、オスカーにそう質問された。
アウレリアたちのときは遠巻きながらキラキラした憧れの視線を寄せていたのだが、今回は興味はあるものの近寄りがたいと感じているらしい。
「僕も村に来て初めて会ったよ。セリスさんっていうんだ」
「セリスさん……。エルフってよくわかんないし、あんまり綺麗だし、ぼくたちが話しかけていいのかわかんないの」
オスカーが言うと、周りの子どもたちが彼の後ろに集まってくっつき、同意するようにうなずいた。
とてもかわいい。
「別にセリスさんは気にしないと思うよ。確かにエルフだけど、言葉は通じるし普通に話もできる。何か聞いてみたいの?」
カイが質問すると、子どもたちはお互いの顔を見合って牽制し合い、結局オスカーが押し出されて口を開いた。
「えっとね、エルフの森ってどこにあるのかなって。あと、エルフってとっても長生きっていうからどれくらいなのかと、お耳を見せてほしいのと、植物の声が聞こえるって本当なのかと、どうしてこの村に来たのかと、それからお肉を食べないのかと、――」
オスカーは、指を折りながら順番に質問を並べていった。
随分と聞きたいことがあるらしい。
ふむふむとうなずいたカイは、「ほかにも聞きたいことあったっけ?」と首をひねる子どもたちに笑顔を向けた。
「ちゃんと答えてくれると思うよ。今ちょうどこっちに来るみたいだし、質問してみたらどうかな」
そう言うと、子どもたちは慌てて後ろを振り返った。
ちょうど、アウレリアたちとセリスが、川の方からこちらに来るのが見えた。
魔物の森に、トレントの様子を見に行った帰りのようだ。
どうやら魔物と戦ったのだろう、エーミールの鎧が土で汚れていて、アウレリアも頬に軽く傷を作っていた。
セリスは、慌てることなくゆったりと歩いている。
「え、どうしようどうしよう」
「こっちに来るよ!」
「ほら、聞いてみて!」
「無理だよぅ。ねぇカイ、代わりに聞いて?」
子どもたちは、セリスが来るのを見て急いでカイの後ろに逃げた。
全員が顔を覗かせているので、隠れられてはいない。
「大丈夫だから、自分で聞いてみるといいよ。そんなことで怒ったりしないし、セリスさんは優しいから安心して」
苦笑したカイが背中に向かってそう言うと、子どもたちはくっつきあったまま、おずおずと前に出てきた。
カイたちに気づいたセリスが、目元をやわらげた。
「やあ、カイ。今日は、子どもたちと一緒か?」
「こんにちは、セリスさん。ちょっと、子どもたちがセリスさんに聞きたいことがあるらしくて。お時間ありますか?」
団子状になった子どもたちが、期待する視線をセリスに向けているのがわかる。
その子どもたちに視線を向けたセリスは、目尻を下げた。
「愛いな。子どもはそこに在るだけで愛いものだが、この村の子どもたちはまっすぐで良い。我に聞きたいことがあるなら、答えよう。何でも答えるかはわからぬが、聞いてみてくれ」
慈愛すら感じる表情を向けられて、子どもたちは肩の力を抜いた。
「じゃあ、じゃあね、あのね――」
子どもたちは、わらわらとセリスを取り囲んだ。
もはや神々しいまである光景だ。
「じゃあセリス、私たちはこれで」
「ああ、また明後日頼む」
アウレリアが声をかけると、セリスは子どもたちの中心で軽く手を挙げた。
カイは、アウレリアたちに向き合った。
「お疲れ様です。戦闘されたようですが、お怪我はありませんか?」
「ああ、ちょっとトレントに近づきすぎてな。久しぶりにこのざまだ」
アウレリアが肩をすくめ、エーミールも苦笑してうなずいた。
「セリスが素材は燃やすなって言うから、ウチが全力で戦えなくってさぁ。でも火魔法の脅威は感じるんだろうね、ウチばっかり狙われて。エーミールの鎧はボコボコだしアウレリアの皮鎧は破れるし」
フィーネは眉と耳を下げてため息を吐いた。
「ライナーがいれば、もう少し早く気づいて避けれるんだがな。こればっかりは仕方ない」
そう言ったエーミールの鎧は、泥がついているだけではなくあちこち凹んでいた。
どうやら、かなり攻撃を受けたらしい。
「ご無事でよかったです。鎧や武器なら、僕が修理できますから」
見たところ、エーミールの盾や短剣、アウレリアのハルバードは何ともなさそうだ。
「助かる。鎧の修理を頼みたいんだが、カイはこの後どうするんだ?」
エーミールは、自分の鎧を見下ろしながら言った。
「今日は仕事もないので、買い物をしたら帰る予定でした。ご依頼なら、少し待ちますよ。ここから歩くと少し距離がありますし」
取りに来るのも面倒だし、かといって持って来てもらうのも気が引ける。
カイの提案に、エーミールは首を振った。
「いや、どうせ南の森に薪を取りに行くんだ。前を通るから、そのときに頼む」
「そうですか?ついでに寄っていただけるなら、持って来ていただけると助かります」
タンク役を担うエーミールの鎧は全身金属で、とても重そうだ。
もしカイが持って帰るなら、ヒルダに頼んで荷馬車を借りないといけなかっただろう。
「わかった。じゃあ、俺は後で持って行く」
「はい、お待ちしています」
うなずいたカイに向かって、アウレリアが腹のあたりで切れた皮鎧をぴらりとめくった。
切り口が鋭く、しかしアウレリアの腹筋だけが見えて傷は見当たらない。
カイは、さり気なく視線をずらした。
「カイ、私のこれも修理できないか?」
「あぁ、えっと……。経験上、皮鎧は服に分類されるらしくて、僕のスキルでは直せないみたいなんです」
どういうわけか、金属の鎧は扱えるのに、皮鎧はダメなのだ。
スキルがどういう認識をしているのか、洋服類はカイには修理できない。
「そうなのか。困ったな……。手入れはできるんだが、さすがに縫うことはできないんだ」
うーん、と腕を組んだアウレリアの言葉に、カイはふとひらめいた。
「あの、縫って直すなら、イーリスさんに頼んでみませんか?」
「イーリス?ああ、デニス村長の母君か。そういえば、縫製関係のスキルを持っているんだったな」
なるほど、とアウレリアはうなずいた。
「はい。良ければ、皮鎧を縫えるかどうか聞いてきますよ」
「そうだな。……いや、私も行こう。依頼できるなら、そのまま頼みたい」
カイとアウレリアは、エーミールとフィーネに別れを告げ、デニスの家に向かった。
少し離れたところでは、まだセリスが子どもたちに囲まれていた。
異文化を目の前にした子どもたちの興味は、尽きることがないようだ。




